さちこ/Sharia
2023-12-16 14:48:54
1170文字
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詩人の弔い

4.0後

「君は、泣かなかったね」

湯たんぽがわりにちょうどいいと疲労で寝こけてしまったタタルを抱える英雄に、アルフィノは一つぽつりとこぼした。
彼女はその長いまつ毛をぱちくりと動かし、クスリと笑う。

「アルフィノ、泣きっぱなしだったもんね。顔、まだ真っ赤っかよ」
「う……私のことはいいから! 君のことを言ってるんだよ」

ドラヴァニアの雪を慣れたように上から踏みつけ、二人は歩く。
そしてしばらくした後、シャリアは優しく微笑み空を見上げる。

「だって、約束したもの。この戦争が終わって、世界を旅して……その話を詩にして聴かせるって」

相手がたとえ墓石であっても、その約束だけは守らねばならない。なら、自分に立ち止まっている暇などないのだ。
友を想うならば、泣いて立ち止まるよりも前へ進み、たまに戻って歌えばいい。
そうしてどんどん距離を伸ばして……いずれはこの世界をまるっと歌にして、君に聴かせよう。

「勿論、きみも題材集めには付き合ってよね。世間知らずのお坊ちゃんに世界を見せるいい機会だし?」
「だから坊ちゃんはやめてくれ……だけど、そうだね。暁を立て直したら、一緒に探しに行こうか」

その言葉に、竜詩戦争を戦い抜いた吟遊詩人は一度驚くように目を見開いた。
そしてニパリと子供っぽい最高の笑顔を、傍で共に生きた少年へと向けるのであった。












「はい、これお土産」

冷たい雪の上にしゃがみ込み 、“解放者”はひとつ桜の枝を石の上にぽんと置く。彼女の第二の故郷と言っても過言ではないドマの国から、一本だけ手折ってきたものだ。
ヤ・シュトラに保護の呪文をかけてもらったから、しばらくは持つはず。彼女はそう自分に言い聞かせ、動かないようにとそこら辺の雪の下から掘り出した石を載せる。

「あんた、わたしの話聞きたがってたもんね。たっぷり話してやるから覚悟しなさい」

女はニィと笑って、まずはクガネだと墓石にもたれてハープを弾く。
しかし数弦弾いた後、そのメロディは止まり、女の考え込むような声が風に乗って周囲に響く。

……そうね、どう歌ったものかしら」
「クガネから早速色々あったからね。一曲に纏めるのは難しいと思うよ」

さく、と雪を踏み締めてやってきたアルフィノはそう告げて、こちらはアラミゴで取れる花を中心とした花束を桜の枝の隣へ置いた。

「それもそうよね……うーん、どうしよ。ね、一緒に考えてよ」
「歌詞を作るのは君の方が上手いと思うけど……そうだね、一緒に整理しようか」

解放者の隣に、暁の少年はそっと腰掛けた。
あの時は焦った。あの時は楽しかった。
そんなことを笑いながら話すうちに、詩人の指は動き始める。


その日のドラヴァニア上空には、穏やかな笑い声と、優しい歌声が響いたのだった。