sugu_yoru
2022-05-08 22:31:03
1854文字
Public
 

【さぶじろ】肉を食べる①

お題箱のリクエストから。『32で、他者から見たら付き合ってるだろうに好きであることも認めない3』。
おさななは仲良し。続きます。

 さて、伊弉冊一二三という男は、これはこれで思慮深く頭の良い男である。しかしそんな彼の目の前で繰り広げられている『これ』は何だろうか? 横に座る万年社畜こと観音坂独歩は、おそらく全く気づいておらず、「二人は、仲がいいんだなぁ」だなんて目を細めてるもんだから呆れた。
 場所は高級焼肉店というところだ。たまには肉でも食おうと、出先の独歩を捕まえて夕飯を食いに来ている(観音坂は、このあと会社に戻る予定だ)。それ自体は珍しいことではない、時間は八時過ぎだし、夕飯を外でとることに対して、会社からは何も言われないのだろう。
 比較的、独歩のつきあいは良かった。最近はイケブクロでの仕事が進んでいて、彼が解放されたのもそのディビジョンだった。一二三は甲斐甲斐しいもので、ブクロの美味しい店をスマフォで調べ上げると、場所を指定して電車に飛び乗った。
「独歩ち~ん!」
……一二三」
 待ち合わせ場所、街灯の下で所在なげに立っていた観音坂独歩は、一二三の顔を見つけると、リラックしたように眉を下げた。「お腹空いてる?」と聞くと、「うんもぅペコペコだ」という言葉に笑いかけて、二人して連れ立って歩き始めた。
 二人ともマスクをしているので、身バレの可能性は低いと踏んでいるが、今日は人気が少ないのを良いことにスーツの上着も腕に掛けていた。すると、二人が歩いている公園の奥の方から、誰かがフリーでサイファーしている歌声が聞こえる。
 掛け合いが見事で、二人して思わず立ち止まった。
「ぅお~、あれってさぁ。ブクロの三兄弟じゃあないの?」
「俺も今それを言おうと思ってた」
 二人でごにょごにょと話している内に、どんどんと気になってしまって、二人で目配せすると公園の奥へと歩いて行った。
 外灯の下、人混みができていて、麗しい青年が二人、掛け合うようにラップをしている。それはイケブクロ・ディビジョンの兄弟の内二人、山田二郎と三郎に違いなかった、闘うのではなく、高め合ってゆくスタイルのラップで、否応なくオーディエンスが沸き立つ。
 歓声と拍手が入り交じる中、件の二人は手を上げて人混みから抜け出して来た。一二三は嬉しくなってしまって、二人に向かって「おーいおーい!」と手を振ってしまった。明らかに嫌な顔をした三郎とは対照的に、二郎はパッと独歩を見つけると大きく手を振り返した。

……いいんですか?」

 親指と人差し指の先端で、尖った顎を少し擦りながらメニューから目線を上げる。目の前に座るアラサー二人に確認を取ったのは、中学生の山田三郎だ。
「僕たち結構食べるんだけど、ちゃんとお金あるの?」
「ジョブジョブだいじょぶ~、俺っち今月ナンバーワン賞と、指名ナンバーワン賞貰ったから」
……それどう違うんだ? あ、俺もその、払えるよ」
 おずおずと独歩も右手を上げる。
「じゃ、遠慮なく」
「独歩、ここ『お得なお肉、盛り合わせ』みたいなん、ないんだな」
「こういうところは、そう言ったファミリーメニューはないんだよ。どの肉食べたいの?」
「カルビだけど、一皿二千円ってこれ。何人前なの?」
「三人前くらいかな」
「じゃ、そのうえの上カルビで。お兄さん、これ二皿」
「かしこまりました」
 向かいの席に座った独歩と二郎がメニューについて話していると、二郎からそれを取り上げて、さっさと三郎が注文してしまう。給仕を男性にしてくれと、予約でお願いしていたので、一二三も安心して注文できる。
「あと、野菜の盛り合わせとぉ、キノコの盛り合わせとぉ、生二つ! ロースも二皿お願いしちゃおっかな?」
「野菜、キノコ……誰が食べるんだ」
「椎茸入ってたら兄ちゃん卒倒しちまうかもな、あ! 俺ご飯も」
……僕も」
 大盛りのご飯とオレンジジュースを二つ、追加オーダーすると、二郎が不思議そうに独歩と一二三を見つめている。その視線に気づいて、三郎が少し嫌な顔をしている。
「独歩たち、白飯食べないの? オカズばっかりだと口ん中しょっぱくなっちゃわない?」
「だから大人はお酒を頼むんだよ」
「そそ! あと野菜ね。すみませーん、サラダも追加でお願いします」
「へー……
 そう言えば、この子たちは未成年三人で生活している。外食もきっと、大人と席をともにすることはほとんどないだろう。一二三は、途端に目の前の二人がひどく子供らしく可愛らしく思えてきた。独歩も同じようで、食べ始めてからも甲斐甲斐しく二人に気を配っている。

<続く>