あけみ
2021-03-27 22:50:36
2465文字
Public SPN(小説)
 

君に何度も恋をする【エマニュエル×ディーン】

記憶喪失キャスがディーンに恋する話。

 エマニュエルはジッとディーンの顔を見つめた。彼は頑なにこちらを見ようとせず運転に集中するように前を見据えている。ディーンの弟を治療するために病院に向かう車内は気まずい沈黙が続き、エマニュエルをさらに落ち着かなくさせた。ディーンと自宅の玄関前で目が合った瞬間からエマニュエルは自身でも説明がつかないある感情に悩まされている。それは身体中から熱が溢れる感覚。初めて会った時の彼の顔はとても驚いていて、明らかに初対面といったふうではなかった。さらに己も彼の視線に電撃のようなシグナルを感じた。
(これが俗に言う……一目惚れというものだろうか)
 エマニュエルは思惑するように目を細める。自身は確かにダフネと婚姻関係であるが、彼女に対して恋愛感情があるわけではなく彼女もまたそのことを理解しエマニュエルの不思議な力を畏怖せず、むしろエマニュエルを保護する形で婚姻関係となった経緯があった。信仰深い彼女はもしかしたらエマニュエルを人間ではなく神に近い何かだと感じているのかもしれない。
 エマニュエルはディーンに視線を向けたまま口を開いた。
「君とは初めて会った気がしない。私と初めて会った時の君の反応は、そういったことだと思っているのだが」
「気のせいだ。それ、口説き文句にしてはセンスがないぞ」
 続ける言葉を遮るディーンはムスッとしながら前を見つめたまま答えた。彼が苛ついているのは分かるが、原因が分からなずエマニュエルは首を傾げる。
「何を怒っている?」
 言うと、頑なにこちらを見ようとしなかった瞳がエマニュエルに向けられた。ディーンの視線とかち合った時、エマニュエルは目を丸める。彼の瞳には確かに怒りがあったが、涙がこぼれるのではないかと思うほどにそれは濡れていたからだ。怒気を含みながらも哀愁に濡れた視線を向けられ、エマニュエルは途端に胸がざわついた。
 彼のことが知りたい。
 どうしてそんな顔で己を見るのか。
 苛立ちと憤怒の情を渦巻きながらも、非難めき今にも頬を濡らしそうな表情で私を見つめる理由が知りたい。
(彼のことがとても気になる。きっと、私は)
「君のことが好きだ」
――は?」
 今度こそ彼の瞳から一筋の涙が伝った。エマニュエルは前方を見やって「前、」と言うと、ディーンは慌てて急ブレーキをかけ車を路肩へ停める。大きく肩で息を吸うと、ハンドルに顔を埋めたディーンは、ボソリと呟いた。
……突然、なんだよ」
「分からない。ただ、君のことが好きだと感じた」
「会ってまだ数時間しかたってないだろ」
「そうだな」
……なんで、お前は」
 言いかけてディーンは「もういい」と小さく呟いた。エマニュエルは彼が言おうとしたその先の言葉が気になったが、もう話してくれないだろう。だが、エマニュエルは会話を終わらせる気にはならなかった。
「私に似ている誰かを思っているのか?」
 エンジンをかける手をピタリと止めたディーンはエマニュエルを睨んだがすぐに視線を伏せる。
……ああ、そうだよ。そいつは、キャスっていう俺の親友だった」
……亡くなったのか?」
 彼のプライベートな部分に踏み入れすぎたかと恐れたが、ディーンは続けて話してくれた。
「俺を裏切って助けた後どこかへ消えてしまった。今も行方知れずだ」
「そのキャスって奴は大馬鹿者だな。私は君を裏切らない」
「フン、どうだか」
 それからディーンは車を停めたままハンドルに手をかけ前を見つめた。
「今でもキャスには怒っているがそれでも、もう俺とは関わらない方があいつのためかもな。俺と関わったせいで傷ついて離れてた」
 俺と会わない方がキャスもあんなふうにならずにすんだ、と小さく掠れた声を漏らすディーンにエマニュエルは眉を寄せる。彼から離れた「キャス」は、きっと今ごろ後悔しているに違いない。ディーンから溢れているのは悲しみが大半だ。それに、彼の自己肯定のなさにも訝しんだエマニュエルは口を開く。
「なぜ君は自分を蔑ろに扱う?」
 ディーンは鼻で笑った。
「前にも同じことを言われた。その時にも言ったが、俺は救われて良い人間じゃない。多くのものを殺してきたやつが良い人間なわけないだろ」
 多くのものを殺した、というのは魔物のことだとエマニュエルも理解していたが、それは人を救うために狩ってきたことではないのか。疑問を口に出したがディーンは暗く瞳を濁らせる。
「全てがそうじゃない。むしゃくしゃして何かを殺したくて狩りをしてた時もある。そんな奴のそばにいつまでもいる方が奇妙だろ」
 エマニュエルの表情は哀愁に染まる。彼にこんなことを言わせるために問いかけたわけではない。「キャス」って奴は本当に大馬鹿野郎だ。ディーンをこのように悲しませるなんてエマニュエルは見ず知らずの「キャス」に嫉妬の念を抱え息がつまった。これ以上、ディーンに彼自身を貶めさせたくない。
「君の魂は美しいよ」
 そう言うと、ディーンは目を丸めこちらを見やった。
「お前……人間の魂が見えるのか?」
「オーラとして感じることができる。私も来るもの全てに治癒を施しているわけではない。中でも君は特別に美しい」
 そう言いながら気付けばエマニュエルはディーンのパーソナルスペースを軽々と踏み入れ頬に手を添えていた。
「キャ…………
 零れる言葉は聞こえない振りをした。ディーンの唇を掠め取ると、離れた隙間を再び拭うように口付けを交わした。今度はディーンも受け入れ目を閉じてはエマニュエルのキスを吐息と交わりながら堪能する。
 最初は穏やかだったそれは次第にお互いの舌を絡めるほどに濡れて激しくなる。ディーンを運転席の窓枠に押し付けながらエマニュエルは必至に繋ぎ止めるように深い口付けを繰り返した。そうして、記憶は戻らずとも彼が言う「キャス」は私なのだろうと、脳裏の端で理解しながら今は彼との口付けに酔いしれることだけに集中した。
 君に恋するのは何度目だろうと感じ入りながら。





web拍手
fedibird>@cocoapoko
bluesky>@cocoapoko