まふか(CP向け)
2019-10-07 22:23:13
Public UndertaleAU
 

言えない

UNDERTALE AU swapfellRED/ドギラズ兄弟。雪の丘の上での話。長いです

 兄弟に、知ってほしいけれど、言えないことがある。
 

 
 地下の世界、雪がまみれた丘は次第に地下世界の空にまで届くようになる。地下世界の空。天井。その岩肌に氷の結晶が固まって、重たさでほどけるようにそれがおちて、雪が町にまで届くのだろうと、パピルスは言っていた。そうかもしれないな、と近くなった岩肌の空を見上げてサンズは思った。あたりは緩やかに勾配していて、ほとんど雪しかない。木もまばらに生えているけれど岩肌と似たように氷の結晶にまみれていて、樹氷と化していた。光がたくさん届いていたならきっともっと美しかっただろう。
 「まったくこんなところで………ぼくをひとりにするなんて、はあ、信じられないやつだな、もう
 サンズはぶつぶつと文句を言いながらも、消えない足跡を辿りながら、雪の丘の道を歩いていた。足取りはしっかりしている。意識もはっきりとしている。ただ左目にだけ、大きな傷を抱えていた。出血はほぼ止んでいるけれど、まだするりと流れ落ちてくることもあって、そのたびに忌々しそうに、そっと顔を拭った。
 
 人里モンスター達の住みか、よりも離れた場所には、バリアを通って中に入ったものの、外へ出られなくなってしまった地上の生き物が出没していた。人間とは違うくくりで、動物と呼ばれているものたち。地下の魔力にあてられてか、地上にいる個体よりも賢くなったり、狂暴になったりするのだとか。
 丘の麓で、サンズとパピルスの前に現れたのは後者のほうだった。四つ足の、犬によく似た生き物だった。狼、と呼ばれているらしい。現れたのは一頭だけだったので、退けるのは楽勝だとサンズは高をくくっていた。
 転んでしまって足を負傷したパピルスを背負っている状態だったとしても。
 
 
 
 両手は使えないし、素早くも動けないなら、向こうが向かってきたところに、頭突きを食らわしてやればいい。その作戦はうまくいったものの、狼のやたらと主張してくる歯とおもいっきりぶつかった。狼の牙の大きさも威力も、目をやられることも想定していなくて、まあ命はとられてはいないし、狼はきゃんきゃん言いながら丘の上へ逃げていったし、勉強にも経験にもなったしかまわないと思っていた。
 
 だけど、パピルスはサンズの傷を見て、叫んだ。
 絶叫して、サンズの肩を押して、振りほどいて、そのまま、狼の行った方向へ、走っていった。
 
 
 
 雪の道では足跡が残ってくれるからありがたい。それにしてもどこまで行ったんだろう。姿がまだ見えない。足を負傷していたはずなのに。
 めそめそしながら、大丈夫だから、大丈夫だからとパピルスは背負う前も背負ったあともずっと言っていた。だから大丈夫じゃないのはわかっていた。
 あんな足で走ったりして、歩けなくなったらどうするんだ。本当にばかなやつだなあもう。
 
 サンズはパピルスの兄弟で、とても彼のことをよく知っている。わからないことも多いけれど、それはお互い様なので文句に思うことでもない。
 狼のあとを追って、彼が何をするつもりなのかもよく分かっていた。
 「足を怪我してたって負けないんだろうけど」
 そういうときの彼の強さもよく知っていた。
 狼を六頭殺せるくらい強いというのも納得だった。
 
 
 
 「パピルス、もう何やってるんだよ」
 血の臭いがしているのは自分のものからだとずっと思っていたけれど、それだけじゃなかったようだった。樹氷はやたらと遠く離れて、少し向こうに小さな洞穴が見えた。狼の住みかだったのかもしれない。
 サンズが見つけたとき、パピルスは真っ白な丘にぺたんと座り込んでいて、そのままうずくまっていた。まわりには血を吹き出して絶命したらしき狼の死骸。六頭。
 家族だったのかもしれない。
 サンズが声をかけると、パピルスは肩を小さく震わせて、呻きはじめた。喉がすぼまっているような、窮屈な喉音。泣いている。パピルスが泣き虫なのもサンズはよくわかっている。彼は優しくて、本当は、生き物を殺すこともためらう気質であることも知っている。
 サンズは六つの骸を見やって、つぶやく。
 「地上の生き物って本当に、塵にならないんだな。不思議だな。眠っている感じじゃない。時間が止まったような、脱け殻、っていうのかな。そういう形容があったけど、確かにそんな感じだなあ
 パピルスが泣き出したので、とにかく話しかける。こういうとき、話題としてはいつも、目に映ったものについての話。地上の生き物の、死骸、というのも珍しくて新鮮でもあった。
 狼の死骸のひとつに、サンズが近づくと、パピルスががばっ、と上体を起こして、首を振った。サンズは歩みを止めて、パピルスを見る。
 「だめか?さわっちゃ」
 「だ、っ……
 ようやくパピルスと会話ができそうなので返事を待つ。
 「………ご、めっ、ろーど、うっ……お、おれ、………ごめ、んなさ、い」
 「そうだよ。ぼくを置いていったりして。お前のことはよくわかっているつもりだけどな、ぼくは怪我したんだぞ?介抱してくれたっていいのに。むせきにん。はくじょうもの。」
 パピルスは泣きながら、血まみれの手で顔をひたすら拭っていた。パピルス自身には狼に傷をつけられたような痕跡は無さそうで、サンズは容赦なく文句を言いながらも、安堵していた。
 「ほら、足は痛いんだろ。またおぶってやる。しょうがないからな。パピルス」
 いつもの調子で話しかけながら、ゆっくりとパピルスに歩み寄る。するとパピルスが両手をサンズの前に突きだした。
 「なんだよパピルス」「き、………こ、ないで………
 
