本丸から最寄りの魚屋に行く途中に、崩れかけた廃寺がある。それ自体は特に害はないのだが、前を通ると3回に1回ほどの割合で坊主が行き倒れているのが難であった。よりによって僧形では、見捨てるにはあまりに気不味い。
その坊主は倒れ込んで「うぅ、うぅ、」と呻き続け、声をかけると「茶……、茶を……」と縋ってくる。水筒を渡してやれば、犬猫の様に嗅いで、口も付けずに呻き続けるのだ。
それは、鶯丸と日向正宗が明日の江戸城ガサ入れ調査の物資買出しに出掛けて、帰りのことであった。行きにはいなかった坊主が、蹲っていた。
日向は呻く坊主に向けて水筒を差し出したが、例に漏れずに坊主はそれを拒否した。水筒の中身は梅昆布茶であった。
「どうしたらいいんだろうね……」
「……うん、これだな」
なにやらエコバッグをあさっていた鶯丸は、ペットボトルを一つ取り出して蓋を開け、廃寺と逆方向へと思いっきり放った。ペットボトルは中身をぶち撒けながら、茂みの中へと飛んだ。飛距離がすごい。
するとどうだろう。坊主が動いたのだ。四つ這いのままだというのに、すごい速さだった。ペットボトルに続いて、茂みへと消えていった。
「ええぇ……?」
困惑しきりの日向に、鶯丸は言った。
「なに、烏龍茶が欲しかったようだからな」
「あ!ああ、あれは呻き声じゃなくて!?」
それ以来、皆この廃寺の前を行く時は、大小様々なボトルの烏龍茶を持つこととなったのである。
なお、坊主が成仏する気配は、今のところ微塵も無い。
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