sugu_yoru
2022-05-31 19:31:53
1641文字
Public
 

【天ヤマ】シンカイになってしまう大和3(サルシン)

アイナナ 天ヤマ 勉強中。ニカヤマさんが劇中劇の世界に飛ばされてしまいます。
続きます。

 天が優しく聞くと、「はい」とシンカイは頷いた。
「私はわたしのおうさまに逢いたいですし、クジョウさんには、ニカイドウヤマトさんを返してあげたいです」
 ニコリ。まるで母親のように微笑まれる。天は、状況としては異世界に来てしまったシンカイを、加護している気持ちになっていたが、実のところは『逆』で。彼はきっと二階堂大和がいない世界を『補って』くれているのだ。
 天は『サルディニア』にはなれない。それが今はこんなにも安心に繋がるだなんて、思いも寄らなかった。天は『サルディニア』にはなれない、だから。二階堂大和はきっと天の元へ戻って来ると、信じられるから……

* * *

「ああ、落ちる」

 思った刹那。少し離れたところでこちらを見上げていた青年の顔が歪むのが見えた。遠くで手を差し出されるのも。そんな顔、弟の七瀬陸絡みでも見たことねぇわ、って思いながら二階堂大和は奈落へと落ちていく。
 奈落? にしては明るい。向かう背中の先が、湖面のようなキラキラした光に照り出されている気がする。何より世界が眩しくて、かたく瞳を瞑ったと同時に着水した。
 ドボンッと、高さからの衝撃で体感二メートルぐらい沈む。撮影で水に落ちたことはあるが、こんな深い水槽、撮影現場にあったか? と疑問が過(よ)ぎる。すると、誰かが『だれか』の名前を呼んで、こちらに泳いでくる気配がした。
 薄い布の装飾が、まるで海の生き物のように後ろに流れ、水の中でパッチリとこちらを捕らえた濃いピンク色は、先ほど大和が落ちていくのを心配そうに見ていた色と同じだった。九条天。彼がマーメイドのようにこちらへ泳いできて、穏やかな笑みを顔に乗せる。
 装飾がついたジャラジャラした指先で、大和の顔を慎重に捕らえると「おや?」とでも言うように小首を傾げた。九条の方はなにやら水中で余裕がありそうだが、大和の呼吸はそろそろ限界だった。すると、顔を急にくっつけられる。
 二人の唇の合間からコポコポと泡が漏れるのに、口移しで酸素を寄越されたんだなと気づく。いやいや……前調べたことがあるけれど、こんなのフィクションだけの奇跡であって実際は二酸化炭素を移動させてるに過ぎない。
 しかし、肺を沁み入るように呼吸が楽になり、肩を抱かれるように水面に向かって泳いでくれた。その横顔が、大和が知ってる彼と違う気がした。水の上に出ると、目の前の薄ピンク色の頭をした男も、キョトンとした表情をしてこちらに手を伸ばしてきたのだった。
「おやおや、キミは一体どこからきたの?」
 そう言った男が九条天でないことが知れて、大和は思わずその手のひらを避けてしまった。激しくではない。泳ぎながら距離を取った。それを目の前の男は残念そうにしている。
 大和がつけている装飾品はイミテーションだから水に浮いてしまっているが、九条天に似た男のものは、まっすぐに水の中へ落ちていて重そうだった。思わず心配して右手を彼の腰あたりに伸ばすと、「君も、優しいんだね」と笑われた。
 大和には、もうそれが誰なのか本能的に分かっていた。劇中で九条天が演じていた、碧水の星 、シレーナの賢王、サルディニア。その人だ。水辺から白い建物の縁まで二人で寄り添うように泳いでいくと、黒い装飾をまとった細い腕が、スラッとこちらに伸ばされた。
「賢王様、シンカイ。大丈夫?」
 赤く長い髪が細い肢体にまとわりつくように垂れ下がっている。顔は可愛いが、彼が相当の手練れだということも設定を読んで知っている。七瀬陸と同じ顔をしたエリンは、大和の手を握ると、不思議そうに首を捻った。
「あ、れ? なんか雰囲気変わった?」
「馬鹿言え、まるきりシンカイだろうが」
と、大和の代わりに答えたのは鋼鉄の星ラーマの王、オライオンだった。エリンはサルディニアも水から引きずり上げると、水濡れたこの国の王は、「さて、君の話を俺に聞かせてくれるかい?」と優しく大和に尋ねたのだった。

<続く>