さちこ/Sharia
2023-12-16 14:48:23
1196文字
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婆と小娘

5.3後


こちらがご老人と呼べば小娘と返ってくる
名を呼べば、同じように己の名が返ってくる。
戦場で肩を並べれば、不敵な笑みを浮かべた彼女が息をしっかり合わせてくれる。
調べ物の時はまるで使い物にならないけれど。

この関係性はなんと名づければ良いのだろうか。ヤ・シュトラは、第一世界でかの英雄と再会してからずっと考えていた。
何度か酒は一緒に飲んだのだ。その時も煽れば口喧嘩になるし、気の合う話題なら仲良くできる。
友と呼ぶべきなのだろうか。それにしては近すぎる。
親友と呼ぶべきなのだろうか。それにしては遠すぎる。

「これ今月の分ね」
「あら、あの子も毎月送ってこなくていいのだけれど」
「愛されてるってことじゃん」

第一世界に残してきた子達からの手紙。近況が書かれたそれを、ヤ・シュトラの様子を見るついでに持ってくる。
基本手紙だけれど、たまに箱が届くし、その中には第一世界にしかないものもいろいろ入っている。その時の手紙によると、どうやら今目の前でニコニコしている英雄のアドバイスを受けたらしかった。

……ねぇ、シャリア」
「なぁに、シュトラ」

頬杖をついて、彼女は優しく目を細めて、慈愛を込めた言葉を紡ぐ。
……こういう時の彼女は苦手だ。なんだか見透かされるほうな、ソワソワと尻尾が落ち着かないような、妙な気分になる。
この視線を感じるようになったのはいつからだっただろうか。ヤ・シュトラの記憶の限りでは、ドマで活動し始めた頃だったような。

「あなた、初めて出会った時から随分変わったわね」
「そう?……まぁ、そうかも。あの頃は余裕なかったし」

自分よりも何倍も長生きしている目の前のうさぎは、右耳を一度ぴるっと動かす。92年もの歳月を過ごしたこの人に、今の自分たちはどう見えているのだろうか。

ヴィエラは200から250の間に、ようやく老化が始まるという。
これから自分たちが歳をとり、壮年から老年にかけて変化していっても、この人だけはずっと変わらないままなのだ。
それは酷く……寂しい事なのではないだろうか。

「あっまたなんか難しいこと考えてる。眉間にシワ寄ってるよ、子猫」

ヤ・シュトラの眉間に、英雄はえいと指を突き立て、シワを伸ばすようにグリグリ動かす。

「せっかく綺麗な顔してるんだから、あんまりシワ作るような真似しちゃダーメ」

驚き目を見開いたヤ・シュトラを見て、シャリアはにぱりと笑う。

「知ってた?きみって笑顔が似合うのよ。浮かべるならシワじゃなくてそっちにしときなさい」

数秒、沈黙。
再起動したヤ・シュトラは、思わず手で顔を覆って、指の隙間から微笑みこちらを見る彼の英雄を睨みつけた。

…………本当にあなたって人は…………
「えっ?わたしなんかまずいことした!?ちょっとシュトラ!」

これだからこの人は、人たらしと呼ばれるのだ。