sugu_yoru
2022-10-10 22:44:45
1820文字
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【天ヤマ】シンカイになってしまう大和7(サルシン)

アイナナ 天ヤマ 勉強中。ニカヤマさんが劇中劇の世界に飛ばされてしまいます。
続きます。

「おや、こちらが良いかい?」
 サルディニアは大和の視線に気づいて、女中に軽く耳打ちしてくれる。すると、大和の前にも白い器に品良く盛られた粥のようなものが届いた。黄金色に沈んでいる穀物は、米や麦など大和が知っているものと形状が違った。
 しかし、息を吹きかけてレンゲのようなもので掬ってみると、味はチキンのような穏やかな旨味があった。空腹を思い出し、大和が夢中でそれを食べていると、サルディニアが声を出した。
「今日はこのあと、君たちはどうするの?」
「このあとすぐ出発しようと思う、ホープと約束していて」
 ホープ……百さんが演(や)っていた、いわゆる主人公ポジションだ。
「え~もう出発しちゃうの? このお兄さんも連れて行ったら、道中楽しくなりそうじゃない?」
「まぁそれは、本人が望むのであれば」
「だって! ヤマトは僕たちと船に乗るだろ?」
 ウキウキとエリンに尋ねられるが、スーッとサルディニアから寄越された流し目が鋭かった。温かい粥を食べているのに、ぞくりと背筋が冷える。
……彼は行かないよ。シンカイが戻って来るかも知れないからね」
「じゃあ王様、僕たちももうちょっと……
「エリン、視察なら昨日しこたましただろ? 俺たちは出発し、彼は残る。それで話はしまいだ」
 オライオンが、食後の良い匂いのするハーブティーのようなものを啜って、エリンの希望を遮断するように瞳を伏せてしまう。一瞬エリンの気配がまるで殺人犯のように鋭く尖ったが、横に座る大和の怯えに気づいたのか「チェー」と唇を尖らせて、コミカルな気配に変わる。
 朝食が終わると、身支度を整えたラーマの二人を、船乗り場まで見送りに行くことになった。エリンは大和にベタベタして、名残惜しそうにしている。
「ああ、残念。君とまた船に乗りたかったのに」
「俺は……シンカイじゃない」
「でも、宇宙船に乗ってみたいでしょう?」
 そう悪魔の囁きみたいに七瀬陸と同じ声帯で言って来るが、オライオンに襟首を掴まれて無理矢理彼より先に船に向かわされた。オライオン越しにエリンは残念そうに何度も振り返って、ブンブンと手を振って来る。
 大和もそれにはおずおずと手を振り返すしかなかった。宇宙船が飛び立って、サルディニアがひょいっと大和の顔を覗きこんできた。
……エリンと離れて寂しいかい?」
「もう二度と逢えないかと思うと、少しは」
「フ、君『も』正直だね」
 サルディニアはそう言って微笑みながら、大和を誘導する。白い船乗り場の一ヵ所に、穴が空いていて、覗き込むと底から風が吹き上がって来た。
「水の中の道を通るよ」
「そ、んなこともできるんですか?」
「できるよ」
 サルディニアとともに、深い階段を降りて行く。後ろ手に指先を差し伸べられて、心細さから大和は素直にそれを指先でそっと掴んだ。思った通りの低い体温に驚いていると、いつのまにか階段は終わっていた。
「わぁ」
 そこは水の中の大きな回廊だった。天井は見えないくらい高く、等間隔にそびえ立つ白い柱の間は水で満たされていた。まるで水族館のように水の中が良く観察でき、見たこともない海洋生物たちが自由に泳ぎ回っている。
 サルディニアが右手をすいっと上げて、大和の視線を掬い上げる。どういう技術か分からないが、硝子もないのに水の壁ができていて、中がどぷんっと一度蠢いて、銀色の魚の大群が、まるで海の底から湧き上がったように、群れをなしながら、宙へ躍り上がってゆく。
 銀鱗が陽光を受けてきらめき、大きな虹のような弧を描きながら天上へと昇ってゆくさまを眺めていると、不意に、その群れの中から一匹の小さな魚が現れて、一度空中(真横)にピチャリと飛び出して戻った。すると、そこに気を取られて立ち止まった大和の背に、そっとサルディニアが両手を乗せる。
「君は……彼が望んだからここに来ていると思っているだろう? 彼の願いを叶えてあげたくて、そうなったと」
……突然ですね」
「答えは?」
……はい、違うんですか?」
「違うよ。彼があの子を望んだように、君もまた俺を望んだのさ」
 水に大和と賢王の姿が、まるで家族の肖像のように映り込んでいる。不意にサルディニアが大和から離れ、背中を向けて俯いた。その姿がシンプルな衣装にどんどんと変わってきているが、大和の肩に乗る手はそのままだ。
「さぁ、水の中を見てごらん」

<続く>