水から上がったあと、その九条天と同じ顔した男と、だだっぴろいプールのような浴場に放り込まれそうになった。しかしサルディニアは「彼はシンカイではないんだよ」とやんわり断ってくれたので、違うシャワールームのようなところへ通される(それだって、寮の浴室の倍以上の広さがある)。
操作の分からない装置で何とか湯を浴びると、女性たちが数人控えていて甲斐甲斐しく世話を焼かれて、大和は辟易した。薄く、たなびく心許ない服を身につけさせられると、薄暗い王宮の奥へと案内され、進んで行った。
スタジオよりも馬鹿デカい、大理石で囲まれた広い空間へ通される。少しうず高い、王座に座るのは、九条天の見てくれをした、賢王サルディニアだ。先ほどよりも枚数の少ない布に着替えていて、髪はまだ濡れて、パールのように煌めいて見えた。
「それで、貴方はどこから来たの?」
と問うたものだから、八乙女楽と同じ顔した星の王様が、不思議そうに大和とサルディニアを交互に眺める。ああ八乙女よ、「二階堂」と呼んではくれないか。そうしたら全員で大和を担いでいたとしても、許してしまうのに。
「本当にそっくりだね、でもあなた笛のお兄さんじゃあないの?」
赤い瞳に赤い髪。好奇心の高さは大和も良く知っている七瀬陸に近しいとも感じられる。黒がベースの衣服に身を包んだその彼が、右から左からと大和を舐めるように見つめてチョロチョロしている。そういえば物語の中で、エリンは妙にシンカイの面倒見が良かった。自分とこのセンターと同じ赤い瞳を見つめ返していると、残念そうに眉を下げられる。
「本当だ~、この人。シンカイじゃないよ」
「エリン、分かるのか?」
「分かるもなにも、ぜんぜん別人さ。オライオン様はわからないの?」
「な、ちょっとシンカイこっちへ向け」
エリンが大和の顔をむんずと掴むと、自分の王様に向かって頭を差し出す。「ぐえ」っと大和が呻くと、オライオンが「エリン」と厳しい声を出したものだから、その赤はするりと大和のそば離れていく。大和はホッとしたものの、少し寂しさを覚えて身震いした。
「……湯冷めしたかい? 大丈夫?」
ピンクシャンパンのような瞳が、心から心配したように王座からこちらを見つめている。「ええ、大丈夫です。少し、驚いてしまって」と大和は返して、張り付いた笑顔を彼に向けた。
「……まぁ、君が警戒するのも致し方ない」
「どうして、こんな風に丁重にしてくださるんですか?」
大和が思わずそう尋ねると、笑い声との合間で、衣擦れの音がする。相手が笑っているのだと知れて、何となく大和が知っている似通った外見の男より、彼が年かさなような気がした。そしておそらくその予想は当たっている。九条天どころか、もしかしたら大和よりも年上なのかも知れない。
大体この世界における年齢の在り方についてすら、大和はそれほど把握していなかった。『星巡りの観測者』の脚本家に聞けば、もしかしたらその答えは分かったかも知れないが、とにかく今現在の大和は知らなかった。
そう考えに至ると、今までの自分の態度が、明らかに失礼だった気がして(だって、王様だ)、大和は居住まいを正した。とにかく年長に対して礼儀を尽くそうと気持ちだけは改めたのだった(効果が見込めるかは甚だ不安ではある)。
「君を慎重に扱わないと、『彼』が戻って来ないかも知れないことは、鋼鉄の星の王ですら察しがつくよ」
「む、そりゃどういう意味だ?」
「王様おうさま、世の中には分からじとも相槌を打っといた方が良いことだってあるんですよ」
オライオンは内容に気づかず、エリンはそれを嗜(たしな)める。大和はサルディニアに言われたことを脳内で噛み砕いて、その可能性が濃厚であると自分でも気づいた。すると、賢王がクスクスと笑い声を漏らした。
「色々ぐるぐる考えているだろう?」
「……分かるのか?」
大和が驚いて身を起こすと「おや、口調が戻ったね」と男は再び野笑い声を漏らす。それがまるで揶揄われているというのに、どこか懐かしく心地よい響きがあった。
どちらかというとRe:valeの千と対峙するときのような雰囲気と似ているが、緊張感を伴わない、不思議にミステリアスな印象を受ける。
「フフ、隠しもしないか。シンカイとは違う理由で気に入った。傍に置こう」
「だって〜、良かったね」
<続く>
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