無窓居室
2023-01-08 00:07:58
957文字
Public 名刺代わりの短編集Ⅰ
 

春の目覚め

ぬるすぎてカプ要素がよく分からない😈→👹と👦→👸。恋愛ものの書き方ぜんぜん分かりません。

 平穏な休みの日の昼下がりだった。いつものようにブラックはごく自然にさとしの部屋を訪れ、当たり前のように動画の編集を始めた。
 さとしに背を向けた位置関係にあるせいで表情は見えない。肩越しに目に入ったサムネイルに見覚えのある茜色の髪が並んでいたので、ふと気になっていたことを訊いてみた。

「ブラックってさ、アカネちゃんのことどう思ってるの?」

 キーボードを叩く音が止まり、ややあって平坦な返事がくる。

「どうして?」

 疑問で返されると思っていなかったさとしは返答につまった。どうして今、言おうと思ったのだろう?ちょうどゲームに飽きてきたところだったせいでもあるし、手つかずの宿題のことから考えを逸らせるためでもあるし、あまりに何の変哲もない午後に退屈したからかもしれない。

「アカネちゃんがさ、ブラックの恋人になることってあるのかな?」

 すぐに独り言だと言い訳できるように声を落として呟いてみた。ブラックの内心を聞き出そうとするのではなく、自然の成り行きを気にしている風を装うのがさとしにとっては精一杯の巧妙さだった。

「あの子が?……カカッ、冗談でしょう」

 ブラックが何の気もなさそうに口にした返事は妙にさとしの胸を打った。
 「あの子」という響きに含まれる、喉にまとわりつく粉薬のような甘さ。返された言葉の意味とは裏腹の、まるでいつでも手の内に収められるかのような物言い。子どもの脳裏にも連想される、かすかな独占欲。
 友達の見たことのない顔を見てしまったようでどぎまぎとする。
 ブラックが自分とは違う大人の男だったことを思い出した。万年を経ても滅びない彼の身があまりにも年上すぎて忘れていたのだ。

 さとしの動揺に気がつかないのか関心がないのか、ブラックは動画の編集を続けている。会話の印象はさとしの中だけに長く残った。
 自分だってひめちゃんのことを「あの子」と呼んだらどんな気分だろうとさとしは思う。

 それからしばらく、さとしは誰かがひめちゃんのことを自分に訊ねてこないかと待ちわびた。チャンスがあればすかさず言ってやるのに。うんとすました顔で、うまいこと。絶対に……

 そして数日で待ちくたびれて、それきりそのことは忘れてしまった。


 2023/01/08