sugu_yoru
2022-09-19 17:18:15
2321文字
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【①+②】代理戦争①

六つ子が派生松を代理に闘わせる兄弟喧嘩妄想。その①。

おそ松の場合

 喧嘩した。だいたいにしてあいつら、長男の俺に対するリスペクトが足りないわけだよ、ぅんも~。みんなのばぁか! うんこ!! 俺もう知んねーかんな!!! 腹は空いたし、金はないし。俺はブラブラとパチンコ屋の通りを一人で散歩してた。

 ポツ、コロロロロロロロ……

 目の前で小さな着地音がして、赤くて丸いのが転がってくる。俺は、この先に八百屋があったろうかとぼんやり考えた。だってその丸いのは熟れて染まった林檎だったからだ。
 腰を折って、右手を伸ばすと。「やっべぇ、落っことしちゃった」って言う軽薄そうな声がどこからか聞こえた。
「空耳かな……?」
 周りには生憎誰もいなくて。キョロキョロと見渡していると、林檎を掴んだ俺の手に、正面から赤い爪が這う。それがお化けだったとしても、女の人だったら俺もなんか嬉しかったんだと思うんだよ。でも違った、それは俺の何の変哲もない手のひらにとても良く似ていた。
「いよ!」
……どぅも」
 普通に言葉を返せた俺のこと、誰か褒めて欲しいね。そこには、俺たちと全く同じ顔をして、同じスーツを纏った赤い瞳の男が立っていた。「林檎、好き?」と聞かれて「梨の方が好き……だけど」と答えながら内心俺の心臓はバクバクだった。
「俺はお前かぁ~、まぁ良いけどね。何か弱そうだし適当そうだけど、俺が強ければ問題ないってね♪」
 頭からは角、背中には羽、そして細く長く、先端がスペード型の『尾っぽ』が尻から伸びている。それが俺の身体を逃がさないようにぐるりと巻き込んだ。「ね?」と笑いかけられて、俺は引き攣った笑みを返すことしかできなかった。

* * *

「つまりそちらも……
「そう喧嘩しちゃってさ」
 悪魔は松野家の二階、窓辺の縁に腰掛けて足を組んで手を広げる。こいつは平行(パラレル)世界……と言うか別の次元から来たそうなのだ。俺らが居るこの世界を選んだのは、ちょうど俺たちが自分たちと同じように喧嘩をはじめたからだそうだ。
「まぁ本気を出せば、俺が圧勝なのは分かりきってるからハンデだね~」
 俺は、何の因果か自分の家の屋根の上で、俺の格好をした悪魔と林檎を齧りながら話をしている。どうしてこうなったのか、よく分からないけれど、とりあえずこいつが本当に悪魔だとしたら、どうすれば元の世界に帰ってくれるか聞かないとならないだろう。
「ねぇ、あんたさ、どーしたら帰ってくれんの? 教えてくんない?」
「あーそれ無理。だって俺、違う世界のお前だし。それにこの『喧嘩』に決着がつかないと、俺たち恐らく元の世界には戻れないんじゃあないかなぁ?」
「な、お前らがはじめた喧嘩だろ? 自分たちでわっかんないの?」
「わっかんないの、あの糞女神にそそのかされて契約したようなもんだからね。……そら、おいでなすったぜ」
 悪魔が顎で上空を指し示すと、そこにはこちらに向かって真っ直ぐ飛んで来る『鳥』がいた。白い、いや、白い布を纏っていて、俺の弟と同じ顔したそのコスプレ野郎は、俺と悪魔に向かってにっこりと三角形に笑いかけたのだった。

* * *

カラ松の場合

 兄弟と喧嘩した、オレ……! フッ、オレとしたことが少々ホットになり過ぎたみたいだぜ、ジーザス!! 一人で来る公園は寂しいものだな、いや本当はいつも一人だけれど。
 今日ばかりはカラ松ガールたちの視線もオレを慰めない。オレは公園の池を見つめて少しバッドな気持ちで橋から身を乗り出していた。
 空は晴天で、オレの漆黒の髪の毛がサラサラと横に流れる。冬の晴れ間の気持ちの良い日だった。でも心の中は変わらずSo badだ。
 鳥が、低く飛んで。池の水面に落ちたと思ったんだよオレは。でも違った。水面に映ったと思っていたオレの顔は、『オレ』のじゃなかった。そのまま、オレと同じ美しい顔が長い睫毛を伏せながら飛び出して来て、ガシッと慌てる俺の肩を掴んだのだ。
「ほう悪くない顔だ、オレはお前か」
 そうやってオレを覗き込んで来たのは、テレビで見るような黒衣を纏った『神父』だった。だが顔がオレたちと、というか『オレ』とそっくりだ。つまり……So Beautiful! 凛々しく、美しい顔をしていた。
「よろしく頼むぜ、相棒。……ブラザーたちのことは、愛しているが今回ばかりはオレの堪忍袋の尾が切れてな」
「ハァ?!」
「俺たちそれぞれが手駒を探して、そいつらの采配で『喧嘩』することにしたんだ」
「『喧嘩』とは?」
「普通に俺たちがガチンコで闘ったら時空が一つ消し飛ぶ可能性もあってな。俺たちを駒にして、比較的安全に喧嘩する方法を考えたわけだ」
「What's? それはどういうことだ?」
「お前にしては察しが悪いな……オレたちを使って存分に喧嘩をしてくれと、そう言っている。オレに当たったお前は超ラッキーだぜぇ? そら、早速おいでなすった」
 神父の格好をしたオレと、そしていつも通りイカしているオレとが振り返った先には、愛すべき末弟と、それと同じ姿形をした白い衣の青年が一人、立っていた。
「よっすーお待たせカラ松兄さんたち~。えっと、この人がボクの代理に闘ってくれる『聖歌隊のトド松』ね」
「よっろしくね~?」
「よろしく、オレはカラ松だ」
「カラ松、手を差し出すな」
「じゃ、はじめようか……!」
 黒衣のカラ松がオレを守るように立ちはだかって、だから良くは見えなかったのだ。少し遠く、十メートル先の可愛い弟の顔した青年の片方が、白を翻すと同時に銀色の何かがまるで雨みたいにオレたちに向かって横に降り注いで来たのだ。

<続く>