sugu_yoru
2022-08-15 00:07:52
1860文字
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【天ヤマ】シンカイになってしまう大和6(サルシン)

アイナナ 天ヤマ 勉強中。ニカヤマさんが劇中劇の世界に飛ばされてしまいます。
続きます。

……拒絶したんですか?」
「キミはされたの?」
 そう問い返してきたサルディニアの声が、わずかに傷ついていた気がして、大和は自分が割り当てられた寝台の上で身を起こす。しかし、掛ける言葉がなかった、掛ける権利が自分にはなかった。
「『行きたいのなら、お前一人で行きなさい。楽しんでおいで』って、俺はそう言ったよ。『必ず戻ってきて』とは、今回は言わなかった。必ず戻ってくると……信じていたから」
……
「あの子は水辺の縁に立っていた。それまで笛を吹いていたんだけど急にやんでしまって、エリンが叫んだときにはもう遅く、水の中に倒れるように落ちて行ったんだよ」
 余所の国とはいえ、従者が一人居るというのに、飛び込んだのか、この王様は。大和はそれに気づいてシンカイがますます羨ましくなった。大和が奈落に落ちるとき、九条天もまた、『彼』の方を望んだと思ったからだ。
……キミ『も』優しいね」
「え」
「俺と同じ顔をした、その彼のためにシンカイを逢わせようと願ったんだろう? それがちょうどこちらの状況と事情と一致してしまった感じだろう」
「すみません、あなたから彼を奪ってしまう形になって」
「全然。キミだってちっとも悪くないさ。それにあの子は絶対に俺の元へ戻ってくるよ。前だってそうだった」
……自信が、あるんですね」
「おや、羨ましいかい?」
「はい」
「フフ、素直だね。キミの方の彼だって、今頃後悔しているんじゃないかな。だから、そのうち戻れるよ。それまでシレーナを観光でもすると良い」
……
……灯りを消そうか」
「はい」
 パチンッ。正直、大和が答え終わる前に、広い寝室の灯りが指音一つで落とされた。大和がうつ伏せで、沸き上がってきた涙をシルクに染み込ませようとしたときだ。ギシリと隣の寝台が軋んで、シャラッと彼の装飾が音を流して、極自然な、まるで風が流れるような動作で彼の人が大和の寝台までやって来た。
「嘘」
「何が?」
 手のひらを握られる。うつ伏せを仰向けにさせるように引っ張り上げられて、見下ろされた大和は暗闇の中で王様から目を逸らすしかなかった。
「ちょちょちょ、庶民に手を出すなんて聞いてない」
「キミのところにいる、俺と同じ外見をした少年は怒りそうだものね。安心しなよ、俺はそんなことはしない」
 そう答えながらも、サルディニアは大和の首筋に鼻を押しつけるように傍らに潜り込んで、自分より体格の良い大和をぎゅっと抱きしめる。
「異世界に来てしまって、心許ない子供を励まそうって思っただけだよ。ほら、君も目を瞑って」
 大和に寝台にあった薄い上掛けをかけ、子供を慈しむように上から何度も撫でてくれる。小学校を越えても、母親からそういったことは何度もされてきたものだ(秘密だけれど)。しかし男性からのそういった行為は、久し振りな気がする。
 さほど大きくもないサルディニアの手のひらにひどく安堵を感じながら、大和は瞳を閉じ、深い眠りに落ちていった。

* * *

 それで、夢でないとは……。朝、大きな卓上に山積みの御馳走を前にして、大和は脱力しながら口元を抑える。朝は正直和食が好ましかった。大和の姿を見つけて、エリンが嬉しそうに走り寄って来る。
「ヤマト? でいいんだよね? 従者同士、隣りあって座ろうよ」
「俺はでも従者じゃない」
「客人だよね」
「おいおいエリン、向かい合って俺たちのこと守れるのか?」
「舐めないでよね、僕の王様」
 エリンは頬を膨らませて手に取ったナイフを(エリンの前には朝からジュウジュウの分厚いステーキが置かれている)スラリとオライオンに向けるものだから、大和の方が肝を冷やす。ラーマの王様は慣れたものなのかフォークで(彼の前には分厚いパンケーキのようなものが山盛りになっている)それを受け流すフリをして、大和に笑いかけた。
「何だ、ニカイドウ。そんなもので良いのか……
「えぇ、朝は……ハハ。そんなに食べられないので」
 大和は何とか見覚えがあるような、海藻サラダを白い皿にわずかに盛ると、それに食卓上のどの液体を掛けようか思案しているところだった。何だろう、海藻サラダよりも刺身のツマに近い気がする……
「オライオン、無理強いしないであげて」
 大和たちの斜め前、優雅に白いボウルのような器から、黄金色の出汁に沈んだ粥のようなものを食べているサルディニアが静かに制してくれる。海鮮が入り交じったような匂いに、大和の喉がごくりと鳴る。

<続く>