吾妻
2023-04-11 12:35:29
2172文字
Public GOD EATER
 

運命を共に

GEシリーズのサントラサブスク解禁が嬉しくて、周年のお祝いとして書きました。
これからもGEでキャッキャしたいな!

 運命なんて信じたりするものか。
 世界は奇跡的な偶然の連なりでできている。
 そこに法則性や関連性を見出し、点を線でつなぐのは、古より人類が有する悪癖だ。
 アラガミの出現は、この星がそもそも備えていたアポトーシスの発露でしかない。それでも人は、自身の罪が招いた因果だと畏れ、嘆く。自らを脅かす細胞の群体を「カミ」と呼ぶのがいい証拠だ。まるで始めから、敵わぬ存在だと認めてしまっているかのように。
 かと思えば、霊長の長を自称して、己の生きる星の、滅びの定めに抗おうともがく。身のうちにバケモノの因子を組み込んでまで、絶滅の瀬戸際で血を流すことを『運命』だとうそぶくのだ。

 ソーマ・シックザールは『運命』という言葉が嫌いだった。
 自分の生まれを、来歴を、その一言で括られるのはごめんだった。
 アラガミと戦うためだけに生まれてきたのだと。それ以外に意味も価値もないのだと。知らしめられるようで。
 実際、自分にできることといえば神機を振るうことだけなのだから、意地と虚勢を張ってみせても、結局は敷かれたレールの上を歩いているようで、息をするだけでも苦しかった。
 極東支部に『新型』が配属されるまでは。


            *


《こちらアリサ。指定のポイントに到着しました。どうぞ》
 今では貫禄さえ感じさせるようになった同僚の連絡を、ソーマは黄昏の空母で聞いた。
 暗く澱んだ海面の涯に、かつて人々が希望と呼んだ人類の盾 エイジスの残骸を望みながら。
「こっちも指定位置で待機中だ。問題ない」
 無線に応答し、傍らに突き立てた白のバスターブレードを引き抜いた。先程から耳鳴りがする。
《こちらコウタ。防衛ラインの構築は完了。……つっても即席だから、ここまで攻め込まれないように頼むよ》
《久々の休暇で戻ったってのに、顔合わせるなり緊急任務にご招待とは。お前さんたちもちょっと見ないうちに人使いの荒さに磨きがかかっちまって……
 これから天敵と命のやり取りをしようという状況で、緊張感のない愚痴を混ぜ込んでくるのは、本日たまたま、偶然、タイミングよく、休暇のために遠征から戻った元元 ・・第一部隊隊長である。
《いくら出現ポイントが絞りきれないって言ったって、バラけすぎじゃないのかねぇ。こちとら『今日のお客さん』とは初対面なんだ。こっち来たら早めにフォロー頼むぜ》
 三年前までは、どんな難局でも弱音ひとつ吐かず、すべて自分でなんとかしようと背負い込んできた男の言とは思えなかった。そういう意味で、雨宮リンドウは最近、良くも悪くも『適当』になってきた。今更成長期もなかろうが、歓迎すべき変化ではある。
《でも、なんで今頃? ここ一、二年はほとんど現れてなかったのに?》
 リンドウと共に休暇に戻ってきた第一部隊隊長が、別ポイントから無線を飛ばしてくる。
 確かに偶然にしては出来すぎているのだ。
 クレイドルが発足し、旧第一部隊の面々がそれぞれ自身の道を歩み始めてからしばらく経つ。以前のように朝から晩まで顔を突き合わせることはおろか、極東を離れての活動も増えた。
 中でも元元 ・・の第一部隊長の二名は、遊撃隊として滅多にアナグラに戻らない。
 そんなふたりが、休暇に戻ってきているこのタイミングで。出現報告がめっきり途絶え、既に淘汰されたと思われていたとある『客』の反応が検知されるなんて。
 出来すぎている。
 まるで、運命のように。

(運命……か)
 耳鳴りが強くなってきた。
 鼓動が速く、重くなっていく。
 出現ポイントを絞り切れず、予測地点に戦力を分散しての作戦開始となった。個々人の練度が高く、各々が互いの思考や戦闘時の癖を熟知しているからこそ打てる博打だ。誰の持ち場に『客』が現れても、即座にフォローに回れる態勢は整っている。
 あとは誰がアタリを引くかの賭けだったが、運がいいのか悪いのか。
 口の端に、自嘲が浮かんだ。
 会いに来た ・・・・・のだとは、思わないけれど。

 刹那、澱んだ海面を割って、巨大な影がソーマの眼前に現れた。
 球体人形を思わせる細長い四肢に、美しい女の顔。そしてその背には、ソーマたちが背負い、掲げるエンブレムとよく似た、巨大な腕を持つ獣。
 妄執の成れの果て。その亡霊が、まだ彷徨っているとは恐れ入る。

《アルダノーヴァ堕天種の出現を確認! みなさん、ソーマさんの援護に向かってください!》
 間髪入れずにヒバリが的確な通達を飛ばす。バラバラに耳元に返る『了解』を聞きながら、ソーマは神機を構えた。

 『運命』という言葉が嫌いだった。
 自分の生まれを、来歴を、その一言で括られるのはごめんだった。
 アラガミと戦うためだけに生まれてきたのだと。それ以外に意味も価値もないのだと。知らしめられるようで。決められたレールの上を、歩かされているようで。
 けれど、今。
 決して認めたくなかった父の背を、追いかけている今では。
 自ら選んだ運命ならば、そこまで悪いものではない。
 奴らと出会って、そう思えるようになったのだ。

 理想を掲げ、運命を共に。
 たとえその先に、どれほどの苦難が待ち受けていようとも。


【終わり】