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吾妻
2023-07-24 20:39:21
4659文字
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GOD EATER
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あなたにくちづけ
GERくらいの季節感もズレているソマ主♀。ひたすらちゅっちゅしているだけの意味もオチもない話です。
コートを着ていないソーマは、いつもより少しだけ幼く見える。なぜだろう?
フードに覆われていない頭が綺麗な曲線を描いているのがはっきり見えるから? 普段は隠れている項や襟足が見えて、無防備に感じられるから? いくつか理由は思い浮かぶけど、それだけでもないような気がしてくる。
L字型のボックスソファの短辺側に座って、長辺側で難しそうな本を読んでいるソーマの横顔をじーっと見つめる。
びっくりするくらい綺麗な顔だな。出会った頃からそう思ってはいたけれど、周囲を威嚇してばかりだった頃よりは幾分か険が薄れて、生まれつきの造形のうつくしさが前面に出るようになってきたと思う。最近かけ始めるようになった眼鏡のレンズ越しに本のページに注がれる眼差しは、アラガミを前にしている時の荒々しさなんて微塵もなくて、ただただ静かで真っ直ぐだ。それから、薄くて形の良いくちびる
――
じっと観察していると、やがて深い深いため息の後で、ソーマが本をぱたんと閉じて引き抜いた眼鏡と一緒にローテーブルの上に置いてからこちらを見た。
「
……
さっきからなんだ、酔っ払い。忘年会だかなんだか知らねぇが、酒盛りから戻ってくるなりそんなところで寝こけやがって」
こんなことを言うとさらに叱られてしまいそうだけれど、ソーマに小言を言われるのは結構好きだったりする。いつもいつも、細かいところまで気遣ってくれて、無茶を嗜めてくれて、世話を焼いてくれる。怒鳴りつけるわけではない、どこか呆れたような声音も、それを紡ぐ唇も、全部全部好きで。
「目が覚めたんなら、水でも飲んでちゃんとベッドで寝
……
」
「きすしていい?」
「
……………………
は?」
酔っている。
たぶん、自分は酔っているんだろう。いつにも増して感情がストレートに膨らんで、うまく制御できない。でも、これは紛れもなく、わたしの本音で本心だ。なぜか今、無性にキスがしたくなった。他の誰でもなく、目の前にいるソーマと。
誰よりも繊細で警戒心が強いはずの彼が、一番のプライベートゾーンである自室に迎え入れてくれることも、外界と自分とを隔てるための防護服であるコートを脱いだ姿を当たり前のように見せてくることも、面倒な酔っ払いを気遣ってくれることも、全部全部嬉しくて、急に愛おしくてたまらなくなって。
「
……
いきなり、何
……
!」
「そーまときすしたい」
硬直からなんとか立ち直ったソーマが、極めて平静を取り繕おうとしながら言い返すのに、さらにかぶせて繰り返す。ソーマは再びぐっと押し黙った。
あきらかに動揺しているのが目に見えて、なんだか
――
胸がぎゅうっと締め付けられる心地がした。
いつも冷めた顔をして、俗世の由無し事なんて全然興味ありませんって顔をしているソーマがこんなふうに動揺するのは、少なくとも私を意識してくれているからで。
それって実は、とてもとても、すごいことなのではないか?
