狸本丸怪談 ・鳥


「やっぱりこうなるよなぁ」
さして困ったようでもない調子で困ったようなことを言う鶴丸国永を、へし切長谷部は圧し斬りたくて仕方ない。周囲は見たこともない場所で、そもそもの遠征先に廃線の駅などある筈がない。掠れた駅名表示板には「きらぎ」という字が辛うじて見える。
いつもこうだ。鶴丸国永がいる時に呼び戻しの鳩を使うと、本丸に帰れない。聞いたこともない時代の見たこともない場所で散々さ迷って、お定まりの時間いっぱいになって強制送還されるまで、まともな場所には何処にも着かない。

せめて温泉郷とかに行けないものかと、燭台切光忠にボヤいたことがある。
すると燭台切は「鶯さんと行った時は、綺麗な梅林に茶席が設えてあったよ」と、首を傾げた。鶴丸以外でも鳩が仕事をしない事も初耳であったし、行先の雲泥の差に思わず天を仰いだ。顕現して三年、こんな装束を着ておいて、初めて「Jesus!!」と叫んでしまった。何故か三日月宗近が返事をした。

詮無き回想はさて置き、現状である。列車の来る気配のない線路の向こうからは、風に乗って祭囃子が掠れ掠れ聞こえてくる。明らかに関わりたく無いやつだな、と長谷部は頭痛を覚えた。長谷部とは反対に音の方を興味深げに見遣る鶴丸の首根っこを引っ掴み、長谷部はスラリと本体を抜いた。
「俺は、何がなんでも一刻も早く本丸に帰らねばならん!」
何故ならば、鳩に手紙が結わえてあったからだ。博多藤四郎の右上がりに角張った癖字で「今日の夕飯はモツ鍋たい!」と。
引きずられながら、鶴丸は呟く。
「そういうの、死亡フラグって言うんじゃないか?」
あと、俺は光坊のはらこ飯が食べたい。