sugu_yoru
2023-09-02 20:32:23
1886文字
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【天ヤマ】映画で揺さぶられる九条天②

アイナナ 天ヤマ 勉強中。映画に影響されて、大和への気持ちに気づいてしまう九条天。
続きます。

「そ」
と微笑んだ千は満足げだった。その斜め後ろで、天の視線に気づいた大和が何だか少し困ったような顔してる。……何でそんな顔するんだ。そんなことが気になって、そのあと二人と何を話したかあまり記憶に残らなかった。

 楽屋に帰ってきて、ドッと疲れたと感じる。楽屋の数が少ないというのは本当のようで、TRIGGERに割り当てられた楽屋は和室だった。天は、行儀良く靴を脱いで楽屋の奥の方へよじよじと四つん這いで進むと、座布団を一つ二つに折って、ふて寝する猫みたく横たわった。
 天の珍しい行動に、残り二人のTRIGGERは顔を見合わせ、十龍之介の方は「な、なんだか撫でたくなっちゃうよ」と震える右手をこちらにかざして、それを反対の手で押しとどめる、小芝居までして見せる。
「どうしたんだい天、猫ちゃんみたく、丸くなって」
「『ちゃん』?」
「そこ引っかかるの、やめてもらっていいかなぁ?」
 龍之介がわずかに赤面するのに、「ただ単に、昨夜のレイトショーで遅くなって眠いだけだろ」と八乙女楽がさしてそのことに対して気に留めず、天の傍にドカリとあぐらを掻いて座り込んだ。足が近い、臭う印象は全くないけれど。
「そうだ、映画。観てきたんだろ? 良かっただろ? よかったよな!」
……そんな詰めなくても良かったに決まっているでしょ」
「起きてるじゃねぇか、狸だ」
「タヌキだ」
「良いでしょ別に。ボクだって観てきたばかりの感想とか、メンバーと言い合いたい」
「さっき、主役の二人に挨拶して来たんだよね?」
「そうなのか、二階堂何て言っていた?」
「何でそこで二階堂大和の名前が出て来るの」
 思わず涅槃(ねはん)図から起き上がると、八乙女楽に肘で小突かれる。
「アイツ、お前が昨夜時間を作って観に行ったって言ったら浮かれてたからさ、お前もちゃんと感想言ってやったか?」
……言った」
 天は、少し思案してから正直に答えた。確かに言った、でも二階堂大和とは距離が離れていた。千に向かって言っていたと言う方が正しい。
「ねぇ、素晴らしい映画だったよね。大和君が最後に海辺で顔を上げるところ、俺も楽も泣いちゃってさぁ」
「『黒江』」
「え?」
「あれは二階堂大和じゃあない」
「細かいこと気にすんなよ、演者は二階堂だろ?」
「二階堂大和じゃない」
「分かったって!」
「キミ、泣いたって?」
「俺も龍も馬鹿みたいに泣いちまって、姉鷺何て言うかなぁって思ってたらアイツが一番泣いていたよな」
「あれ、泣かないの難しい……
「だよね! ユ……いや『キキ』も素晴らしかったよね」
「千さんああいうクラシカルな装い似合うよな、探偵役も格好良かった」
「良かった!」
 わぁっと美男子が二人盛り上がっている。天は寝そべって乱れた髪の毛を指先で直して、自分は笑顔でその会話に加わることはできなかった。天は、自分が良いなと感じたところが、メンバーやマネージャー、世間と一緒で何だか面白くなかった。
「今、その映画凄い人気なのよ。『キキ黒(くろ)』って言ってね、劇中の二人にコンビ名みたいのができちゃって、リピート客が後を絶たないんですって」
 いつの間にか楽屋に入室してきた姉鷺カオルが、極自然な流れで会話に加わって来る。
「『探偵キキ』のシリーズって原作はイギリスのミステリー小説じゃない? 実は、Re:valeの千をキキ役で最初連ドラが予定されていたんだけど、物語が壮大だから、映画になったの。『黒江』って一作目に登場する『クロエ』が元のキャラクターなのよね。原作小説の方だと弟たちを守って命を落としている。でも、今回の映画では死ななかったじゃない? 本当なら次回作は黒江はもう出て来ないはずなんだけれど、ファンの子がね、彼の再登場を期待しちゃってるのよ」
「でも、あれは……
 あれは、あのラストはあれで良かった。二人は再会できたとて、キキの人生にクロエは寄り添わないのが正しいと思えた。天は実は原作を読んでいる。クロエがそれきり、キキの物語に関与しないことも知っていた。
「あー……惜しいことしたわ。キキ役のオーディションに楽と龍之介も呼ばれてたのに」
「あの、ミュージカル中に来てたオーディションか」
「仕方ないよ、俺たちは劇に集中していたかったし」
「そうなのよねぇ。まぁ、これから続編があるなら三人ともいずれ呼ばれると思うわ」
「そうか、あの脚本家すごいから俺も一緒に仕事してみたい」
……
 原作を読んでいる天にも、日本版の脚本家の凄さはしっかり伝わっている。

<続く>