「
……
だめなの?」
私はソーマが一番大切で、辛い思いなんて少しもして欲しくないし、困らせたくもない
――
んだけど、今日はちょっとだけ、ワガママを言いたい気分になった。
酔っ払っているだけ
……
ではなく。しばらく遠征に出ていたから寂しかったとか、そういうのなんだろうか? 誰かに甘えたいとか、ひとりぼっちで寂しいとか、そういう感情とは無縁の生活を送ってきたからよくわからないな。
そもそも、誰かを好きになること自体初めてなので、そのあたりの感情が自分でもうまく把握できないのだ。
据わった目でじっと見つめて追撃をしたら、ソーマは照れ隠しをするようにアイスブルーの瞳を伏せて、
「
……
そうは、言ってねぇだろ」
と、歯切れの悪い言い方をした。
素直に「いいぞ」とか「来い」とか言えないタイプなのは百も承知だし。思いっきり意識しつつ戸惑っている姿が可愛くてゾクゾクしてしまう。
こんな純朴ないきものが、どうして私なんかに引っかかっちゃったかな。
いつか、もしかしたら、目が覚めて離れていってしまうかもしれない。それならそれで、仕方ないし。気が変わらないうちに、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
「
……
よいしょ」
じりじりとにじり寄って、身構えているソーマの膝の上に、乗り上げた。
突然膝に乗り上げられた方はと言うと、一瞬びくりとしたあとで、緊張と照れがない混ぜになったような表情でこちらを見上げてきた。見上げられることなんて滅多にないし、正直言ってその表情はただのご馳走にしか見えなかったので、首に腕を絡めて身をかがめ、コツンと額と額をぶつけた。
すぐ近くに、綺麗な青の瞳。
肌の色の関係で赤くなってるかはわからないけど、いつもより体温が高い
……
気がする。
そんな、取って食われるかもしれない、みたいな顔しないで欲しいな。私だって、誰彼構わずこんなことしてるわけじゃないんだよ。
「だーいすき」
とびきり甘い声で囁いてから、形の良い唇に自分のそれを重ね合わせた。
まずは軽く、ふれあうだけの。
次に、幾度かついばむように。
静まり返った室内に、微かなリップ音だけが響く。
(キス
……
なんて)
したいと思ったこと、なかったな。
だって、必要なかったし。無理矢理女を引き倒して好き勝手しようとする連中としたって、気持ち悪いだけ。そんな時間があるなら、さっさと突っ込んで終わりにしてくれたほうがよっぽどマシだった。
誰も優しいキスなんて、してくれなかったし。
それなのに、ソーマとはしたいって思うんだからよほど参っているんだな。
――
ソーマがかつての私のように、嫌だと思っていなければいいんだけど。舞い上がっているのが私だけだとしたら、ちょっぴり寂しいし。
唇だけでなく、頬や鼻先、眉間に。幾度もキスを落としていると、行き場なくソファの上に投げ出されていた男の右腕が、そっとこちらの腰に回ってきた。戸惑い混じりに抱き寄せられた瞬間、すべてを許されたような気がして、目眩がした。
伏せられた目元に押し当てていた唇を離すと、空いているもう片方の腕が私の項にかかって、引き寄せる。
さらに、男の唇が誘うように開くものだから、もう理性なんてどこかへ飛んでいってしまった。頭を引き寄せられるまま、ソーマの頬を両手で包み込んで、無防備な唇に噛み付いた。
戸惑いがちに開いた隙間から、舌先をするりと忍ばせる。自分のそれとは違う熱をとらえて、絡め、くすぐる。互いの唇のあわいで鳴る水音と、恐る恐る零れる吐息が淫靡な熱を醸し出す。
散々溶け合ったのちに離れた唇は、外気に触れてヒヤリと感じるほど濡れていて、最前までのくちづけがいかに濃密だったかを示しているようだった。あまりの充足感と、少しの酸素不足にぼーっとしていると、不意に首筋に他人の体温を感じた。
擦り付けられたのは、ソーマの額だった。
こちらの肩口に頭をもたげて、私の首筋に鼻先を擦り寄せるようにして。呼吸を整えようとしている。
(えーと
……
)
顔を見せてくれないので、なんだか急に不安になって、酔いも一気に冷めてしまった。
