sugu_yoru
2023-12-08 01:35:05
1670文字
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【さぶじろ】肉を食べる②

お題箱のリクエストから。『32で、他者から見たら付き合ってるだろうに好きであることも認めない3』。
きっと聞いたら認めないだろうってことで、よろしくお願いします!
ちょっと ど←ひふ。終わりです。

「二郎くん、ご飯無くなったね。頼もうか?」
「あんあと(あんがと)~、おっお(独歩)!」
「口に肉を入れたまま喋るな。我が家の教育の質が疑われるだろ?」
「独歩ち~ん、気が利きまくりじゃん」
「こういうのは接待で慣れてる、えっと一人分で良いかな?」
「『接待』って……相手ぇ、高坊、中坊ですけど」
「中坊言うな、おい社畜。ついでにカルビもおかわりして良いか?」
「いいけど、君もうペースが落ちてるじゃないか、お腹一杯じゃあないの?」
「五月蝿いな、その、これは二郎の分だから」
 そう言って二郎を見つめる三郎の瞳には、どこか覚えがある。ホストクラブで、キャストを見つめる、女の子たちの眼差しに似通った熱さを感じる。うー……ん? 一二三は首を傾げる。これはいつも言い争いをしている、年のそう変わらない方の兄に対しての、普段の態度と矛盾しているのではないか?
 独歩は気づいているのかいないのか、力ない笑顔を顔面に乗せて、届いた肉を三郎に渡している。
「独歩ちんがいっつも言ってる、胃が痛くなるってこんな感じかぁ」
「? 大丈夫か一二三。今日酒なんてほとんど呑んでないだろ?」
「俺っち、もう食えない感じ~。独歩ちんは?」
「俺ももう、肉や米は十分かな……
「じゃあ二人ともデザートでも食べてれば良いよ。僕も食べるからさ」
「お前奢ってもらっておいて、その態度はないだろ……。あ、白玉パフェってのがある、俺白玉パフェ食べたい」
「態度がなってないのはお前の方だろ、って二郎」
「っ」
「付いてた」
 兄の細い顎の先端に、付着していた白い米粒を、三郎は指で取るなり舌で舐め取った。流石の独歩も、それが兄弟愛からのものでないと勘づいてしまったのか、一二三の隣でさぁっと青ざめている(せっかく、さっきまで珍しくモリモリ食べる若人を見つめて、心から嬉しそうにしていたというのに)。
 思わず取り零した幼馴染の箸を拾い上げて、一二三はニコリと兄弟に笑いかける。
「じゃあ、デザートを食べたらお開きしよっか?」
 笑いかけた一二三に、口元に新たな米粒を付けた二郎が「マジで?!」と椅子から腰を浮かせるのを、反射みたいにして三郎が腕を掴み着席させる。それにすら独歩は過敏に反応してしまって、口だけをパクパク動かして、一二三に何か伝えようとしてくる。
 一二三は何も気にしない素振りで、卓上のタブレットを打ち込んで、デザートを四人分注文してやった。

* * *

「二人とも、ありがとうな……にぃ、兄貴にまでお土産持たせてもらっちゃって」
「お前たち二人にとっては端(はした)金だろうけど、その。正直うちの家計が助かる。アリガトウゴザイマス」
 湿度が高いので、降るかなっと思っていたら本当に雨が降ってきた。降りしきる小雨の中、上着を脱いだ兄の方がそれを二人の頭上にかざして、まるで身分を隠したお姫様みたいにして兄弟が雨の中、走って行く。その細い腰に、弟の左手がさりげなく添えられているのを見て、一二三は幼馴染に向き直った。
「ねぇ、あれ見た? 独歩ちん」
「言うな、いうな何も……。俺は若い子が気持ち良く飯を沢山食べるのが見たかっただけなんだが、何なんだこの気持ちは!」
 独歩は髪の毛みたいに顔面も真っ赤にして、胸元を大げさに抑えながら「ううぅ」と蹌踉(よろ)めいた。一二三はせっかく息抜きのために外食したのに、結果なぜかダメージを受けてしまっている幼馴染に対して、大変同情した。
 背中を撫でてやりながら、アプリでタクシーを呼ぶ。
「きっと、可愛いと思っていた飼い猫や飼い犬が、『雄』だったり『雌』だったりしたのを、まざまざと見せつけられた気分なのかも知れないね」
 それは本人には、言わなかったけれど。
「ねー? どーっぽちん!」
と言ってタクシーに乗り込んだドサグサで、ぎゅっと幼馴染みの手を握る。我ながら拗らせているなぁと苦笑しつつ、タクシーの外を流れる見慣れたネオンに目を細めた。独歩はどうしてか、手を振り解かなかった。

<おしまい>