sugu_yoru
2023-08-07 00:34:29
1826文字
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【天ヤマ】映画で揺さぶられる九条天①

アイナナ 天ヤマ 勉強中。映画に影響されて、大和への気持ちに気づいてしまう九条天。
続きます。

 髪を一つに結わえているRe:valeの千は、麗しく、下ろしているときとは大分印象が異なって見える。役を演(や)っているならば尚更だ。監督や衣装さんが、役作りのために彼をそう演出するのは大正解だと言える。
 映画館、レイトショー。予約した段階で人はガラガラだったが、今は数席置きに女性が座っているのが分かる。そして彼女たちが息を呑むのも……
 実は、試写会にTRIGGER三人で招待されていたが、天は仕事でその日参加できなかった。九条天は大画面でシーツの海の中、千に縫い止められている人物を見て、マスクの中でため息をついた。
 今回、千はお洒落な探偵の役で、繁華街での殺人事件を追っている。追っている中で、男娼である二階堂大和演じる青年の存在に気づき、買ってみる……という話の流れだ。
 細く、繊細な指先が、二階堂大和のどちらかと言うと小麦色の肌の上をなぞる。白いシーツと白いシャツ、そして月明かりみたいな千の肌の下で、大変生々しく、瑞々(みずみず)しい獣に見える。九条天は、思わず生唾を飲み込んだ。
 映画を観ている最中はもちろん、彼は幼い兄弟たちを育てるために身体を売っている、男娼の『黒江』であり、二階堂大和ではない。観ている間は、彼は自分の良く知る人物ではない。
 しかし、劇場を出たあとに、不意にそれが天に襲いかかってきた。
 ……本来であれば、あんな彼の声や内側は、プライベートな部分であり、彼に許された人物のみのものであるはずなのに。いや、何を考えている。こんな思考は二階堂大和にとっては屈辱だ。決して表に出してはならない、プロ意識に欠ける、失礼な考えだとブンブンと頭を振った。
 観る前は、映画が終わったら良くても悪くても彼にラビチャを送ろうってそう思ってた。けれど、実際観終わった今は、ラビチャを開き、文字を数行打ちかけて止めてしまう。そのままスルリとショルダーバッグにスマフォを滑り込ませて、再びため息をついて地下鉄へ向かう。明日朝、局で仕事があり、何となく嫌な予感もしていた。

* * *

「おはようございます、九条~。聞いたよ。昨夜俺たちの映画観に行ってくれたって?」
「二階堂大和、おはようございます」
「アレ、試写は招待しなかったの?」
「したけど九条はその日、CMの仕事で一人だけ、観れなかったんだって」
……誰にボクが昨夜、キミたちの映画観るって聞いたの?」
「さっき、楽くんが僕らの楽屋にわざわざ感想を伝えに来てくれたんだよ」
 そうシレっと答えるRe:valeの千は、優雅に手を広げて、暗に二人の楽屋が一緒であると匂わせてくる。事務所も違う、別グループのアイドル同士が同じ楽屋とか聞いたこともない。
 顔に出ていたのだろうか、「今日なんか特番が重なって、大きな楽屋しか空いてなかったんだって」と二階堂大和が嫌そうに答えてくれる。
「いや、別に聞いてないし……
 何となく大和のテンションが高い気がする。
 二人は、ここ一週間ほど。まるでデュオのように映画の番宣であらゆる局や番組を練り歩いていた。それが九条天には面白くない。……百さんは嫉妬しないのかな。とぼんやり考えていると、大和が天の目の前でヒラヒラと手を振った。
「お~い、聞いてる?」
「あ、え……ゴメン。何だったっけ?」
「僕と大和君の映画の話。で、どうだったって?」
「良かったです、とても」
「だって、良かったねぇ大和くん」
「え……?」
「いやね、君が空き時間を作ってまで観に行ったって聞いて、めちゃめちゃソワソワしてたんだよ」
……してないですよ」
 大和が唇を尖らせて肘を千にぶつける。その一部始終が、気心が知れている感じがして、妙にモヤモヤする。千が愉快そうに重ねて天に尋ねる。
「ちなみにどこが印象に残った?」
「ハイ。二人の関係性の変化が二時間の中で極自然に表現出来ていて、ラストの海沿いのシーングッときました」
「二人は再会できたと思う?」
「ボクは……会えたと、思います」
 作品としてはそう、素晴らしい物だったのだ。『黒江』という青年が、全てすべて許されて、朝日が昇る海の際で、何かに気づいて顔を上げる。眩しいのか、見つけた相手に向けての物なのか。それまで能面のようにあまり表情を崩さなかった青年が、まるで神様に再会したように涙を滲ませ、破顔する表情が見切れて、しっかりと彼の姿を映さないのがより泣けた。

<続く>