狸本丸怪談~てのひらにのる程度の話・4~


七十七、肥前忠広

肥前忠広が戦場に行くと、およそ九割を超える率で拾い物に遭遇する。様々な矛盾を孕んだ言い回しだが、さあ拾えと言わんばかりに行く道のど真ん中に物があるのだから仕方がない。
そして肥前はそれを決して拾わない。
一瞥し、「あ?ごみじゃねーのか」と呟き、通り過ぎる。
あまつさえ、軽い物なら茂みに蹴っ飛ばしまでする。
たまたま同行していた太郎太刀は、「良い勘をしていますね」と感心していた。その時に蹴飛ばされた空箱は、茂みに落ちてぐちゃりと鳴った。まるでモツを投げ捨てたような音だった。
今日も肥前忠広は何も持ち帰らない。



七十八、南海太郎朝尊

一般的に言って、南海太郎朝尊と罠との関係は、件の特命調査の間だけの薄っぺらいものであるはずだった。彼は自称刀剣博士であって、罠博士ではない。
しかし、ここ備後国一七零番本丸内には、朝尊式の罠が多数設置されていた。これが守りの薄い場所やさにわの塒の周りにあるなら分かるのだが、押入れの壁や床の下の土の中、果ては厩の天井に貼り付けてある。鉄鼠や家鳴りだってもう少し常識的な場所を通る。
皆の無言の圧力に負けた肥前が訊いてみたが、「一体何が引っかかっているんだろうね?」と、作動した跡だけが残る罠をしげしげと見つめるのだった。



七十九、白山吉光

白山吉光が虚空をじっと見詰めている時は、政府との定期交信中である。通信そのものは肩の狐がしている筈で、白山まで他の挙動を止める必要は無いのだが、そこはある種の作法のようなものらしい。交信は夕方の五時に行われる。最近の報告内容は本丸の暮らしの様子らしい。福利厚生の改善に使われるそうだ。
さて、その通信に、時々妙な混線があると言う。
「別の本丸の私らしいのですが、」
ただ数字を読み上げるだけなのです。それも、一ずつ減っていく。
「一昨日、二十一に至りました」
これは、零になるとどうなるのでしょうか。