あけみ
2020-07-19 12:49:52
8320文字
Public MCU(小説)
 

【MCU】神様の願い事【ソートニ】

エンドゲーム後の話。

 愛していた大切な星をなくしたとソーは茫然と立ち尽くした。手元から零れ落ちたそれはもう二度と掬えないと知っていても、心のどこかで諦めがつかなかった。そうでなければ、こんな果てしない宇宙にまで来て迷い込んだりしない。
 ソーはクィルやロケット、グルート、ネビュラとドラックス、マンティスといったガーディアンズの仲間たちと彼らの船ミラノ号に乗り込んだ。彼らは表情では面倒がっていたが、ソーが抱える問題に対して深く追求はせず、旅は道連れだと意気込んで歓迎した。
アスガルドの一部は地球で根付こうとしている中、指導者が必要なことも知っていたがソーは自らその役を買って出るほど強い意志を持ち合わせていなかった。皆が皆、無くしたものを取り戻せたわけではない。サノスを倒してハッピーエンドなど単純な世界でもなかった。
 ソーにとっては、無くしたものの方が大きい。
 正直にいうと。
 地球(ここ)にいる理由がなくなった。
 ソーは船の操縦席から見える無限に広がる宇宙の星々を睨んだ。
「なぁ、そこ、俺の席なんだけど」
 何度目かのクィルの言葉で、ソーはやっと彼に気付いたように視線を動かした。クィルと目が合うと彼は少し驚いたがすぐに目を細め先程までソーが睨んでいた景色へ視線を移す。
「あの先にあんたの親の仇でもいるの?」
「違う」
 クィルの言い方に眉を寄せ、ソーは否定した。外を見ていただけで視線の先に殺意を混じらせていないはずだったが、クィルにはそう見えなかったようで更に言及される。
「あー、そう? すごい怒ってたみたいだけど、俺の船で喧嘩とか暴れるとか禁止だから」
 クィルは頭をかいてから背を向ける。そうして、小さく呟いたのは今のソーの心境のことだった。
「地球では皆が平和を分かち合ってハッピーエンドみたいだったのに、あんたは違うのな……まぁ、俺もそうだけど」
 ソーは目を細めて彼を見やった。クィルの隣にいたネビュラも顔を上げる。何も言わなかったが、ソーとクィルの複雑な心情を悟っているようだった。
 クィルもまた取り戻せていないものがいる。操縦席の側にあるモニタには『ガモーラ行方不明』の文字が小さく表示されているのが見える。まだ行先が定まらない己は、しばらく彼らの探しものに付き合うだろうがソーの見立てではそう難しくない所にガモーラはいる。問題は己の探しものだった。
 亡くした者は帰ってこない。常識ではそうだ。だが、ソーはその常識をいともたやすくひっくり返す言い分を残した人間を知っている。腕を組んでしばらく宇宙の星々を見つめていたソーは口を開く。
「多次元宇宙論だ」
「は?」
 ポツリと零した己の言葉にクィルが顔を上げる。ソーが何を言わんとしているのか首を傾げている彼に答えず、再び思考を巡らせながらソーはトニーの言葉を思い出していた。クィルがガモーラを諦めきれないように、ソーもまた自身が引き当てた結末に抗っていた。
 今でもはっきりと思い出せるほど記憶が鮮明だ。少し悪戯っぽく笑んだ彼の表情は好奇心に光らせた瞳を見せ、缶ビールを手に不貞腐れているソーが相手でも普段と変わらず話しかけた。
『多次元宇宙論だよ神様……つまり、こことは別の、こことそっくりな世界がいくつかある。時間泥棒の構想を詳しく分析すればその可能性が充分にある』
 ソーが知っている地球とは少し違う別の次元のトニー・スタークがいる。トニーの考えが正しければ――いや、彼が可能性の高さを示したのなら充分だ。ソーはフッと笑みを浮かべた。
 操縦席をクィルに譲ってからソーは船内の奥へと歩む。

