さちこ/Sharia
2023-12-16 14:53:44
1303文字
Public
 

母の無茶振り

暁月お得意様/アメリアンス

「シャリアさん、あなたさえ良ければ私のことはアメリーって呼んでくれないかしら」

作業をしている様子を見せてほしいと依頼人の目の前で細かく羽の付け根を削ったり、なれない金具をくっつけていたシャリアは、まさにその依頼人の衝撃の一言に目を剥いた。
アメリアンス・ルヴェユール。シャリアの相棒であるアルフィノと妹分のアリゼーの母親にして、このシャーレアンの有力議員・フルシュノ・ルヴェユールの奥方。
随分フレンドリーに接してくる人だと思ったが、まさか愛称呼びを提案してくるだなんて。

「あのね奥様、流石にいち旅人にそれはまずいと思……い、ます」
「あら、慣れない敬語も外してくれていいのよ? だって貴女の方が年上だというのに貴女の方が敬語というのもおかしな話だわ」

思わず苦虫を噛み潰したような顔を披露する。それはそうなのだが身分が違いすぎる。彼女が貴族相当であるのに対して、吟遊詩人かつ冒険者である自分はシャーレアンにおいて無職と同じなのだ。

「ねぇ、いいでしょう? 年上のお友達って憧れていたの」

持ち込んだトレーの上で作業するシャリアの正面で、双子とそっくりな顔でおねだりされる。それだけでこの光の戦士には特攻が入るのだ。だって可愛い妹弟分にはゲロ甘なのだから。
持ち込んだ素材の最後の一つである羽の先を切り落とし、金具を取り付け、ため息をついて。
女は観念した。

……アメリー。これでいい?」
「えぇ!」

満面の笑みを浮かべるアメリアンスに、シャリアは眉尻を下げて微笑んだ。

「ならわたしのこともシャリアでいいよ」
「じゃあシャリーって呼ぶわね」
「ん〜?なんだか急速に距離詰められた気がする」
「気のせいじゃないかしら」

まったく、はぐらかすところまで距離の詰め方が親子そっくりじゃないか。
アルフィノもイシュガルドに入国した途端に下の名前呼びになったし、アリゼーだって気づけば名前呼びになっていた。距離の詰め方が下手くそだ。

「じゃあこれ、今日の分ね」
「まぁ! もう終わってしまったのね。よかったらこのままお茶でもどうかしら」
「どうせ断っても引き留めるんでしょう? しょうがないわね」

なかなか強引なところがある人だ。間違いなく引き留めてくる。
使用人を呼んでお茶を用意させるあたり、やはり階級が違う人だという思考が頭をよぎる。これなら確かにアルフィノも薪拾いどころか野営もやったことがなかっただろう。クリスタルブレイブ時代にベッドが硬いと彼が文句を言っていたことを思い出す。

「で、アメリー。今日は何が聞きたいの?」
「そうね、あの子達から貴女の歌が素敵だって聞いたの。よかったら聞かせてくれないかしら」

お安いご用だ、と普段の服装を封じたソウルクリスタルを握り、着替える。
そうして弓だけを構え、フェイルノートのバラバラな位置にある弦を弾き、何を歌おうかと悩む。

「そうね、イシュガルドでできた友人の話でも歌いましょうか」

彼なら、自分とアルフィノの共通の友人だ。きっとアメリアンスも気にいる。
そう思い至り、吟遊詩人は客間にハープの音を響かせたのだった。