夜更け、除夜の鐘が鳴り響く。裏の山中の廃寺で、僧形のものたちが撞いているのだろう。本丸の彼方此方で親しいものが寄り集まり、呑んだり歌ったり食べたりなどして時が来るのを待っていた。
そして鐘が九十を超えた頃、皆がばらりばらりと玄関前へと向かった。玄関と門の間に雁首揃えてぞろりと並び、さにわを抱きかかえた加州清光がよっこいせと門を開けた。開けたそこには、五寸ほどの大きさの赤ベコがいた。皆、刀も刀でないものも一様に、感嘆の声を漏らす。なるほど、丑はこれなのか。
鐘が百八つ鳴り終え、待っていたとばかりにまだ閉まっていた玄関がガラリと開いた。出てきたのは、三寸ほどの大きさのゼンマイ鼠であった。車輪をキュイキュイと言わしながら、ゆっくりと門へと進む。皆、厳かに首を垂れた。加州清光がひとり、代表して「お勤めご苦労様でした」と礼を述べる。鼠は門を出て、新年の闇夜をずいずい進んで、やがて見えなくなった。
代わりに門前でぽつねんとする赤ベコに向かい、
「お前は自分では歩けないよね」
「ぼくがお連れします」
五虎退がそっと赤ベコを手に乗せて、ゆっくりと本丸へと進む。
玄関を通り抜けて、母屋の奥へと消えていく五虎退の背中を見送り終え、誰も彼もが息を吐いた。
「今年も無事に終わったな」
「干支の代替わりって、よく分かんないけど緊張するぅ〜」
「次って寅だろ?どうするんだ?虎が増える??」
「ま、なんとかなりますって」
ざわざわと雑談まじりに各々の部屋やら呑みの会場やらに戻っていく。
「明日っからも連隊戦と鍛刀だから、ちゃんと寝なよ!」
そう一応は声を張る加州清光に、はぁいと返しはするが、酒呑みどもは本当に分かっているのかいないのか。
腕の中の狸がキュイキュイと鳴くので、「あるじは十二支じゃないから、今のは出来ません。残念でしたー」と撫でてやり、今年も太平楽でいてね、と願うのであった。
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