× × ×

 2012年ニューヨーク。チタウリの軍団を撃退し、後始末が残る中でソーは起き上がったトニーを見やって心底胸を撫で下ろす。心臓に爆弾の破片が残っていると聞いていたが、発作を起こすなど先程の戦いでは見られなかった。四次元キューブをロキに奪われたのを横目で見つめ、倒れるトニーの元へと駆け寄った。
咄嗟の判断とはいえ、ムジョルニアを人間の医療行為として扱ったのは初めてのことだったのでソーも不安だったが、心臓発作を起こしたトニーに施した行為は正しい処置だったといえる。落ち着いたトニーの肩を叩きホッとして笑顔をこぼしたソーに、トニーは顔を上げ「助かったよ」と、ソーの胸を叩いた。
「お前のそれは、平気か?」
 トニーの胸元に光るリアクターを見つめ呟く。ニューヨークの空に開いた穴から宇宙に出た影響があるのかもしれない。今は安定しているが、また先程のような発作が出るとも限らない。
「ああ……平気だよ」
 トニーは顔を伏せソーの前を通り過ぎる。平気じゃない振りをするのは彼の癖だ。目を細めて訝しんでからトニーの腕を掴み取りこちらに引き寄せた。発作が起きる寸前点滅していた胸のリアクターは、変わらず光っている。指で触れ確かめようとしたが、トニーが腰を引く。
「おい、何をするつもりだ?」
「お前のそれを調べる」
「やめろ、また電気ショックを与えるつもりか?」
 後できちんとメンテナンスはする、と言うトニーにこれ以上無理強いはできない。ソーは掴んでいた腕を離す。
「爆弾の破片は……早めに取り除いた方が良い」
 何故そう口走ったのかソー自身も分からなかった。ただ、トニー自ら枷を受け入れ取り外せるそれを背負いこの先を歩むにはあまりにも酷だ。
 彼は爆弾を抱えなくとも常に誠実で真摯だ。宇宙の脅威を肌で感じ取ったトニーは、持てる技術を全て使って自身を酷使するだろう。ソーはそのことを知っている。
 一瞬、眉を寄せ違和感を覚えた。だが、それが何なのかは分からない。ソーは真っ直ぐにトニーを見つめる。当然、呆気にとられたトニーは居心地が悪そうに視線を背けたが、すぐに「破片はすぐに取り除く」と小さく言葉を濁した。

× × ×

 己でも気付かないまま寝入っていたのか、ソーは肩を揺さぶられた反動で顔を上げた。そこにはネビュラが目を細めこちらを覗きこんでいる。次の目的地に着いたのかと周囲を見やったが、皆就寝中で船は安定して飛行しているように感じた。何故、起こした? と視線を向ければネビュラは少し戸惑いがちにソーの肩に置いていた手を引いた。
……魘されていた。そういう時は起こした方が良いのだろ?」
 そう言って、彼女は小さく「トニーがそう教えてくれた」と呟いた。
……そうか」
 額を掌で撫でてからソーは起き上がる。魘されていたと言われた夢の内容は覚えていない。アスガルド人が見る夢には過去現在未来に関わることを予言すると言われているため、夢は貴重であり内容は重宝される。ソーのような王の血を引き継ぐ者なら尚更だ。だのに、覚えていないのは奇妙だった。船内の窓から扇ぐように見上げれば、宇宙のカーテンと称されるオーロラの靄がかかっていた。これが現れている間は、船はジャンプできない。本来なら数分で晴れるはずだが、一時間以上経過しても靄がかかったままだ。
「これは、正常か? 飛行に問題はないのか?」
 眉を寄せるソーにネビュラは眠っている他の仲間たちに視線を向けながら言う。
「〝テラの揺りかご〟と呼ばれる」
「テラ……の? 何?」
 ソーは眉を寄せ聞き返す。
 ごく稀に数時間靄がかかり、その場に留まらせ別世界へ誘うといわれている。おとぎ話のように聞かされていたが、実際の現象は睡眠効果のガスで眠らされているだけだと言う。靄が出ている個所には亜空間は作れないので敵対する船も来ないことを見越し、ネビュラは靄が出ている間は安全だと言った。虹の橋でしか星を移動したことのないソーにとっては、訝しい事柄だったが船の移動は彼女の方が経験値は上だ。
「船はジャンプできないし、こちらはただ眠るだけで害はない。あと数時間もすれば靄は晴れる」
 以前にも体験したことがあると言ったネビュラは、ゆっくりとその場に座り込み膝を立て、顔を伏せた。再び睡魔が襲ってきたのだろう。ソーもまた瞼がゆっくり落ちるのを感じ、手を当て擦った。
 朧げに見た夢を思い出そうとしたが、こちらも靄がかかったように記憶が掘り起こせない。重要な夢であるはずだ。でなければこんなに焦燥感を味わうはずがない。ソーは椅子に腰かけ窓の枠に頭を傾かせながら目を閉じる。

