さて、二階堂大和はと言うと、自室のベッドの前で誰かに怒られるがごとく正座で座っていた。いや確かに先ほどまで説教は受けていた。しかも好き合っている相手にだ。
内容としては、「二十歳になったのだから、もっと恋人として先に進みたい」とのことだった。大和だってやぶさかでない。でも「この場所では嫌だ」とそう返して、同姓カップルらしく、上下が決まってないことも理由にした。それがいけなかった。
お互いがおたがいで『下』をやりたいと言ったものだから(!)、なぜか売り言葉に買い言葉の喧嘩になってしまい、激高した天が思わず大和をベッドに組み敷いたところで、シャランと装飾が大和の上に垂れ下がった。
「……え?」
「おや、久しぶりだね」
その落ち着いた笑みに、転げるようにベッドから飛び降りて距離を取る。窓からの日光を浴びながらたおやかに起きあがったのは、いつか夢の中で出会った、『星巡りの観測者』の登場人物、シレーネ(碧水の星)の賢王、サルディニアだった。
「ニカイドウヤマト、久しぶりだね、元気にしていたかい?」
彼が通常身につけるものより、少しばかり軽装なその透けた衣服には見覚えがあった。それは彼の夜間着で、夜間着といえど付いている石類は本物の宝石であろう。窓からの光彩を孕んで、まるでサンキャッチャーのように室内にプリズムを撒き散らしている。
「ここが、キミの住まう部屋なの? それとも何か罪を働いて投獄でもされた?」
「人聞きの悪い。この世界のこの国じゃあ一般的な寝室のサイズですよ」
シャラシャラと、サルディニアが動くたびに豪奢な装飾が音を出す。大和と彼以外は現在、新しい寮の中には誰も居ない。理(あや)でさえ、帰って来るまで四時間以上ある。
「ふむ、丁度良かった」
「?」
「一度、この世界に来てみたいと、そう思っていたんだ」
「えっと……じゃあその、観光でもします?」
「うん、その前に『あの子』が置いて行ったものを取り戻そうかな」
「? ? ?」
* * *
「あの衣装に縫い付けられている物は、俺が加護を与えた宝石たちだ」
「ふむふむ」
ああなんてことだろう、寮の居間にサルディニアが居る。サルディニアは、大和が用意した軽食を、斜めから左右に見て、持ち上げてクンクンと匂いを嗅ぎ、両手で器用に持って大きく口を開ける。がぶりと思い切りよく食べるその姿が、九条天よりもずっと意外だった。
料理好きの三月のおかげで、家にローストポークやらアボガドやら、見栄えのある食材があって良かった。大和も自分の前に置かれた分厚いサンドウィッチにかぶりつく。辛子もちょうど良く、我ながらなかなか旨いサンドウィッチだった。
「お口に合いましたか?」
「なかなか良い」
「そら良かった。それで、賢王さまのその宝石たちをこの世界に置いたままだと何か困ったことが起きますか」
「本来ならそこにないものが、あれば地場が歪むさ。オレぐらいならまだ良いけれど、宙を飛ぶ艦隊なんかがこちらの世界に突っ込んできたら困るだろ?」
「そら困ります。みんな腰を抜かしてしまう」
「ふふ、だから回収しようと思ってね」
その余裕の笑みに、サルディニア……彼の人は、自由に元の世界に戻れる錯覚があった。あったけれど、聞いたときに「いや、その算段はないよ」と言われるのが何となく怖くて、大和は咀嚼に努める。
「それで、あの子の衣服は今どこにある?」
「丁度、衣装の会社の子と連絡先を交換しているから、さっき電話してみたんですけど、なんか今『星巡りの観測者』の衣装展っていうのが全国で行われていて、それによると……名古屋にあるみたいなんですよ」
「イミテーションと本物の石の違いに、そのプロの装飾人たちは気づかないのかい?」
「俺たちの衣装担当の会社、それはもう腕があるところなので、逆に気づかないのかもしれません。装飾に本気(マジ)になり過ぎて、身動きがとれないくらい重たい衣装とかもある」
「ふふ、それはもう逆に『本気』の敗北ではないのかい?」
「そうとも言います。でも俺たちの努力とど根性でショーは続いていきますので。それにしても、名古屋か……」
「ナゴヤ、そう言う名前の都市にあるのだね。では食事が済んだら行こうか、二人で」
サルディニアはマイペースに、サンドウィッチの最後のひとかけらを呑み込んでしまうと、大和が用意したカフェオレを注意深く飲み下し、「花を摘みに、行きたいのだけれど」と言い出したものだから、大変恐縮した。
<続く>
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