sugu_yoru
2022-09-21 23:36:14
1931文字
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【③+④】代理戦争②

六つ子が派生松を代理に闘わせる兄弟喧嘩妄想。その②。

チョロ松の場合

 ……全くもって、ケツ毛燃えるわっ……
 僕はプリプリと憤慨しながら、釣り堀に向かって一人で歩いている。珍しいって? 僕だって養殖の魚をバカスカ釣りたいときだってあるよ。ってなわけで一人で受付のオバさんにお金を払うと、意気揚々と水面に針を落とす。
 動作を固めると、くきりと首を鳴らした。あー何か疲れた、ハロワ行くより疲労したわ。イライラしてしまって垂らした釣り糸も揺れる。すると、水面がぎゅるんと渦巻いた。まるで中から指で掻き混ぜたような軽やかな波だったけれど、そんなことは久しぶりに起きたもんだから僕は思わず身構える。
「うー……ん、めんどくさい」
 伸びをしながら現れたのは、いつぞやのコントで僕がしていた、女神姿の兄弟の『誰か』だった。僕はびっくりして、その相手が六子の兄弟の誰か見極めようと目を凝らす。すると、三角形に噤んだ口元が、まさに今朝見た僕の、僕の顔とおんなじだった。
「ぐぇ」
「他に何か思うことはないのかい、えぇ?」
 白い衣とは裏腹に、腹黒い笑顔を浮かべながら、不思議な力で浮き上がった僕をニヤニヤ見上げてる。僕は真っ逆さまになりながら「どどど、どういうことだよ」とその『女神』に質問を投げるが、彼はクスクスと笑うばかりで要領を得なかった。

* * *

「それで……
「うん」
「神様たちが気まぐれで、僕ら兄弟を闘わせようとしてるってことで、オッケー?」
「流石僕! 理解がはやい!!」
 女神は嬉しそうに口を三角形に開くと、釣り堀のベンチに力なく座り込む僕を見下ろしている。
「その、君ってばこんな釣り堀の女神だって言っても、一応神様なんでしょう?」
「そう! だから君は運が良いよ。さぁーて、誰に一番腹を立ててる?」
「別に誰も……あっ、もし攻撃するなら、アイツ……からかな」
「はいはい」
 女神は片手を上げると、水の中から銀色に輝く魚を取り出した。それはビチビチと跳ねていて、どう見ても釣ったばかりの魚だ。彼はそれをポイっと放り投げると、宙に浮いたまま胡座を掻いて笑った。それと同時に、僕の身体も再び宙へ舞い上がる。
「わわわ」
「それじゃあ、行こうか!」
 女神が楽しげに手を振ると、視界の端っこの方では釣り堀の魚が何匹も空高く舞っていた。そして水の中へ落下すると同時に、僕らはどこかへ向かって連れ立って飛び立っていた。

* * *

一松の場合

 あ~……喧嘩した。死にたい。通常営業より八割増しで死にたい。でもまぁ、喧嘩は日常茶飯事だし、おれが死にたいのも常日頃ってね。ヘヘッくーらいの。
 そんなおれが向かうのはやっぱり路地裏で、モフモフの猫たちに囲まれれば少しは憂いも晴れるだろうか、てかそれくらいさせてもらえないと釣り合いが取れないとおれ、思うんだよ。
 背中を丸めて路地裏へ向かう。今日などは日差しは強くて、歩いているだけでニフラムをかけられたみたいに溶けて消えてしまいそう……不純物多過ぎて無理そうだけど。俯き過ぎて、前のめりになりながら日陰に入ってちょっとだけしゃがんだ。
 猫はそんなオレに構いもせずに、おれが置いた煮干しに夢中になってる。……なんだよ、とおれがつまらなく思って目線を上げると、黒い、ビロードみたいな布が目の前で翻った。スカートか? いや翻った布の下には、おれと同じすね毛が斑(まだら)に生えている。
「ちょっと……顔借りるよ」
「返してくれるなら」
 そう答えると猫みたいに襟首を掴まれて、路地裏のさらに奥に引きずられて行った。おれを引きずって行くのは明らかに『シスター』の格好をした『おれ』だった。脳みそがバグる……いや元からバグってはいるけれど。
「え、何。趣味なの? 嫌だ」
「おれだって嫌だよ。はぁ~面倒」
「面倒ごとに巻き込んだ側がため息つかないでくれよ……てか女装が趣味なの?」
「仕事する上で便利ってだけで、趣味ではない」
「スカート、動きにくくない?」
「理由はあとで分かるって、ところで」
 そう言って、行き止まりにまるで物みたいに投げられたおれは、背中を石の塀で打ってわずかに悲鳴を上げた。すると、女装シスター野郎はおれの前に立ちはだかってくれて、広がる白から阻んでくれる。飛び散る羽毛と白い布の合間に、健康的な肌色が見え隠れする。
「あっはぁ、兄さん!」
 ハイライトのない瞳が四つ。シスターを飛び越える形でおれのこと、覗き込んでくる。おれはぞっとして手を交差してそれを見上げた。すると巻き上がる黒いスカートの中から、エゲツナイ黒い銃器を取り出したシスターが、可愛がっている弟と、それに似た天使目がけて至近距離で発砲した。

<続く>