× × ×

「お前の作るものは美しいな」
 ホログラムに浮き上がるオレンジ色の球体を見つめながらソーが呟いた。ラボで作業をしていたトニーはかけられた言葉に顔を上げる。ソーの視線の先にはホログラム化されたジャーヴィスがいることに気づいたトニーはニヤリと笑んだ。
「物に魂を与えるなと苦言されたが、神様に褒められるのは悪い気はしないな」
「ああ、そうだな。まさに魂を与えた」
ジャーヴィスと名付けられた人工知能は、初期段階ではここまで進化していなかったはずだ。彼の手で生み出され、彼の言葉が命を吹き込んだとでも言うべきか。ソーが見ている間でもトニーが無機物に言葉をかける姿を何度も目にしている。その度に無機物たちは言葉をプログラムされていないものも含め、皆、トニーに応えるように動作をした。その光景を目のあたりにして、まさに『命』が吹き込まれたと称する以外になかった。
『Sir,見つけました』
 ジャーヴィスが言うと、トニーが操作するホログラムの画面に地図が表示され、一点の赤い印が点滅する。
「それは?」
 ソーは指さした。
 アベンジャーズは再び結成されたのは、ヒドラの残党を追っていた時期であり、この日もトニーは夜通し捜索を行っていた。
「スティーブが話していた。戦争で亡くなったと思っていた友人がヒドラの施設で超人血清の被検体になっていたと」
 トニーの言葉に、バッキー・バーンズだと、ソーはふと浮かんだ名を思い出してから、眉を顰める。「思い出す」という表現は似つかわしくない。この話を聞くのは初めてのはずだからだ。何かが、違う。そんな違和感を覚えるも、「ソー?」と呼ぶトニーを前に曖昧な返事をしながら話の続きを促す。
「私の両親の死に関わっている可能性があると」
 その声は落ち着いているように聞こえた。だが、彼の表情を伺えば複雑な感情が滲んでいた。
「助けが必要か?」
 北部を指す赤い一点の点滅を見つめながら問えば、トニーは一瞬迷ったようにだが明確な意思で頷く。ソーは目を細めた。両親の死に際を確認しに行くのにひとりきりでいる必要はない。トニーの肩を優しく引き寄せ抱きとめる。
……これ、何のつもりだ?」
 ソーの胸に顔を埋めたトニーが眉を寄せた。顔を上げ、こちらを睨んで頬を少し上気させた表情にニヤリと笑う。
「俺たちが傍にいるからな。今度こそ、お前をひとりきりにはさせない」
「今度こそ?」
 聞き返してきた言葉を無視して、ソーは胸の内で「大丈夫だ」と呟いた。次はうまくいく、と。呟くうちに先ほど過った違和感の正体を認識した。
 どういった原理か分からないが、これは、ソーが知る道筋とは異なった時間軸だ。
 これはきっと、夢幻なのだろうという自覚はある。彼を救うためのサイコロの振り直し。これは、抜け道だと悟った。
 その後のヒドラ残党の追跡も、ウィンター・ソルジャーの一件も順調に事が進んだ。ウルトロンの暴走はソコヴィアが崩壊する前に食い止めたが、マキシモフ双子の精神面は不安定だった。ウィンター・ソルジャーの洗脳を解いた時と同じように経過を見るとシールドが引き受けたが、トニーは彼らを兵士のように扱うなと苦言を指した。彼らのように能力を持つインヒューマンは多数見かけるようになった。人権が尊重される対応を求め、トニーは援助を開始した。
 チョウ博士とトニー、バナーが協力して開発したヴィジョンは、力のコントロール制御に悩むワンダにとって良きパートナーになりつつある。マキシモフ双子のトニーに対する複雑な心情は拭えそうになかったが、それでもここは随分とマシだ。ねじをかけ直した歯車は、ソーがいた世界とは姿を変え、時を刻んでいく。
