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あけみ
2023-01-14 15:24:47
6397文字
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SPN(小説)
【C/D】イマジナリーフレンドの話。
イマジナリーフレンドの話
Dean Winchester
イマジナリーフレンドって、知ってるか?
見えない友達ってやつ。
サムには昔、イマジナリーフレンドがいた。幼いサムはしきりにその話をしていて、「サリー」と呼んでいた。最初はモンスターの話をしているのかと思っていたが、サムにしか見えないことと、その殆どがくだらない妄想話で狩る存在ではないことを確認した俺はサムの話を鬱陶しく思い、冗談半分に聞いていた。それからしばらくして、サムは「サリー」の話をしなくなった。どうやらイマジナリーフレンドは必要なくなったら自然と消えるらしい。そんな文献をボビーの書斎で読んだことがある。その時に必要な「友達」が現れるのは、傷ついた辛いトラウマを埋めるためのものであり、自己再生ともいえる。俺は、追っていた文字から目を離し本を閉じた。埃が舞うそれに顔を背け、本を棚に戻す。「見えない友達」これには少しだけ既視感がある。誰にも言えなかったことだが。
俺が4歳の時、不思議な体験をしたんだ。
× × ×
「ディーンにもいたのか? 見えない友達ってやつ」
ディーンがロードハウスで飲んでいると、アッシュの軽快な言葉が放たれる。
隣ではサムとジョーが幼少期の思い出話で盛り上がる。その中で出てきた話題が「見えない友達」だった。
ここにいる者たちは親がハンターか、両親を早くに亡くした為、幼少期に育まれる愛情が不足していたり友達が少ない者たちだ。ジョーとアッシュは一人っ子で幼い頃はひとりきりのごっこ遊びをしていたと言う。ディーンにも覚えはある。それは、サムが生まれる前のことで。年上の友達がいた、という漠然とした記憶だった。しかし、あれは「見えない」友達ではなかった。彼は確かに存在していた。ディーンは、口に付けていたグラスをテーブルに置き、溜息をつく。
「俺のはサムのと違って存在していた友達がいたよ」
そう。あの子は空想の友達じゃなかった。4つ年上の男の子だ。ジム牧師の教会の近くに住んでいた。手を触れたことも、一緒に遊んだことも覚えているから空想上ではない。
それを聞いたサムは怪訝に眉を寄せたが、すぐに誂う。
「嘘だね、僕は見たことないよ」
幼い頃からずっと一緒にいたのだから当然だ。しかし、サムが赤ん坊の頃も彼とは時々、遊んでいたことがあった。町を転々とした先々で、遊んでいた記憶があるのは疑わしかったが、それらが全てディーンの空想ではないと、目を細めてこちらを見つめるサムにうまく説明ができない。
弟からの疑いの眼差しと嘲る口調に、ムスッと口を閉ざしグラスに入った酒を飲み干した。だから、口を滑らせて幼少期に遊んでいた友達のことを話したのだ。名前も覚えていない。青い瞳と黒い髪。彼は必ずディーンが一人きりの時によく現れ、話し相手になった。メアリーが亡くなってすぐのことだ。
その頃のディーンは、しばらく口がきけずジョンを困らせていた。傷ついて苦しくて悔しくて、何も知らない赤ん坊のサムをあやしながら少しずつ感情が無くなっていくのを感じていたあの日、あの子はディーンのパーソナルスペースに入り込んで、そばにいてくれた。しばらくして、やっと感情を言葉に出せた時、ジョンとボビーが奇妙な表情を浮かべていたのをディーンは覚えている。
ある日を境に彼は消えた。
ディーンはあの子を空想上の友達だとは思っていなかった。うまく言えないが、年上だというのに物知らずであったこと、少し不器用だったことも、ディーンの空想で作り出した存在にしては間抜けでクールだった。だから今まで、ジム牧師の教会から抜け出して遊びにきた近所の男の子だと思っていた。