わたしって、いつもこう。ソーマは優しくて、いつもこっちを優先してくれるから、ついつい嬉しくなって飛びついて、困らせてしまう。
「
……
ごめんね、いやだった?」
特にソーマは、他人とのスキンシップに抵抗があるというのに、ぐいぐいと迫っていたら、そのうち愛想を尽かされてしまうかもしれない。
未だこちらの肩口に顔を埋めたままの恋人におずおずと詫びつつ、膝の上から降りようとしたら、腕輪のはまった男の腕が、ぐるりと腰の後ろに回ってきて、引き止められた。
「
……
そうじゃねぇ」
低く、唸るような声。焦燥と苛立ちが混ざり合っている。
「
……
嫌じゃねぇから、困ってるんだろ」
かすれた声とは裏腹に、こちらの腰を抱き寄せる腕の力は強かった。首筋にかかる吐息が妙に熱く感じられて、冷めたはずの酔いがぶり返してしまいそうだ。
あんまりにもときめきすぎて、ソーマの言葉の意味を直ぐには理解できなかった。だってそんな都合のいい話があると思う? 酔い潰れて夢でも見ているのかもしれない。そっちの方が納得しやすいもの。
「これ以上欲しがれば、いつかお前を
――
」
続く言葉はなかったけれど、なんとなく察しがついた。
自分の力や欲望が誰かを傷つけることを、ソーマは誰よりも恐れている。
だからこそ、他者と距離を置こうとするのだ。自ら望んで孤独になろうとする。
こんなにも優しくて、繊細で、臆病なのに。望まぬ荷物を山程持たされて、それでも必死に前に進もうとしているのに。ひとりでいていいはずなんかない。
肩口に預けられたままの頭をそっと片腕で抱きかかえて、すぐそばにある頬に自分のそれを擦り寄せた。
よく聞こえる耳に唇を寄せて、
「
……
わたしは、壊れたり、潰れたり、しないから」
きっぱりと告げると、背に回された腕に更に力が籠もった。
「だからもっと、欲しがってよ?」
続けて囁いたら、身構える気配があった。
すぐには無理な話だろうけれど。これまでの人生の大半を、他者と自分とを隔てて生きてきたのだし。生き方を変えるのは、容易いことじゃない。
こうしておとなしく、身を委ねてくれるようになっただけ大きな進歩だ。
「まぁ、ソーマが欲しがってくれなくても、わたしが飛びついていけばいいだけだ、し
……
?」
しんみりとした空気を変えようと、わざと脳天気な声を出したら、男の腕の力がすこしだけ緩んで、伏せられていた頭が動いた。
艷やかなプラチナブロンドの髪を揺らして、形の良い頭を持ち上げたソーマが、吐息が触れるほど近くからわたしを見つめた。
いつも、強い意思の光を宿している青い双眸には、羞恥と戸惑いが見て取れた。けれど、それ以上に
――
獲物を前にした獣じみた、獰猛な熱が揺れている。
食べられそうだ、と思った。
背筋をぞくりと、寒気にも似た高揚が這い登る。
肌を重ねる関係になっても、ソーマは強引に事を進めたりはしなかった。自分の中に息づく本能的な欲求を忌み嫌い、そしてそれが他人を傷つけるのをひどく恐れているように見えた。
それでも、本当に時折だけれど、強靭な理性を押しのけて、生きものとしての欲望が顔を覗かせることがある。
そんな夜は大概、普段のストイックさが嘘のように、足腰が立たなくなるくらいまで貪られる。
この体をとらえ、シーツに縫い付ける腕の力強さ。
首筋を食み、耐えかねたかのように歯を立ててくる唇の熱さ。
骨の髄まで喰らい尽くそうとする情欲のたかぶりを、誰よりもこの体が知っている。だからこそ。
これは、捕喰者の目だ。
今まさに、取って食われる瀬戸際にいる。
その事実に、わたしはめちゃくちゃ、興奮している。
下から伸ばされた大きな掌が、わたしの片頬を包んだ。親指の腹が、じれったいほどゆっくりと、唇のおもてをなぞっていく。その間も、鋭い眼差しに縫い留められて、目をそらせない。
欲しがってくれているんだと思うと、目眩がして、鼓動が早鐘のように鳴る。
向かい合う男の唇がうっすらと開かれる。噛みつかれる予兆に、こっちだって我慢の限界だった。喉を反らして下方からくちづけてくる恋人の唇に、待ち切れずに自分から噛み付いた。
【終わり】
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