バナーはナターシャの子守唄がなくともハルクから容易にバナー自身の姿に戻る術を学んでいた。折り合いが悪かったハルクとの関係もお互い信頼が築けているようだ。アベンジャーズの基地にある冷蔵庫には、ハルクの好物であるチョコアイスがあることから、ハルクも自由に表に出ていることが伺える。そんな様子が垣間見えるたびにソーは口元を緩め微笑んだ。だが、そんな変化を体感するたびに、ソー自身にも異変が起こった。ここ最近、耳鳴りが酷く、夢うつつになることが多い。
またある日、飛び起きた時に咄嗟にここがどこなのか自身が何をしていたのか記憶が抜け落ちていた。アベンジャーズのラボで脂肪が蓄積された大きな腹を撫でながらビールを飲んで眠っていたと思っていたが、目覚めた場所はキングサイズのベッドの上で、自身の腹は脂肪などついていない鍛え抜かれた腹筋があり、そのすぐ隣には裸で眠るトニーがいた。よくよく見れば己も全裸で、ベッドのシーツの乱れからセックスをしたのは明らかだ。
 上体を起こし、髪をかき上げる。そうして、途切れた記憶の中に、トニーとはそういう関係に陥った恋人だと思い出す。こんな、忘れるはずもない事柄を忘れるなんて。
(どうなってる……?)
 ここはあまりにも平和で、穏やかだ。そういえば、己の母は存命であることも思い出し、違和感が拭えない。いや、何かが可笑しい。母が亡くなった記憶こそが不穏に満ちた痕跡だ。記憶が書き換えられていくようだ。
 唸るソーの声にトニーが目を覚ます。
「ソー……?」
 寝起きのかすれた声で目元を擦るトニーはこちらの顔を覗き込んだ。起こしてしまった、と申し訳なく思い、まだ眠っても良いと促したがトニーは「私はよく眠ったよ」と、微笑み答えた。
「そうか」
 ソーは言ってトニーの目元を見る。確かにそこにはもう隈はなかった。彼の元に訪れるたびに隈が酷くなっていた日々を思えば今は顔色も良い。ソーは微笑んでから指先でトニーの目元をなぞるとそっと口付ける。彼がここにいる事を実感してホッと胸を撫で下ろした。
「なぁ、ソー」
 トニーは目を細めジッとこちらを見つめてから、ひと呼吸おいて神妙に言葉を選び問いただす。
「どうやったのか知らないが、あんた、こっちのソーじゃないだろ?」
 一瞬、何を言われているのか分からず、だがソーはギクリとした胸を誤魔化すこともできなかった。
……なぜそう思う?」
 低く唸るように呟く。
「そりゃあ、君が変だからだ」
「変か?」
「そう。変だ。……私じゃない私を見てる」
 恋人なのだから、すぐに気づくと、トニーは静かに囁いた。それから、ゆっくりとトニーは上体を起こしてソーと向き合う形で座る。
「何があったかは知らないが、ここにいて大丈夫か?」
 何を問われているのか分からず、ソーは怪訝に眉を寄せる。
ここには、お前がいるし、アベンジャーズも機能している。仲間はお前を頼り、お前もまた彼らを頼る。俺の方はアスガルドと行き来しながらミッドガルドとの交流を深め、先日、地球で一部の地域にアスガルド民が移住した。そう、思った時、再び耳鳴りがした。同時に頭痛も起きると、眉間に指を添え撫でたが以前より酷くなっている。
平穏な生活に違和感を覚えるなんて、馬鹿げている。ソーは首を振り誤魔化したが無意味だった。
「俺は……お前を見つけたい」
 頭が割れそうな頭痛に耐え、やっと紡ぎだした言葉だった。トニー・スタークが右腕にガントレットを嵌め、指を鳴らした瞬間は、今でも脳裏に焼き付いている。本来ならあれは己がすべきことだった。たったひとりの人間にやらせてしまった事をソーは悔やんでも悔やみきれず、こんなところまで来てしまった。
 握りしめた拳の上からトニーが優しく触れる。頭痛が収まり、顔を上げるとそこには懇願とも取れる表情のトニーがいた。前髪が下りているせいか、やけに幼い顔つきだと、こちらはそんなことを考えていたが、トニーの方は真剣な眼差しでソーを見つめる。
「それなら、こんなやり方じゃなく、別の方法を使え。君の仲間も巻き添えを食らうぞ」
 何のことだ?
 と、ソーが困惑すると、トニーは困ったように笑った。

