さちこ/Sharia
2023-12-16 14:53:02
1851文字
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平穏だった話

古代の話

そいつは小さくて、生意気で、剣の天才だった。

突然ヴェーネスが連れてきた成人したての少女。それが当代のアゼムだ。
例によってかなりのお転婆で、ヴェーネスを「せんせえ」と呼び慕い、勝手に飛び出し勝手に問題を解決して帰ってくる。
魔法の才はからっきしだが、その分武芸に優れている。腰に携えた双剣はいつも美しい燻し金が輝いており、いざそいつに弁論を仕掛ければその剣の鋒が相手の首へとすぐさま向くあたりそいつのアーモロート市民にあるまじき喧嘩っぱやさを表していた。

「どんなに口先で語り合ったとしても、結局本音はわからないもん。それなら最初っから剣を交えたほうがわかりやすいでしょ?」

何故か世話係のような位置に収まってしまった私にニパリと無邪気な笑みと共に脳みそが筋肉でできているような考えを披露したそいつに思わず拳骨をお見舞いしたのは、まぁ仕方がないだろう。

聞けばそいつは勝手にヴェーネスへついてきたらしい。
腰の剣の柄を握り、手合わせを強請ってきたという。そしてあまりの勢いに呑まれ、それに応えたヴェーネスが珍しく苦戦したそうで、彼女の興味を惹いた結果がこれだ。
こいつはとんでもない野生児だ。何度言っても仮面はつけないしフードもかぶらない。一度一生行儀学校にでも放り込むかとも考えたが、このバカが脱走しないわけがない。
最近は我慢してつけているようだが、それでも議事堂に着いた瞬間ぽいぽいと脱ぎ捨て走り出す。まるで幼児だと何度胃を痛めたことか。

そんなバカでも仕事はきっちりこなすのだから責めもできない。いや、アレは仕事という名の趣味か。
各地を飛び回り厄介ごとを解決し、スッキリした顔でヒュトロダエウスの懐に飛び込む姿は、成人しているとは思えないほど幼い。あとヒュトロダエウスは「お兄ちゃん」なのに何故私は「オジサン」なのだ。そこら辺も全くもって気に入らない。
ヴェーネスのことも最初は「オバサン」と呼んでいたようで。全力で叩き潰しにかかったのにギリギリ打ち負けたというのだから、本当にこのバカはとんでもない武芸の才を秘めているのだろう。

「エリディブス、次は西洋諸島の方行ってみない?」
「書類仕事が片付いたらいいよ」
「えぇーっ!?調停者の書類とか一生減らないやつじゃん! おいしいハーブティーが名産なのに〜っ」
「ふふ、僕を舐めてもらっちゃ困るよ。速攻で終わらせる」
「おぉ……びっくりするくらいたのもし……

そんなアゼムがほんの少しだけ大人しくなったのは、エリディブスが代替わりしてからだ。
どうやらエリディブスはコイツよりも年下らしく、初めて弟ができたかのように可愛がっていた。彼にも彼の責務があるというのに外へと連れ回し、一緒に“冒険”しているのだとか。
またアゼムは自分の方が年上だとお姉さんぶっているが、実際面倒を見ているのはエリディブスの方だろう。いつも仕方ないなと言いながら振り回されてくれる事実に感謝を覚えるべきだ。

「ねぇねぇ、早くご飯食べに行こう!!」
「その前にきちんと仮面をつけなさい、アゼム」
「襟元も崩れてるわよ」
「お前ももう成人して数年だろう。少しくらい身だしなみをだな」
「堅苦しいからイヤ!」

イゲオルムは私の次によくアゼムの面倒を見ていた。
やはり同性同士は話しやすいのか、アイツはミトロンとアログリフにもよく懐き、会議が終われば真っ先に三人の元へと走っていく。まさに末っ子気質だ。
が、たまに急ブレーキをかけて、その紫水晶のような瞳をぱっちりと開き、私を見上げてニパリと笑う。

「オジサン! わたしそのまんまちょっと南半島の方に行ってくるね」
「座で呼べ馬鹿。……気をつけて行けよ」
「はぁいハーデス」
「座・名・で・呼・べ」

年頃の少女らしくケタケタと笑い、軽やかに行ってきますと元気に返事をした後はそのまま旅立ちだ。
別に私の家に居候しているわけでもないくせに、律儀に行き先を告げて挨拶してから、アゼムは旅立つ。
またはしたなくローブの袖を雑に捲り、細い足を曝け出しながらヒュトロダエウスに作ってもらったらしい飛行具で議事堂の外へと一気に飛び出したアイツを見送り、小さくため息をついた。

どうもアイツの旅立つ姿は不安になる。
そのまま飛び立って、一生帰ってこないような気がしてならないのだ。







「エメトセルク!!! 財布忘れた!!!!」
「本っっっ当にいい加減にしろ馬鹿アゼム!!!」