 
 
 パピルスのやつ、拒絶してきた。
 「なんだって?」
 「お、………おれ、さ、…………さいてい、だ、よ………ロード」
 「だから?」
 「さ、さ………さわら、ないほうが……いいよ……こんな、………こんなやつ………
 「………
 ああ、もう。
 またこんなことを言う。
 パピルスはうつむいて、震えながら、肩を抱きながら、泣いている。
 わかってないんだろうな。
 そういうこと言われるとぼくも、背中も肩も震えるのに。泣きそうになるのに。腹もたってくる。だけどぼくが、泣いたりしたら、叫んだりしたら、ほかには誰も助けてくれない。
 ぼくのこともパピルスのことも誰も助けてくれない!!
 だから息を、何度か静かに吸って吐いて、頭にかかりそうになってた白い景色を振り払う。
 ぼくはパピルスを、助けないと、いけないんだから。
 
 
 
 「最低………、確かにお前は最低だなパピルス」
 サンズは狼の死骸を確かめるように眺めながら言った。
 「ぼくに傷をつけたのは一頭なのに、関係ないやつのことまで殺してさ。一頭ひときわ小さいのもいるよな。本当に、最低だよパピルス」
 パピルスはなんとか抑えるようにしながらも、両手で顔を包んで嗚咽をこぼしはじめた。パピルスは自分が何をしたのかよくわかっている。サンズはあえて言葉にした。
 パピルスの目の前まで行って、かがんで、目の高さを合わせる。両手を取ると、パピルスは半分わめくような泣き声を出しはじめた。
 「パピルス。ほら、ぼくの顔を見ろ。見たくないだろ?だから見ろ。わるものなんだからなお前は」
 サンズに容赦は無い。今までだってこういう状態のパピルスと接するためには強引になるしかなかった。パピルスは、優しくてそれゆえに、いつもいつも泣いている。泣き止むのをいつも、待ってはやれない。
 「う、うっ………うう、ごめんなさい、ごめんなさい、ロード………全部ぜんぶ、おれが、おれのせいで」「そうだよ。よくわかってるよな。」
 パピルスの両目から涙がしとどに溢れていて、顔についた血がぽろぽろと流されている。サンズの顔には大きい傷が走っていて、傷痕はおそらくずっと残るのだろう。お互い、その顔をはっきりと目にした。
 「パピルス。よく聞くんだ。ぼくを見て」
 サンズはパピルスの両手をしっかりと握る。
 「お前は本当に、悪いやつだよ。ぼくに何かあったら一気に言うこと聞かなくなって、わるいやつらを手当たり次第殺しちゃうし、ぼくは怪我してたのにどっか行っちゃうし、関係ないやつのことも殺すし、お前の言う通り、最低だよな。」
 「
 パピルスはしゃくりあげながら、涙を延々とこぼしながら、だけど静かにサンズの話を聞いている。
 「だけどお前は自分のしたこと、よくわかってて、自分のことを絶対許したりしなくて……そうじゃなけりゃ、ぼくがお前のことを許してなかったよ」
 サンズはパピルスを、まっすぐと見る。
 「だから、お前がお前のことを許さないから、ぼくがお前のことを、許してやれる」
 
 「……
 パピルスは一度、ゆっくりと目をしばたかせて、サンズの目を見た。綺麗に残った右目はまっすぐにパピルスのことを見つめていて、虚構を口になどしていないことを物語っていた。
 パピルスの表情が少し穏やかなほうへ変わったのを見届けて、サンズは少しだけ視線を落とす。パピルスの首もとには、丈夫そうな大きい首輪があって、ネームタグが鈍く光っている。
 