× × ×

「ソー!」
 叫ばれた名にハッと目を覚ました。ネビュラが焦燥しきった表情でこちらの顔を覗き込み、起き上がったソーに安堵したかと思えばすぐに「船を出す」と、叫んだ。ミラノ号は不安定な飛行を続け、揺れが収まらない状態にあった。
「何が起こった?」
 ソーは周囲を見やって、非常事態だというのに静かな船内に眉を寄せる。クィル達はいまだに目を覚まさず寝入っていた。
「何をやっても目を覚まさない。靄は一向に晴れる気配はない。異常なことばかりだ。ここを一刻も早く離れる! 手伝って欲しい」
 操縦席に座ったネビュラは靄から脱出すると意気込んだ。
「ジャンプはできないのではないのか?」
「そうだと思ったが、これはトラップだ」
 ネビュラが知るテラの揺りかごと呼ばれる現象ではないと言った。船は真っすぐ大口を開けるようにぱっくり割れた星へ突き進んでいるように見え、このままでは船ごと食われるとネビュラが叫んだ。宇宙を漂う船を食する星があることにも理解が及ばなかったが、危機的状況なのは分かった。エンジンを大出力にして回避するとネビュラが命じる。ソーは操縦席へ飛び移り、クィルがやっていた事を見様見真似で操作する。座標はネビュラが合わせ、ジャンプで亜空間を抜けた衝撃に備える。エンジンは爆発音と共に噴射し反動で船の進行を助けた。
 いっきに靄を抜け、船は亜空間の先にある次元の穴を通り過ぎた。一息つくと、背後で転がるように眠っていたクィルたちは突然起き上がり、目を覚ます。
「なんだ、なんだ!? どうなった!」
 ロケットは尾を逆立てて起き上がり、マンンティスとドラックスは大きな欠伸をした。船に騒がしさが戻り、状況がまるで分っていないクィルにネビュラは説明するのも面倒だという表情を浮かべて溜息をつく。
 もし、あのまま目を覚まさず別の世界に留まることを選んでいたら、船ごと星に食われ今ある光景は存在しなかっただろう。ソーはネビュラに顔を向ける。
「お前が最初に目が覚めたのか?」
「半分機械だから睡眠はさほど必要ない」
「俺に声をかけたのは何故だ?」
 ソーは確かに、こことは違う別の世界のトニーと共にいた。居心地の良さに酔いしれて目覚めないこともあり得た。
「アンタは〝神様〟なんだろ? 最後には正しい方を選択する。……トニーが言っていた」
 ネビュラの言葉に目を丸める。
「神様だって間違えるときがある」
 現に間違えたから彼がいない世界にいる。
「けど、目が覚めてこうして皆助かった」
 間違わなかったじゃないか、とネビュラは肩を揺らした。
 結果を見れば、船は無事でガーディアンズの仲間たちもいつも通り理解不明な言い争いをしている。ソーは前髪をかき上げて溜息をついた。
(これで、正しかった)
 夢か現実かの狭間で見たトニーの微笑みを思い出してから、胸に重く圧し掛かる。
もう少しだけ、あそこにいたかった。
ソーが愛した星がそこにはあった。手放すのは惜しいと、心底そう思ったが最後に笑ったトニーの顔が脳裏に焼け付いて離れない。
『こんなやり方ではなく、別の方法で』か――
 なんとも難題なことを吹っかけてくる。ソーは苦笑した。己は、神であっても望む世界にたどり着けないでいるのに。けれど、手が届きそうなところにあった。道標もなく彷徨っていた時とは違う。
クィルが操縦席へ副操縦席はロケットが座ると、いつまでも宇宙の星を見つめるソーに皆の視線が集まる。
「アンタの道草に今度はこっちが付き合っても良いぜ」
 クィルが放った言葉は労りにも似た情が含まれていることを知るも、ソーは首を振った。
「いや、平気だ。お前たちの探しものがあるだろう。そちらが先だ」
 そう答えてからニヤリと笑んだ。
 神も救いを求める。
この星のどこかに生きているトニー・スタークがいて、自分ではない自分と共にいる世界がある。己はそこにたどり着くまで何年かかるか分からないが、不可能ではない。

 神の願い事は自身が叶えるしかないのだから。







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