sugu_yoru
2023-09-18 19:43:52
1830文字
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【天ヤマ】映画で揺さぶられる九条天⑤

アイナナ 天ヤマ 勉強中。映画に影響されて、大和への気持ちに気づいてしまう九条天。
続きます。

 それが、一線引かれたように感じられた。目の前にガラガラとシャッターを降ろされた気持ち。メンバーや家族以外に、こんな気持ちを抱くだなんて、天は後ろ手に、片腕を上げて楽屋を出て行く二階堂大和の背を、見つめ続け見送るしかなかった。

* * *

『映画? 観に行ったよ! 二人ともかぁっこ良かったよねぇ』
 通話の向こう側、嬉しそうに弟の声が弾んでいる。「誰と行ったの?」と天が穏やかに聞くと、『一織と環と、あと悠くん』と答えてくるものだから意外だった。
「『悠くん』って亥清悠? そんなに仲が良かったっけ?」
『学校の終わりでうちの高校生組と行く予定だったんだけど、悠くんも一緒に行きたそうだったから一緒したんだ。あ、聞いて! オレお兄さんだから全員分チケット代払ったんだよ!』
 えへんとばかりに答える弟が可愛くて癒され、昼間のどうしようもない気分が幾分か和らぐ。
「偉いエラい。結構したでしょう?」
『普段無駄遣いしてないから平気』
「亥清悠、何て言ってた?」
『「大人っぽい内容は、メンバーの出演作で慣れてるけど、オレこれからおまえらのリーダーどんな顔で見ればいいの? の気持ち」って言ってた』
「それ、感想かな?」
 天は思わずクスクスと笑ってしまう。
「それで、その噂の当人はどうしてる?」
 弟を若干利用しているような罪悪感に胸が痛んだが、これも弟に対する甘えなのかもなと自分でじぶんが恥ずかしくなった。弟の返事を待っている間、傍らに置かれたカフェオレがどんどん冷めていくのに気づきながら、せめてもの正しさで、それに一口もくちをつけれなかった。
『大和さん? 今日は三月と早い時間からずっとお酒飲んでる。オレも途中までリビングに居たんだけど、少し身体が冷えてきたから部屋に戻って来ちゃった。みんなは温度、上げてくれるって言ってくれたんだけどさ』
……
『あれ? そう言えば何だか階下(した)が騒がしいな……。ちょっと待っててね』
「いいよ、また掛け直すから……
『ダメ! ちょっとだけ!!』
「うん」
 七瀬陸は、そう天に言い含めると、通話の向こう側でガサゴソと騒がしく部屋を出ていってしまったようだった。スマートフォン越しにその音を聞いて、天は肩を落としてため息をついた。そこでようやく持ち上げたマグは、やはり人肌ほどぬるまっていたが、甘さが身に沁みる。
 やがて息を切らせて戻って来た弟に、「家の中で走らないの」と穏やかに注意した。しかし、陸は天に注意されたのと関係なしに、何だか元気がないのだった。
「どうしたの? 陸」
『あ、何でだか、大和さんと三月が喧嘩しちゃって、寮を出て行っちゃったんだって、こんな時間に……
……
 元気がない弟に、映像つきの通話を許そうとして、言葉が引っ込んだ。部屋掛けの時計を見上げると、全く浅くない時間なのだ。
『三月が言うには今日の大和さん、ちょっと前の大和さんに戻っちゃったみたいな感じで、何か悩んでいるのに教えてくれなかったみたいで……
「そう」
『お酒たっぷり飲んでたみたいだから、何だか心配』
「陸、ごめん。ボクもう通話切らなくちゃ」
『あ、引き留めたのにごめんね』
……暖かくして、眠るんだよ」
 元気がなくなった弟の心配まで心に重なって、天は思わず眉間に指二本を添えて呻くと、ほぼ間髪入れずにスマートフォンが震えた。
 それは、昼間気まずく別れた二階堂大和からだった。テキストはなく、写真のみだった。濃紺の空に浮かぶまっ黄色の月。ぞっとするほど美しい其れに、文豪が昔訳した、「アイラブユー」が脳裏に浮かんで消える。
 弟と通話していたことで、彼の今夜の身の上を知っているのが何となく後ろめたい。知り得てしまった彼のパーソナルな情報に、触れないように文言を考えていたところで、なんと相手から通話がかかってきた。
「もしもし?」
『やほ! 九条起きてたぁ?』
「こんな時間に通話してくるだなんて、不謹慎」
『そ? さっきリクと通話してたんじゃないの?』
「家族は特別」
『そら、そうだよなぁ……
 向こう側で月の下、大和が笑う気配がする。思わず顔の筋肉が緩む。きっと向こうでは、風が吹いている。だから配慮もなく、つい言ってしまった。
「和泉三月と喧嘩したでしょう」
『お! やっぱり聞いてたか』
「『やっぱり』じゃないよ……
『リク、今夜具合悪いとか言ってた?』

<続く>