思春期の弟と、すぐ上の兄。『さぶじろ版深夜のお絵描き文字書き一本勝負』様より、過去お題を使用して良いとのことでしたので、第73回『気の済むまで』をお借りしています。
その日はなんとなく三郎の覇気がなく、二郎の揶揄いに色々と言い返してきたが言葉に詰まるようなところがあった。だから一郎も心配して、「お前らデザートにアイスがあるぞ」と食器を片付けながら殊更明るく振る舞って下の兄弟に笑いかけた。
違和感を覚えたのは長男だけではなく、言い合いをしていた二郎もまたそうだけれど。三郎は特に諍(いさか)いの深追いをせず、そのまま部屋へと引っ込んでいった。一郎が何か言いたげにこちらを見るので、二郎は仕方なしにソファから腰を上げる。
明日は金曜日、普通に学校がある。気休めにノックをして扉を開けると、待ってましたとばかりに施錠はされていなかった。しかし弟は、数多在る液晶に向き合って振り返りもしない。聞こえるように施錠してやると、ようやくこちらに振り返った。
「……」
「お前、何なの? 兄ちゃんにまであんな態度取るか~? 普通」
「一兄、何か言ってた?」
その不安気に揺れる声に「お前のこと心配してた」と眉を下げてやる。すると三郎は、項垂れたまま椅子をわずかに回して上目遣いにこちらの様子を伺ってくる。二郎は何とも言えない呆れた心地になって、隠しもせずため息を吐いた。
「なぁ、何かあったかよ?」
二郎は三郎のキチンとベッドメーキングされたシーツの上に無遠慮に腰掛けて、寡黙になってしまっている弟を見つめる。三郎は一瞬何かを分かって欲しそうに眉間に皺を寄せたあと(小さく、唇が開いた)、文字通りビー玉みたいな大きな瞳でこちらを睨みつけて、目を伏せる。
「……っ」
「はぁ、言いたくないなら別に良い。……あんま夜更かしすんなよ」
再び思わず漏れたため息とともに立ち上がると、三郎はやはり何も返事しなかったが、視線だけが背中をずっと貫いて来る気配がした。だから二郎はその場をそそくさと逃げ出した。
兄に一番風呂を詫びながら真っ先にいただいて、すぐ就寝することにする。弟の異変も、頭の片隅に追いやって、二郎は目を細めながら浅い眠りに落ちていった。
違和感に気づいたのは、それからどれくらい経ってからだろうか。薄く目を開いて、枕元のデジタル時計を確認すると、時刻は丑三つ時。二郎の寝床の脇に、誰かがひょろりと白く佇んでいる。急激に伸びた細くて長いシルエットは、長男の山田一郎とは明らかに違う。
ゆっくりと肌掛け(タオルケット)がはぐられて、白い指先がペタペタと確認するように二郎の肌を触り始めた。わずかにかいた汗を、馴染ませるように手のひらが這っていって、それでいて何も言わないものだから怖い。
二郎は急に体温が高まっていくのを感じた。弟のそういった接触に、何かこう言った……性的な意図を感じるのは初めてのことではなかった。
例えば醤油やソースの受け渡し。指先が名残惜しく二郎の肌の上に残るので、思わず相手を見ると、箸の先などを口に含んだまま、三郎がこちらを見つめている。その熱っぽい視線に、気づかぬわけがなかったのだ。
はぁっと思わず熱い吐息が漏れる。それがどちらのものか分からなくなる。三郎が顔を近づける。胸と腹の間で弟が、「じろにぃ」と切な気に呟いた。
「なにそれ、お前狡い」
二郎は利き腕を伸ばして弟の頭を巻き込むように引き寄せた。すると、弟は戦慄く唇を二郎の身体に押しつけて抱きつくようにして来る。二郎は三郎の身体越しに腕を伸ばしてタオルケットを手繰り寄せると、弟の上に掛けてやる。
猫や犬が寝るポジションを探すみたいにウゴウゴと蠢いたあと、三郎は何もせずに二郎に身体を巻き付けると、瞳を硬く閉じた。二郎はそれにどこか物足りなさを感じながらも、今夜ばかりは弟の好きにさせようと二郎もそのまま意識を深く、沈めていった。
<おしまい>
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