さちこ/Sharia
2023-12-16 14:49:46
2227文字
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泥酔馬鹿ウサギ

6.5後

……まったく、君という人は……

異界ヴォイドからの危機が去ったその日の夜、アルフィノは酔っ払った英雄を発見した。自室が久々すぎて眠れないからと散歩に出れば、エーテライト・プラザにあるベンチでぐっすり寝こけていたのだ。
自分が酒に弱いというのを忘れたのだろうか。顔は真っ赤っかだし、いつもの太陽のような香りは酒のそれで上書きされてしまっている。唯一変わらないのは、気の抜けたふにゃふにゃな寝顔だろうか。

……ぜろ……ぜったい……また、会いに……

へにゃりとただでさえ緩んでいたシャリアの顔がさらに緩む。大切に握っているのは、闇色の小さなクリスタルがあしらわれた、可愛らしいブレスレットだ。

そういえば、ガレマルドからの帰り道で彼女とゼロが第一世界へ行き、リーンからの助言で互いのエーテルを込めたクリスタルのアクセサリーを交換していたと聞いた。
……ということは、これはゼロの……

……

少しだけ心の隅に沸いた感情に驚き、アルフィノは目を見開いて胸に手を当てた。
いやいや、彼女達は同性同士だ。きっと友情の証でコレを……

……んん、アル……?」
……おはよう、シャリア。こんなところで寝ては風邪をひいてしまうよ」

半分寝ぼけて己の愛称を読んだ英雄に、アルフィノは表情を取り繕って笑いかける。
さすがは冒険者というべきか。スッと体を起こし、3回目を擦って頬を叩けば、まだ頬は赤いもののキリッとしたいつもの顔へと早変わりする。
そして冷静に思考を回し、これまでの経緯を思い出した。

「たしかわたし、ラザハンの宴に行ってて……酔っ払ってテレポでもしちゃったかな」
「そういえば行くと言っていたね。楽しかったかい?」

彼女はうん、と子供のような返事で頷く。
そしてコンコンと己の隣をノックする。昔から変わらない、隣に座れの合図だ。
遠慮なくちょこんと座り、被ってきた毛布を薄着の彼女にそっと被せる。タタルから贈られたそれなりに厚着の“英雄衣装”はすっかり脱ぎ捨て、いつもの灰色の見慣れた旅装に早変わりしていたからだ。
彼女曰く「何か倒すぞ!って時に着るの。タタルはもちろん、みんなの気持ちを背負えるくらいの気合が入るからね」とのことだ。確かにあの重厚感ある衣装を着ている時だけは、破天荒な性格が鳴りを潜めているような。

……とにかく。熱帯雨林の中にあるラザハンならともかく、北地であるシャーレアンの夜は冷えるのだから、そんな胸元の空いた服は良くない。寒いのは慣れてるなどとほざいているが、アルフィノは遠慮されかけた毛布で容赦なく英雄の毛布巻きを作り上げた。

「あつい!」
「暑くて結構。少なくともこれで風邪は引かないね」
「バカは風邪ひかないっていうでしょ」
「君は馬鹿ではないだろうに」

ルヴェユール家の高級毛布でぐるぐる巻きになったシャリアは、その長い足をきゅ、と縮こめ、じぃとアルフィノを睨みつける。
そんな様子に満足したのか、暁の少年はニコニコ笑って英雄にもたれかかった。

「どうせなら、うちに泊まっていくといい」
「やだ。ナップルーム貸してもらうもん。これも返す」

つんとそっぽを向いた英雄の、毛布から唯一出ている手をするりと撫で、少年は甘えるように額を擦り付ける。ぴくりと反応した彼女の手に己の指を絡め、逃がすものかと握りしめる。

「もう1時だ。オジカさんも寝ているんじゃないかな」
……野宿」
「ダメだ。許さない」
「ぐ……あ、アンタの家だって、使用人さんはもう寝てるでしょう」
「私の部屋は嫌かい?」
「ダメに決まってるでしょ!? も、もっかいテレポ!……あ、やば……

先ほどとは正反対に、シャリアの顔はどんどん焦りで青くなっていく。飲み過ぎた時に備えてお金はリテイナーに預けて必要最低限しか持ってきていなかったのを忘れていた。手持ちは172ギルである。
しかし、だって。この少年は修羅場を共にくぐった相棒とはいえ16の少年なのだ。92歳のお婆さんである己が彼の部屋で一晩過ごすなどあってはならない事だ。年齢的にも、身分的にも。
それに。

「さっきから手つきが怪しいのよ、こンのマセガキっ」
「おや」

先程からするりするりと弓だこだらけの手を撫でる少年の手をぐっと押し退け、自身の体から剥ぎ取った毛布を押し付けた。
しかし同時にひゅう、と北国の冷たい潮風がシャリアの体を打ち付ける。先程まで温かいものに包まれていた反動か、体が震え全身に鳥肌が立ち上がった。

「ほら、やっぱり寒いんじゃないか」

ぐるぐると毛布をポンチョのように巻き付けられ、指を絡め取られ。英雄は80も年下の少年に手を引かれて夜中の知の都を歩く羽目になった。
末端冷え性の己とは違い、ほかほかとした手のひらはじんわりと冷え切った指先を温めていく。

「キミだって寒いの苦手なクセに」
「少しくらい平気さ」

どうやら諦めたのか、少しだけ重かったシャリアの足取りが僅かに軽くなる。バレエブーツの骨組みだけ残したような靴が心地いい音をコツコツ鳴らして、少年の後を追い続けていた。

「君がいるなら、今夜はぐっすり眠れそうだね」
「はいはい……寝かしつけてあげるわよ、坊ちゃん」


部屋についてからもベッドで一緒に寝るか論争が巻き起こったが、結果は……翌朝ルヴェユール家中に響き渡ったアリゼーの叫びが物語っているだろう。