sugu_yoru
2022-09-25 20:19:36
1358文字
Public
 

【タイカケ】蹴るな、尻を

ずっと放置していた新作です。タイカケ深夜のおえかき一本勝負 第49回【過去お題:ずっと】です。

「ターイガきゅんとだって、その……
 ツンツンと何か言いかけて、自分でその内容に傷ついた。思わず浮かんだその考えを、飲み込んでしまうには深刻すぎて、十王院カケルは力なく肩を落とし、唇をきゅむっと噤んだ。「おめぇ」と不器用に声を出して、香賀美タイガは呆れたように振り返る。
 時刻は十六時過ぎ、外が橙色に染まっている。それも陽の光の位置がだいぶ下がってきていて、二人をまるで炙るように照りつけてくる。いつの間にか二人、夏を通り越した季節の中にいたが、夕日のせいで何だかまだ暑かった。
「日が暮れるのが、早くなったねぇ」
「かと言ってずっと同じだと困るだろうがよ」
 「さっき、何言いかけたよ」と言葉には出しはしないが、それを詰められていると感じて、カケルは下唇を噛んだ。「別に、大したことじゃあないよ、予定調和の話」と早口で言い訳をしかけて黙り込んだ。昼間の会社の役員としての仕事が、どっと疲れで実感できたようだった。

 『いつまでもずっと、一緒にいられるわけじゃないしさ』

 言いかけたくせに、今は口から出すのがとても嫌だった。その思考が女々しくて、何とも言えない気持ちに唇を噛む。すると、少しガサガサした丸い親指が、カケルの唇の合間にぐぬりと捩じ込まれる。
「いふぁいいふぁい、ひたない!」
「お前ちょっと、何か言う前に考えろよな」
「か、んがえてるよ」
「言って自分で傷ついてんじゃねぇよ、つってんだよ」
「まだ、口から言葉は出てないよ」
「出てねぇなら尚更早過ぎだろ」
 そうしてこちらの手のひらを拾うと、今度はカケルの指にも噛みついてきた。歯を立てて甘噛みされて、驚いて手を引っ込めようとしたら手首ごと掴まれた。そのまま腕まで舐められそうになるから、「やめてってば!」と慌てて押し返す。
「な、にしてんの……ここ、往来」
「そういうこと言うなっつー話だろ、今さら」
……タイガきゅんこそ、言おうと思ってたことをエスパーみたいに先読みしないでよ」
「それは……、悪かったけど」
「悪いと思うなら、謝ってくれても良くない?」
「謝ってるだろ?! うぜぇ、マジうざい」
 でもタイガのこういった言葉にいつも掬われる心地でいるのだ、カケルは。だから今日も、結局最後には素直になってしまう。
「俺っちも、ごめんなさい」
……別に」
 ふいっと顔を背けて、それでも手を離さずに歩き出した。もうすぐ寮に着くというところで、ようやくタイガは立ち止まる。待っていてくれる。
「いつまで一緒にいられるか、じゃねえんだよ」
「?」
「俺らがずっと一緒にいたいかどうかだろうが」
 自棄っぱちのように放たれた言葉が、向こうから力を込めてきた手のひらが。初めて会ったときよりずっと、『男の子』してた。
「へへ、それなら俺っちでも言える」
「おう」
「『ずっと』って、言えちゃうなぁ」
 言って笑ったら、腕を引かれてケツを軽く蹴られた。カケルは「ぎゃ! タイガきゅん、流行のやつ? 流行の奴なの?!」とワケの分からないことを言ったが蹴り返さなかった。もう寮に着くが、先ほどよりそれが名残惜しくなかった。
 現金な奴と言われればそれまでだが、カケルにはまだこれからもタイガとの『ずっと』が続いていくからだ。

<おしまい>