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sugu_yoru
2023-10-09 18:09:03
1834文字
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【天ヤマ】映画で揺さぶられる九条天⑥
アイナナ 天ヤマ 勉強中。映画に影響されて、大和への気持ちに気づいてしまう九条天。
続きます。
「暖かくして眠るように言ったし、このあと和泉三月に一言伝えるから大丈夫でしょ。そんなことより、キミはどこに居るの?」
『写真で分からない?』
「ボクは探偵じゃあないもの」
『音、聞こえない?』
言われて耳を澄ますと、穏やかでどこか神経質味もある大和の声の向こう側に、ざざんと水が泡立つ音が聞こえる。
「海に、居るの?」
『あったり~。撮影で行ったところと違うけどさ、酔ったら何となく来たくなっちゃった』
「
……
何で今更、和泉三月に隠し事なんてしようとするの?」
『お前さんとのことだもん』
そう言われて、天は思わず立ち上がっていた。
「そこに居て」
天は手短くそれだけを告げて、通話を切った。大和が息を呑む気配が耳の中に残っている。壁に掛けられた上着を片手で外し、自室を出る。夏はとっくになりを潜め、廊下はもう涼しかった。階下のリビングには、顔を赤くした残り二人の年上メンバーが、健全な酒盛りしていた。
「天、こんな時間にどこか行くの?」
まだほろ酔いと見える十龍之介が、心配げに眉を下げる。
「もう十八(じゅうはち)越えてんだ、大丈夫だろ? 何だ、コンビニか?」
スルメの脚を、男らしく噛み千切りながら、こういうところで全然過保護じゃない八乙女楽に、天は一瞥を投げる。
「コンビニ、甘いもの買ってくる」
そう言って鍵を掴むと、二人の追求を避けるようにマンションを早足に出た。エレベーターに乗り階下へ降り切ると、大通りの方へ走って行って、すぐに右手を挙げる。捕まったタクシーに、予測できた近場の海の名称を告げた。
……
嗚呼、何してるんだろう。こんな風に闇雲な形で、会いに行っては駄目なのに。
そう自分を律してから「どうして?」とそんな己に問う天も居る。取り出したスマートフォンで彼に連絡をしかけて、それができなかった。天にしては珍しく、タクシーの後部座席の背凭れに深く腰掛けて、重く息を吐き出す。
一番近い、海に居る気がしたんだ。だから
……
そこへ向けて走ってもらっている。海浜公園のすぐ前までやって来て、天は運転手に「停めてください」と静かに告げて、スマホで決済すると、一礼してタクシーを降りた。
道路沿いから砂浜まで、かなり距離がある。高台に辿り着いたら、薄暗い砂浜にポツンと人影が見えた。遠くから見ても、その立ち方で彼の人が分かる。繊細でいて、どこかまっすぐとした首すじ、美しい佇まいに、天は思わず走り出す。
ざざんと水音。静かな水辺で、波音以外の音は捕らえやすかったのかも知れない。大和は顔を上げて、少し吃驚したように天を見つめた。
……
何を言おう、なにを。
「ラビチャ
……
」
「ん?」
互いの声が研ぎ済ませれて良く聞こえる。天は、語尾が震えないように慎重になった。
「寮の皆から着てない?」
「ミツから着信が鬼のように来てる、ラビチャはメンバー全員から」
「
……
何て?」
「『意地っぱらないで、はやく帰って来いよな!』とか」
「それ誰?」
「タマ
……
お前さんは」
「え?」
「通話切ってから、俺に何か送った?」
「ボクは
……
送っていない。届いてないから分かるでしょ?」
「そ、残念。にしても、波音だけでここに辿り着くだなんて流石九条天! 優秀ゆうしゅう」
大和は、自分の足に追いついてきた波を、天とは反対の方へ蹴って飛ばした。キラキラ水がネオンの中煌めいている。時間帯は違うが、あの映画の再現のように感じてしまう。しかし、日の出には遠過ぎる。
それを証拠に、彼は二階堂大和そのもので。しかし天に注がれる眼差しは、あの映画の黒江と同じ。恐らく、彼にとって愛おしい人を眺める目つき、そのものだった。
……
うぬぼれかも知れない。でも天の足は臆せずに、彼に向かって走り出していた。胸元に抱きつくと、大和は驚いたようだった。それでも押し退けたりせずに、こちらの背に手を回しかけて止める。
「くじょう
……
」
布が、彼の袖が、天の上着に当たる、布が擦れた音がする。
「あったかいなぁ」
と、何だか泣きそうな声を出して、大和は観念したようにゆっくりと天の背に腕を回した。
「セクハラに拍車をかけちまってる」
「同意だったら、それはセクハラにならないんじゃあないの?」
ああ、夜よ明けてくれ
……
! そう強く願ってしまうが、時刻はようやく日が変わった程度だろう。大和の向こう、海の向う側のビル街が、ピンクに紫に、美しく輝いている。
<続く>
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