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sugu_yoru
2022-02-03 20:31:39
2524文字
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【天ヤマ】シンカイになってしまう大和2(サルシン)
アイナナ 天ヤマ 勉強中。ニカヤマさんが演じていたシンカイの心になってしまいます。
続きます。
「シンカイさぁ、滅茶苦茶楽しみにしてたんだよ」
と和泉三月は母親みたいに笑って(実際エプロンをしている)、大和の分厚いマフラーをしっかりと後ろで締め直してくれた。大和
……
いやシンカイは、その後ろで結ばれたデカいチョウチョ結びを見ようとぐるぐると回り始める。天は苦笑して彼を正面に向かせた。
「ちょっと」
「クジョウさん、バスには乗りますか?」
「乗るよ、乗ったことはある?」
「ないです、とっても楽しみです」
にこにこにこにこ。二階堂大和だって、別にいつも仏頂面しているわけではないが、このシンカイという男はいつでも恒常的に機嫌が良く、極自然に気持ちの良い態度、笑顔でいることができるように思えた。
どこかシニカルな二階堂大和を思い出して、なんだかそれが恋しい気持ちにもなった。でも、今日同行するのは『シンカイ』の方だ。この結果は、恐らくあの事故の手前に天が抱いていた気持ちが反映している気がする。
おこがましい、自分本位の考えだが、九条天は二階堂大和がこうなったのは自分のせいだと思っているわけだ。だから他のメンバーに申し訳なくて、それで寮へ訪れるのが遅れたのだ。八乙女楽や十龍之介なんかは、個々に彼を連れ出しているらしい。
「オライオン様に似ている
……
あの」
「やおとめがく?」
「はい! ガクさまには『デンシャ』に、ツナシ様には『ジドウシャ』に乗せていただきました」
「ふうん、まぁバスも大きな自動車ではあるから、もしかしたらつまらないかも知れないけど
……
」
「んなわけないだろ~? 九条。シンカイさぁ、この世界で何見たって面白いんだよ。昨日なんてナギの部屋で『ここな』のブルーレイ全部観て大喜びだったんだぜ?」
「はい、『魔法少女 まじかる♥ここな』。とても興味深かったです」
「はいはい良かったね。それじゃあ和泉三月、彼
……
ちょっと借りてくから」
「おう、遅くなるようだったら連絡して」
「分かりました」
バタンッと扉が閉まる瞬間まで、シンカイはゆるゆると手を振って、和泉三月もそれに振り返していた。「さて、行こうか」と天が笑いかけると、シンカイは「はい!」と良い子に返事して九条天の後ろをピョコピョコとついて来た。
二階堂大和はあまり下半身が手薄になるような装いをしないもので、細い脚がヒラヒラした服の下を元気いっぱい動くのはとても新鮮だった。ニットのエスニックな柄を思い切り凝視してしまって、自分のよこしまな視線に九条天はこっそり自己嫌悪に陥る。
「ちょ、と。どこ行くの。バス停はここだよ」
バス停を通り過ぎて行こうとするシンカイの手を引き留めて、「ここに並ぶんだよ」と伝えると、足を揃えて天の横に立つ。いつもの二階堂大和と全然違う、楽も龍もメロメロになって帰ってきたことが思い出される。冬の日だが、斜めに差す日光が暖かだった。
シンカイは良い子に黙り込んで、にこにこと笑いながら日に目を細めている。九条の方は帽子、マスク、メガネで変装はしているが、シンカイは装いと雰囲気のせいで、彼が二階堂大和だと気づく者は少ないだろうなと思える。
こちらから話しかけなければ、シンカイは天には話しかけてこないようだ。ただ、常に楽しそうにしていて、今は何か口ずさんでいた。二階堂大和の声は、高く響きわたる底力もあるもので、天はそれをずっと好ましく思っている。
そんなことをもし本人に言ったら、「そこは『演技力』とかの方じゃあないかなぁ、九条〜」って笑われそうではあるけれど。
「乗るよ」
バスが来ると、シンカイは鉄の塊に些かビクついたようだった。実はバス停に到着してからずっと握っていた手のひらを引いて、カードを通すと二人掛けに腰かける。折り畳まれた細い足がまた目線の近いところにきてしまって、天は誤魔化すように外へ視線を逃がした。
「見てください、鳥が飛んでいます」
ニコニコとしながらこそこそ耳打ちしてくる。引き締めていた顔が、くすぐったさに緩んでしまう。「知ってる種類?」とこちらも囁くように聞くと、「シレーナの鳥たちは、もっとヒラヒラが多い気がします」と答えになっていないようなことをフワフワと囁く。
街中(まちなか)を走っていると、シンカイがあれこれと、目にうつる知らない物を遠慮がちに聞いてくる。それに九条がつらつらと答えていると、目的としていた水族館前についた。展望台も併設している、比較的新しい施設の一部だった。他の仲間に色々連れて行ってもらっているようだが、彼が落ち着くような、そういうところを案内したかった。
設定資料集によると、シンカイの故郷(星)『シレーナ』は水の都だという。海外に行って、結局は日本食を食べたくなるように。地球の色々を見過ぎて疲れているかも知れないシンカイに、『水』を見せたかった。手は離してしまったが、二人は連れ立って建物の中へと入って行った。
* * *
暗闇の中、天井まで届く水槽を見つめたとき、はしゃぐかと思ったシンカイは静かになった。「つまらなかった?」と少し不安になった天が尋ねると、「水の中にいるみたいですね」と振り返って笑った顔が寂しそうだった。
「
……
何か思い出していた?」
「はい、『ピオッジャリート』というお祭りがあって、そのときに海の底の透明な通り道にお店がたくさん並ぶんです」
「一人で行ったの?」
「いえ、サルディニア様と一緒に行きました」
そう答えるシンカイの目に、『サルディニア』はうつっていなかった。優しいまなざしの中にうつるのはどこまでも九条天だ。右手を差し出すと、シンカイは吸い寄せられるように頬を寄せた。
天の方はそれにドキリとしてしまって、差し出した腕が震えそうになったが、そこは何とか九条天の矜持でもって堪える。しかし猫のように擦りついたシンカイの表情があまり晴れない。連れて来て喜んでもらえると思っていたのに、天は何だか泣きそうになってしまった。
願いが叶ったとて、やはり彼を望むべきではなかった。何よりこんなにも、天は『二階堂大和』が恋しい。彼に帰って来て欲しいと願っている。
「寂しくなっちゃった?」
<続く>
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