狸本丸怪談~啓蟄封じ~


啓蟄。地中に眠る蟲が目覚める時期。この蟲とは即ち蛙である。本丸三度目の春にして、秋田藤四郎が気付いた。
「そういえば、この本丸は中に蛙さんがいませんね?」
畑だって池だってあるのに、確かに本丸内で蛙を見たことがない。蛇だって狸だって狐だって虎だって鵺だっているのに。
「あー、そうえばそうだね。あるじ、なんか知ってる?」
加州清光が訊けば、四足もふもふは「きゅっ?」と鳴いて丸くなって寝てしまった。
……あるじ、また何か隠してる?」
おまえ、また人間と間違えて変なもの攫ってきてない!?と揺するが、見事な狸寝入りをつらぬいた。

後日、畑仕事の最中であった鶴丸国永と燭台切光忠の悲鳴が本丸中に響き渡った。畑の隅に壺が埋まっていたらしい。蛙がぎっしり詰まっており、さながら蠱毒のようであったそうだ。ただ素直に気持ち悪い。
本丸が上へ下へと大騒ぎする中、共犯の管狐がついに吐いた。
さにわの仕業であった。
蛙が何より嫌いなさにわは考えた。いかに奴らを瞬殺するかを。そこで思い付いてしまった。本丸中に潜む蛙をひとつの壺に入るよう化かし、その中で食わせ合い、残った一匹だけを始末すれば、蛙にほとんど接することなく仕留められる、と。
「だから!おまえが一番タチ悪いことするなってば!!」
加州の涙混じりの説教に、さにわは項垂れるだけであった。多分来年もやるだろう。