「お前の知らない友達くらい俺にもいるんだよ」
頑なに空想上の友達を認めないディーンに、意地を張っていると思われたのだろう、サムとジョー、アッシュは一頻り笑ってから、ボビーに話題を振る。面倒くさそうに眉を顰めたボビーはしかし、空想上の友達の話だと分かると、表情を一変させた。「あの時のこと、何か思い出したのか?」と、ディーンに迫るボビーは真剣な眼差しを向ける。
ボビーの反応と、過った記憶からどうやらディーンは、見えない「何か」を友達と呼び、一緒に遊んでいたらしい。
「つまり、俺のイマジナリーフレンドってやつか?」
恐る恐る問いかけると、ボビーは首を振る。
「あれは、そういう物とは違った」
だから、ジョンと相談して魔除けの呪文を用いたという。けれど、どの魔除けも効果はなく、幼いディーンは一緒に遊ぶ友達のことを楽しそうに話していた。ボビーは魔除けが効かないなら悪いものではないとジョンに説明したが、神経質になったジョンは躍起になってディーンに現実を見ろと脅した。まだ5歳のディーンにだ。ボビーはディーンを庇いジョンと対立した。ジョンとボビーが争う姿を見つめたディーンが何を感じたか大人の二人は考えも及ばない。
ディーンは自身の目を誤魔化した。そこにいた存在を自ら消したのだ。傍にいる「彼」から視線を外し、ジョンにこういった。
「大丈夫、もういないよ。最初からそんなのいなかった」
Castiel
カスティエルはディーン・ウィンチェスターを見守る命令は受けてなかった。それでも彼の前に現れたのは、好奇心と庇護欲だった。
最初に姿を見たのは、ディーンが4歳の時。サム・ウィンチェスターが生まれる前だ。
メアリーの大きな腹に頬を寄せ目を閉じるディーンは幸せそうに微笑んでいる。顔を上げた彼は、メアリーと目を合わせた。カスティエルは遠くからその様子を見つめていた。サムが生まれることにより天界が騒がしくなり、黙示録が始まる鐘の音を聞いた。もうじき、目の前の平凡で幸せな景色が一変する。カスティエルに下された命令は、「手を出すな」だった。伸ばしかけた腕を引っ込める。カスティエルは警告すら彼らに伝えることができなかった。
「ぼく、もうすぐお兄ちゃんになるんだ」
ディーンは、メアリーの顔を見上げながら笑った。その笑顔を見た瞬間、カスティエルは命令に忠実な天使を止めたのかもしれない。
そして、1983年11月2日。8歳のジミー・ノヴァックを器にし、幼いディーンの前に降り立った。ディーンは小さくて傷ついて弱っていた。にも拘わらず、弟を抱きしめる腕は愛情に溢れその小さな体に宿る魂の輝きに魅入られたカスティエルは、ある日ディーンの前に姿を現した。
「こんにちは、ディーン・ウィンチェスター」
言うと、ディーンは体を強張らせた。突然、目の前に現れたことを悔やんだカスティエルは危害を加えないことを示す。
「私は天使カスティエルだ」
教会に設けられた一室でディーンは一人で遊んでいた。床には小さな兵隊の人形が転がっている。少し離れた場所にジム牧師がいる書斎とサムが眠っているベビーベッドがある。ディーンは一瞬、書斎へ駆け寄ろうとしたが歩みを止める。口を開き声を発することもできず、困惑していたが「天使」と聞いて瞳を揺らす。ディーンの声は言葉にしなくとも、読むことはできた。メアリーが寝る前に「天使が見守っている」と、話していたことを脳裏に過らせ、彼の声を読み取ったカスティエルは頷いた。
「そうだ。私は君を守る天使だ」
少し訝しんだ表情をしたが、ディーンの警戒心は緩まり床に散らばった兵隊の人形を指さした。首を傾げディーンを見やったが、頬に赤みが差し笑みを浮かべる彼のそばに寄る。カスティエルは人形を手に取ると、正しい位置に並びなおした。
「これが防御を固める正しい隊列だ」
