備後国サーバー、一七零号本丸所属の山姥切国広の朝は忙しい。起床後はすぐに台所に赴き、真新しい塩を一升枡に山盛りにいただく。塩の種類にこだわりは無く、粗塩でも岩塩でも博多でも味の素でも特に問わない。歌仙兼定が塩を片付けながら「お手柔らかにしておやりよ」と見送ってくれた。
塩を持って、まずは表の門に行き、前日に置いた盛り塩が黒ずんでいるのを確認する。古い塩は投げ捨て、新しいものをこんもりと盛る。ついでに節分の豆撒きもかくやという勢いで、新しい塩を門から外に向けて撒く。日頃から、戦場で宗三左文字と投石王の座を争っているのは、伊達ではない。相州でも貞宗でも五条でもない。ましてや長船なんぞ以ての外だ。程よい運動に肩周りがすっきりしたところで、今度は裏門に回る。そして同じことを繰り返す。母屋に帰るついでに、門の脇にちょこんと積んである燭台切への贈り物を回収する。遠征で行く先々で道祖神に手作りずんだを供えて歩いたところ、古今東西全国津々浦々の名物が届くようになったらしい。21世紀ごろにあったという「ふるさと納税」というやつだろうか。確かにっかり青江が貰える地域もあったと聞く。なんにせよ、どうせ好かれるならそういう益のあるものが良い。山姥切なんぞ、背丈が八尺ほどある女に懸想されているのだ。その体格でただのストーカーにしておくのはもったいない。女子ならば薙刀がよかろう。今度、万屋あたりに行って一緒に見繕うといい。というのが、酒の席での長物連中からの有り難くないご注進だ。冗談じゃない。背後からの「ぽぽぽ……」と言う、なんとも悲しげな鳴き声が聞こえるが、そんなもの知るか。
贈り物を台所に届けてから広間に行くと、ちょうど良く朝餉が始まる。山伏国広と堀川国広の間に席を取って、山のような白米を静かに、しかし掃除機のごとき勢いで腹に納める。
「今日も来てたの?」
山姥切とは逆隣の和泉守兼定に茶を入れてやりながら、堀川が問うてきた。山姥切が答えるより先に、山伏が快活に笑った。
「本体で斬り捨てぬところが、兄弟の優しさであるな!」
「あ!ちょっと兄弟!それは僕のことを皮肉ってるのかな!?」
「カッカッカッ、兄弟も兄弟で元気でよろしい!」
「ふっふーん、今日はこんなに狩れたんだよ」
堀川は得意げに指を3本立てて見せた。
堀川国広は、本丸周辺に時折湧く白いクネクネとしたものを狩ることをライフワークにしている。そもそもの発生数を鑑みれば、ここいら一帯のアレは殲滅したと言ってもいい数字だ。
膝に乗せた毛玉の背を丁寧に撫でてやりながら、初期刀の加州清光が、お前らの日課がどうなのかはどうでもいいけどさ、と呆れ顔でいう。
「本丸には連れ込まないでよ?確実に妖力でうちの審神者が負けるから」
初期刀の心配なんぞどこ吹く風で、“さにわ”とアップリケの付いた狸が、太平楽に欠伸をした。
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