 
 
 パピルスは繊細で、その上キャパシティが足りないほうだ。少なくともぼくより。それなのに自分自身だけじゃなく、世の中の、目にうつるすべての悲しみにも苦しみにも敏感で、目を背けようとしない。他人事にできない。そうやって、たまに何もかもに絶望して、爆発してしまって、他人を傷つけることに後悔するくせに暴力をふるう。ぼくはずっとこいつのこういうところを見てきた。
 ぼくはそんなパピルスを引っ付かんで引きずり落として、お前が大切にするのはお前と、ぼくだけでいい。ぼくがお前の、ロードだと。そう教え込んだ。こいつは世の中のことなんか見てたら絶対にもたない。二人分だけでいいだろ。パピルスのことだから、自分自身だけを大切になんかできない。だからぼくなんだ。
 自分自身と、ぼくと、ほんの少しのまわりの世界のことだけ目にしてるそれだけならきっと、こいつは生きていけるんだ。それを忘れさせないように、………ぼくも忘れないように、そうやってパピルスに首輪をかけた。犬というのは何があっったって主人のもとへ絶対帰ってくるんだそうだ。そう願いをこめた。
 
 ぼくがこんなふうに迎えにいかなくてもいいようにしてあげたい。


  
  
  
  
  サンズは、おれの、ロードは、とても頭が良い。
 おれと違って、要領が良い。
 おれはいつも彼に頼りきりだ。
 彼の正しさや、優しさに、いつも甘えている。
 おれにできることは彼を、どんなことがあっても、守ることだから、それができなかったら、おれにはなんにも無いよ。目の前が真っ暗になる。そうしていつも間違える。おれはどうしようもないやつなんだ。
 それでもロードはおれを見つけてくれる。どうしてだろう。おれを励まして優しい言葉をかけてくれる。おれの悲しみを酌んで、前向きになるような、救いになるような言葉を持ちかけてくれる。どうして。
どうして、おれを、見捨てないんだろう。どうしておれを、なんとか、立ち直らせようとしてくれるんだろう。


  
「どうし」

て、サンズは、
何?」
………おれを、み
……
見限らないの」

 なんてふざけたことを言うつもりなかったけど、おれは頭が緩いから、口から滑り出してしまった。
 ロードの鉄拳が飛んできた。
 彼はいつも正しい。

 



「お前みたいなばかなやつにそんなこと教えるもんか」
 サンズはパピルスの顔をごんと殴って、すっくと立ち上がって、パピルスを上から見据えながら言った。その表情は、先程までとはうって変わっていた。パピルスは痛みに唸りながらも頷いていた。
帰るぞ」
 半ばぶっきらぼうに、吐き捨てるように呟いて、パピルスを殴った方の手を、開いた手を差し出した。
 パピルスはそっと、その手を見る。少し、うろたえる。
「はやく!」
 サンズがつよく促すので、慌ててその手を取った。
「ああもう」
 パピルスの手を、しっかりと握り返して、サンズはぼやいた。
「やっと言うことをきいたな」
 





 狼たちには、サンズが全員に雪をかぶせていってくれた。パピルスは、サンズに言われるままにおぶわれて、二人は丘をゆっくりと降り始める。
 重たくないかな、顔の傷は痛くないかな、大丈夫かな、色々聞きたくても、きっと答えてくれないので、パピルスは黙りこむことにした。
 なんとなくわかっていた。
 優しいことを言われることより、許されたいということよりも、おれは殴られたかったんだなあって。


  
 ばかなことをしたから大切なひとに叱られたかったんだ。
 おれはどうしようもないやつだから、誰よりも、サンズに、罰されたかった。
 サンズがせっかく、優しいことを言ってくれるのに、それすら、受け止められないような。どうしようもない、やつだから。
 ほんとうは一番に、彼に、許されたくなかったんだ。
 そういうこと、言えない。おれを許してくれるひとに、言えない。おれを大切に、してくれるひとに言えない。だからほんとに、さっきは悪いことを言ってしまった。

「ロード」
「うるさい」
……ごめんなさい」
「もう聞いたよ。うるさい」






 どうして見限らないのかなんてこと言うなんて。ほんとうにどうしようもないやつだな。腹が立つ。ぼくがやってること言うこと考えてること全部無駄にしたいのかよ。実際、こいつはそういうところがある。ほんとうに腹が立つ。
 左目の傷がずきずきしだした。頭に血がのぼってるせい?考えたくないけど涙がこぼれてるせい?むかつく。
 自分のことを大切にしないパピルスのことが大嫌いなんだよ。
 そうやっていつか消えてしまいそうで嫌なんだよ。
 知らないんだろうか。
 大好きなのに。
 
 ぼくひとりでなんて生きていけないのに。




           





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