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吾妻
2023-08-28 23:21:14
3131文字
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GOD EATER
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8月28日/午前0時
■ソーマさんお誕生日おめでとうございます! いつもと代わり映えなくイチャイチャしているだけですが、お祝いの気持ちは籠もっています。ソーマさんの幸せをいつも祈ってる……
インターホンに応じて私室の扉を開けた瞬間、ぱん、と乾いた破裂音と共に、色とりどりの紙テープが頭上から降り注いだ。
頭に引っかかって視界を邪魔する細い紐を鬱陶しげに眺めつつ、ソーマ・シックザールは来訪者に向き直る。
「
……
なんだ、それは?」
「えっ? クラッカー、今年はお掃除の手間がかからないように飛び散らないタイプにしたんだけど、ダメだった? 音もそんなに大きく鳴らないハズなんだけど
……
」
鳴らし終えたクラッカーを片手に立っているのは、本来ここにいるはずのない人物だった。例によって例のごとく、世界各地を転戦しているはずの、元第一部隊隊長の月城ルイは、クラッカーから伸びている縮れた紙テープを神妙な面持ちで見つめている。
確かに、去年は紙吹雪が飛び散るタイプだったので後始末に手間取ってしまい、やらかした本人もしょげていた。反省がきちんと翌年に活かされているのは成長の証と言えるだろう。
「
……
そっちじゃねぇ」
だが、問題はそこではない。
仏頂面のままでソーマが告げると、ルイは得心がいかないといった様子で首をかしげた。
「聞きたいことは山程あるが
……
」
腕輪がついていない方の腕を捕まえて、ソーマは数カ月ぶりに顔を合わせた恋人を私室に引っ張り込んだ。入り口の扉が横滑りに閉まる音を聞きながら、決して広いとは言い難い私室を横切って、女をベッドに座らせる。戸惑ったままの細い肩を押して、仰向けに転がした。
「えっ、えっと、ソーマさんちょっと、今日はやけに大胆な
……
」
満更でもなさそうな声と顔をしているところ申し訳ないのだが、〝そういう〟つもりではないのだった。ベッドに膝を乗せるようにしてのしかかり、女の腹部を覆っている上着の裾を掴んで問答無用で捲くり上げた。
露わになった腹部は、清潔な包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「
……
お前」
普段は周りがどれだけ言っても仕舞う素振りさえない腹部を、裾の長いパーカーで隠しているのはおかしいと思ったのだ。
「ち、違うの、これはちょっと、かすり傷というかなんというか
……
!」
「かすり傷の手当の仕方か、これが?」
傷の絶えない仕事ではあるので、かすり傷や軽度の打撲を負うのは日常茶飯事だ。だが、卓越した戦闘技術を有する彼女が、これほど大きな傷を負うのは珍しい。
そしてそれを隠したがっているということは、おそらく後ろめたい事情によって負った傷なのだろう。
たとえば、〝休みをもぎ取るために過密なスケジュールで討伐任務をこなす〟などの暴挙に出た場合
――
など。
根拠もないただの憶測だが、大して外れてはいないはずだ。ここ数年、彼女は激務の合間を縫ってアナグラに戻って来る。8月28日。ソーマの誕生日を祝うために、だ。
「
……
だって、どうしても今日、帰ってきたかったんだもん」
ルイは年甲斐もなく頬を膨らませながら、バツが悪そうに視線を逃がす。
「怪我をしてでもか? それで俺が喜ぶとでも?」
「うー
……
」
冷たく突き放すと、ルイは唸り声を上げたのちに大人しくなった。
月城ルイは、自己防衛本能が故障している。自分と他人を天秤に乗せたとき、あまりにもあっさりと他人を取ってしまう人間だ。
どれほど強かろうが、不死身でもなんでもない以上、死は突然牙を剥く。
だから、できる限り慎重に、安全に立ち回ってほしい。そんな願いを込めて、ソーマをはじめ旧第一部隊の面々は折に触れて口を酸っぱくして叱っているわけだ。
