それが恋だと気づいたのは随分たってからだった。
天国でディーンと再会してからカスティエルは、肩にかかる重みを愛おしく感じながら眩しそうに目を細めた。甘えるようにカスティエルの肩に頭を乗せるディーンは、目の前に広がる湖と、静かに囁く小鳥の囀りを居心地良さそうに聞き入っている。この場所は、カスティエルが初めてディーンの夢に現れた時の光景と似ていた。こうして、穏やかに流れる時に身を寄せていると、初めて見た彼の魂の輝きを思い出す。
自身の手型があったであろうディーンの肩に手を添えると、彼はビクリと肩を震わせ「キャス?」と、囁いた。
顔を上げ、こちらを見つめるディーンはキョトンとしている。こんなふうに彼が無防備な表情を頻繁に見せるようになったのは最近だ。本来備わっていた穏やかな感情がディーンの精神を癒やしていく。カスティエルはうっとりと微笑んだ。
「一目惚れだったんだ」
「
……なに?」
ディーンは目を丸め、カスティエルが言わんとする事を探っていた。疑り深いその瞳は、どこか臆病でもあり、自分自身を肯定することが難しいあの頃の彼を思い起こさせる。なぜ、これほどの愛に溢れた男が、正義の心を持ち合わせていながら自身を愛せぬのか。カスティエルはいつも疑問に思っていた。言葉にして何度も伝えなければ心を溶かせないのなら、何度でも示してやらなければならない。
「これほどまでに美しい魂を、地獄の底で見たことがなかった」
地獄の底でだぞ。と、念を押しディーンの肩を強く掴む。
「だから、最初に恋に落ちたのは私だ」
それはどこか自慢げに聞こえたかもしれない。彼の鼻先に散らばるそばかすがはっきりと見えるのは、真っ赤に染まる頬のせいだ。揺れるヘイゼルグリーンの瞳は、カスティエルだけを見つめている。
地獄から彼の魂を引き上げた時もディーンはカスティエルから目を離さなかった。本人は決して覚えていないだろうが、ディーンの魂はカスティエルの腕の中でずっと縮こまり、けれどカスティエルから離れることなく幼い子どもが無垢に顔を窺うように寄り添っていた。これは、カスティエルだけが知っていることだ。
「だから納屋で会ったとき既に君に恋をしていたんだ」
カスティエルはそう付け加える。すると、ディーンは少し呆れて、
「
……それで、ずっと俺から目を逸らさないわけだ」
あの時のお前、少し怖かったぞ、と呟いた。そうして、顔を俯向かせたまま、カスティエルの胸に飛び込む。
「けど、はじめに恋だと気づいたのは俺が先だ」
呟かれた言葉はカスティエルの胸をドキリと高鳴らせた。それは、ディーンもまたカスティエルに恋をしていたと、認めたと同じことだろう。「ディーン
……」と言いかけた言葉は顔を上げた彼に唇で塞がれる。すぐに離れた後、ディーンの花のように咲き誇る笑顔でカスティエルは全身から熱が帯びる感覚を味わう。
「お前、知らなかっただろ」
そう言って、ディーンは頬を赤らめた。
「俺もずっと否定していたけど、傍に居て欲しいと願う日が続けば認めるしかない。こんなふうに想えるのはお前だけなんだ」
やっと言葉にして言えたと、息をついたディーンはカスティエルの胸にその身を任せる。そんな愛しい想いを一身に受け、この世でいちばん美しい魂を腕に抱えたカスティエルは何度も恋をすると自覚する。
「愛しているよ、ディーン」
二人は湖の畔で抱きしめあった。
終
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