そう指し示すと、ディーンは眉を顰める。余計なことをしただろうか、とカスティエルは首を傾げた。けれど、彼の声に耳を傾ければカスティエルを不可思議に見つめるだけで呆けている。カスティエルを少し変わった年上の遊び相手という認識が増す。
ディーンは、口を閉ざしていたが思考はお喋りだった。様々な感情をカスティエルに聞いてくる。本当に天使なのか? 何故、子どもの姿をしているのか? 翼はあるのか? 好奇心の中にはチラリと見え隠れする親しみがある。人形遊びを指さしたディーンにカスティエルは静かに頷いた。
「もちろん、良いよ。遊び方を教えてくれないか?」
それから天使はディーンの良き遊び相手となった。ジョン・ウィンチェスターが異質に気付くまでは。
Jimmy Novak
ジミー・ノヴァックの両親は信仰に厚く、日曜には家族で教会に出向き食事の前はお祈りをする。ごく普通の模範的な家庭である。一人っ子のジミーの遊び相手は学校の友人がほとんどで、空想の友だちとは無縁だった。社交性があり、クラスでも打ち解けている模範的な子どもだ。
しかし、神は身近にある存在として教えられたジミーは、姿無き声が自分だけにしか聞こえない現象が続けば、「選ばれた」と思うだろう。それが8歳の子どもなら尚更だ。
声の主は、自らを天使だと名乗った。名はカスティエル。ジミーは選ばれし者で、とある任務のため力を貸してほしいと頼ってきた。下校中のジミーは、立ち止り頷く。天使は困っているようだったし、自分は特別だというのも高揚させた。8歳のジミーはカスティエルの器になることを承諾する。
その後、ちょとした騒動となる。ジミーは数時間、行方不明となり両親は警察に捜索願を出すところだった。翌朝、自身の部屋のベッドで眠っていたジミーは、両親の抱擁と?り声で目を覚ます。奇妙だったのは、行方不明になっていた数時間の記憶がないことだった。それからというもの、ジミーは度々家を出て両親を困惑させた。下校中に姿を消し、気が付いたら夜中の自室のベッドで目を覚ましたり、見知らぬ土地に降り立ち自力で帰宅したこともある。その中で、朧げに覚えているのは、ジミーは一人ではなく年下の男の子と一緒に遊んでいたということ。ヘイゼルグリーンの瞳を潤ませジミーを見上げるその表情は、深い悲しみと絶望を浮かべていた。守らなければならない。という漠然とした使命感のようなものがジミーを支配する。これは、カスティエルの意志だと感じたが、ジミーもまた同調するように彼の傍にいた。
「ディーン
……
」
低い声で囁く。声を出したのはジミーではなくカスティエルだったが、涙すら浮かべない傷ついて座り込むディーンに語り掛ける。
「傍にいるよ」
これはジミーの言葉だった。
しかし、度重なるジミーの不可解な行動に不安感を募らせた両親は、カウンセラーをジミーに付け行動範囲を制限する。
「僕はディーンという子と遊んでいた。その子は僕より小さくて母親を亡くして泣いていたから、傍にいただけなんだ」
正直に口にすればするほど、両親は怪訝に眉を顰め空想の友だちと遊んでいたと考えた。そのため、ジミーはカスティエルに器を明け渡すことも難しくなり承諾できない時が続く。そして、ついにジミーの中からカスティエルが追い出される。これは、ディーンがカスティエルの存在を否定したせいでもあった。
ジミーの両親が自由行動を制限しカウンセリングを受けることを強要したように、ディーンの父親もまた魔除けの類を施しカスティエルがディーンの居場所を感知できないようにした。ディーンが見えるものを拒絶したことはジミーも深く傷ついたが、彼を非難できない。結局のところ、カスティエルの関与によってジミーの生活と周囲への影響は大きく、自身もまたカスティエルとディーンの存在を忘れることにした。