……
とはいえ、しゅんとされるとどうにも弱くて、ソーマはめくり上げたパーカーの裾を直すと、しょげている女の前髪をくしゃりと撫でた。
「ちゃんとメディカルチェックは受けてきたのか」
包帯は綺麗に巻かれていた。おそらくはプロの手による処置であり、ルイ本人が乱雑に行った応急手当ではなさそうだった。
ルイは小さく顎を引いてうなずくと、「向こうを発つ前に、ちゃんと検査してもらった」と、小さく答える。
「多分、数日で傷も消えるって
……
」
「
……
ならいい」
「
……
ごめんなさ
――
」
殊勝な謝罪を見事に遮って、きゅるる、と鳴り響いた音がある。
盛大に腹を鳴らした当の本人は、赤面して目を伏せた。
とにかくよく食べることで知られている元リーダーではあるものの、これだけ盛大な腹の虫は久しぶりに聞く。
「飯食ってねえのか」
「
……
だって急いでたからぁ」
久々の再会で、夜で、更にベッドの上。
これでもかというほどの色っぽいシチュエーションであるにも関わらず、交わされる会話には艶っぽさが微塵もない。
……
が。食欲の権化である彼女が、自分の誕生日を祝うために、食事すら度外視して駆けつけてくれたのは、こう、胸に来るものがある。
「別に、当日じゃなくたっていいだろうが。もっと余裕を持って休みを取れる日ならあっただろ」
この時間では、ラウンジも閉まっているはずだ。冷蔵庫の中身を思い出しつつ、ソーマはベッドを降りる。食料のストックがあっただろうか。
「でも、今日のために頑張ってきたんだよ。私にとってもご褒美だもん。どれだけ忙しくても、この日はソーマに会えるんだって思ったら、乗り越えられるっていうかぁ
……
」
若干拗ねた気配を残しつつ、ルイはベッドの上でごろりと寝返りを打った。
うう、とうめき声が続いたので、ソーマはベッドを振り返る。
「痛むのか?」
「
……
ううん、お腹すいただけ。朝から何も食べてなくって。
……
怒ってる?」
「お前の無茶にはな」
「
……
うん」
「誕生日だろうがなかろうが、お前に会いたくないわけがないだろ」
「
……
うん、
……
うん?」
話の流れが変わったのを察したのか、ルイが勢いよく跳ね起きた。きらきらと瞳を輝かせている彼女の様子を見て、ソーマはため息一つ、ベッドの傍に引き返した。
「祝うつもりがあるなら、万全の状態で戻ってこい」
再会をゴールに据えられては困る。
今日みたいに怪我をしていたり、過労で倒れられでもしたら、迂闊に手も出せない。ただでさえ、数ヶ月単位で顔を合わせないのがザラだというのに。
喜びと期待に、まるで尻尾でも振っている様子のルイに歩み寄り、金茶の髪を梳く。すると、待ち構えていたかのように、彼女はベッドの上に膝立ちになって勢いよく抱きついてきた。
「お誕生日おめでとう、ソーマ」
「
……
ああ」
自分の誕生日がめでたいものだとは、いつまで経っても思えない。
祝いの言葉をかけられても、何と答えていいものか、未だに悩んでしまう。
それでも、自分の生誕と生存を喜んでくれる誰かがいて、生まれ落ちた日を律儀に覚えて祝ってくれる仲間がいるのは、もしかしたら幸福というものなのかもしれない。
最近はやっと、そんなふうに考えられるようになった。
細い腰に腕を回して抱き返すと、胸元で「いたた
……
」とくぐもった声がした。
多少は色っぽい雰囲気になったのに、長続きしないやつだ。苦笑しつつ女の背をさすり、ソーマは。
「飯食って今日は大人しく寝ろ」
これ以上のスキンシップを望んでいるであろう恋人に、無情な通告をした。
案の定、腕の中から即座に「えー」というブーイングが上がったが、知るものか。無茶をしたお前が悪いのだ。
「
……
じゃあ、じゃあ、ちゅってするだけ」
自業自得だと言っているのに、諦めの悪い女が追い縋ってくる。
しっかりと反省をさせるならば、ここで突き放したほうがいいのはわかってはいるが。
期待に満ちた目で見上げられると、弱い。
結局抗いきれず、ソーマは身を屈め、女の唇にキスをした。
【終わり】
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