一時的に弟のような存在があったのは、幼いころの記憶でありイマジナリーフレンドのようなものだ。だから、ジミーも長年置き去りにした。再びカスティエルの声が聞こえるまで。
Castiel/Dean Winchester
再びカスティエルがディーンの前に現れたのは、それから24年後のことだ。地獄にいたディーンを救い上げた天使は、平然とした表情で目の前にいる。あの日のイマジナリーフレンドというのは、笑えない冗談だ。ディーンは眉を寄せた。
「私はカスティエル
……
主の天使だ」
最初は気付かなかったが、名前に聞き覚えがあった。納屋に現れたカスティエルは、ディーンとボビーが放った銃弾にも怯まず間合いを詰めたままボビーを眠らせディーンから視線を外さない。その強い視線に既視感があった。
「あの日見た頃と変わらないヘイゼルグリーンの瞳とそばかすだな」
ジッと見つめるカスティエルがポツリと呟いた言葉に目を丸める。
「お前
……
! キャスか
……
?」
そんなはずはない、と思いながらも目の前にいる天使を睨んだ。
「俺が4歳の頃に傍にいた時、お前も子どもだったはずだ」
「ああ
……
。これは器だ。あの時も同じ器で君の前に現れた」
カスティエルは彼の身体に視線を落としてからディーンを見やった。その仕草と器という単語に怪訝にディーンは眉を寄せる。
「憑依してるのか!?」
最初に現れた時は8歳くらいだったぞ、と叫べばカスティエルは「ジミー・ノヴァックは献身的な信仰者だ」と答えたから、首を傾げる。
「4歳の君の傍にいるには、私も子どもでいる方が自然だ」
ディーンは顔が熱くなるのを感じた。空想上の友達だとは到底思えないほど、その場にカスティエルが存在し言葉が付いて出なかった4歳のディーンの傍にいたのは彼だ。記憶は朧気だが、誰かが傍にいるだけであの時の自分は随分と救われたはずだ。父親は復讐に押しつぶされ、弟のサムは赤ん坊で何も分からないままディーンの袖を握りしめ泣いていた。息をするだけでも苦しかったあの日、カスティエルが現れディーンの心は息継ぎができた。それがひと時だとしても。
「
……
どうして、あの時、傍にいたんだ?」
4歳のちっぽけな自分なんかの隣に、と呟いたディーンにカスティエルは表情を歪めた。
「君に必要だったからだ」
当たり前のように放たれた言葉はディーンの胸を掬う。
Jimmy Novak/Dean Winchester
再びカスティエルの声に応えたのは、天からの使命という途方もない義務感とこれが初めてではないことと、ディーンのことが気になっていたからだ。
再会は驚きの連続だった。カスティエルの視線に映るディーンの魂があまりにも美しかったからだ。小さなあの子が、成長し髪はダークブロンドの短くかきあげられ軍人スタイルだったが、ジミーもお気に入りのヘーゼルグリーンの瞳と、鼻先に散りばめられたそばかすはそのままだ。
カスティエルが引き剝がされ天界へ連れていかれた時、不安感がジミーを襲い瓦礫から這い上がるのが精一杯だった。ディーンが駆け寄り顔を覗かせたことで、やっと安堵する。ジミーを覗き込むそのヘイゼルグリーンの瞳が揺れた時、囁かれたのはカスティエルの名だった。ジミーは一瞬表情を曇らせる。
(僕も君がイマジナリーフレンドだったんだよ)
喉の奥から出てくる言葉は飲み込んだ。ジミーは苦笑してから顔を上げた。ジミー・ノヴァックだと名乗ると、腕を伸ばしたディーンの手を握りしめる。
「やぁ、ディーン
……
ずっと君と直に話がしたかった」
ディーンは驚いた表情を浮かべる。
「俺のこと、分かるのか?」
「もちろん、8歳の頃からカスティエルが君を見ていたことを知っている」
(僕も君のことが気になっていたんだ)
はいかんだジミーは、ディーンの頬が赤らんだのを見て落ち込んだ胸の鼓動を無視するしかなかった。
fin...
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