sugu_yoru
2022-01-31 23:08:46
2541文字
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【天ヤマ】大和さんが後輩アイドルに告白される話3

アイナナ 天ヤマ 勉強中 モブが出ます。続きます。

 笑う彼が、急に健気に思えた。すっかり絆されてしまった大和は、「じゃあ~ラーメンでもどうでしょう?」と襟足を少し掻きながら、自分から提案してしまった。ホーム君は瞳を輝かせて、「ラーメンも良いのですが、実はご紹介したいバーがあるんですよ」と大和の腕に寄りかかろうとした。
 すると、細い右手がスイっと二人の間に差し込まれる。
「それ、ボクも行ってもいいですか?」
「っ……
 ホーム君の顔面が曇る。現れたのは、とっくに局での仕事が終わったはずの、TRIGGERの九条天だった。大和はホッとしたような、なんだか不貞の現場を押さえられたような、複雑な気持ちになりながら彼を見下ろした。
「く、じょうが行くならバーはまた今度かな」
 未成年だし、と付け加えると、「そうですか……」とホーム君はマゴマゴと引き下がる。「んじゃあ三人でラーメン、行きましょうか」と大和がなけなしのお愛想笑顔でそう言うが、俯いたホーム君は「いえ」と右手で大和を制して俯いた。
「ご飯は、今度にしましょう。またお誘いします」
 そう言って背を向けると、往来の方へ走り出してしまった。大和は思わず追いかけようと手を伸ばしかけるが、九条天が道路と大和を遮るようにするりと位置を移動した。すると、二人の脇を黒いバンが走り去って行く。これって……
「もしかして、写真撮られそうになってた?」
「そうだよ、他所のリーダー」
「マジカヨ……
 大和が些か呆然とその場に立ち尽くすと、九条天はその手を唐突に掴んで歩道へと歩き始めた。「ちょちょちょ、どこ行くの九条」と大和が焦ると、手を繋いだままくるりと眼前で天が振り返った。じぃっと綺麗なローズクオーツみたいな瞳で見つめてくる。
「な、何よ」
「『何よ』じゃあないよ、行くんでしょう? ラーメン」
「お?」
「キミの奢りで」
「おお~」
 『奢り』と言った覚えが生憎ない。しかし、何となく助けに来てくれたんだと頭の片隅で理解をしていて、大和の方が手を上げてタクシーを停めると二人で乗り込んだ。繋いだ手はいつの間にか手首まで下りてきていて、意外に高い体温に、大和の方が何だかソワソワしてしまった。

* * *

「九条、結構量を食べるんだな」
「ボクのこと何だと思ってるの、十代の食欲舐めないで」
 味噌ラーメンの上に山盛りの野菜炒め、それにチャーハンも追加で頼んだ九条天にビックリしつつ、自分は醤油チャーシュー麺に餃子を一皿頼んだ。それと、「生一つ」と言うと、横で九条が険しい顔をした。
「キミ、さっき彼をボクの年齢を口実に断ったくせに、呑むんだ」
「タマと一緒の時だって呑むよ、大人だもん」
「まぁ確かに、犯罪ではないけれど」
 そう話していて最初に届いた餃子を「九条も食べれば」と差し出すと、「遠慮なく」と一つ持ち上げる。……食べるとき少しだけ手を添えるんだな、と。いつだったか寮でやった餃子パーティーでは気づかなかったことに気づく。醤油と酢、ラー油に浸したそれを口にほうばると、わずかに目を大きくした気がした。
「旨いだろ? だから『ラーメン』って俺は言ったわけ」
「すっごくニンニクが効いてる……
「あ、明日仕事大丈夫?」
「舐めないで、ニンニクの臭いの駆逐方法くらい会得してる」
「え、なにそれお兄さんにも教えてよ」
 会話しているうちに、二人のラーメンと九条のチャーハンが届く。「半チャーハンにしなくても良かったの?」と大和が聞くと、「キミだって食べるでしょ?」と言って、今度は皿をこちらに差し向けてきた。
「吃驚した、一瞬れんげで『あーん』されんのかと思っちゃった」
「ちょっと、揶揄わないでよ……
 目線を伏せる、その目元が赤い。
 こちらこそ『ちょっと』だ。「その反応は駄目だろ」と正直思った。こんな大衆向けのラーメン屋で、この年若い先輩に詰め寄ってしまって良いのだろうか? 思案しながら食べたものだから、パラパラの炒飯が口の端から溢れて、あわあわとそれを拾った。
……二階堂大和」
「え?」
「ついてる」
 すいっと右手を伸ばして、唇の端の米粒を攫っていく。案の定と言うかなんと言うか、それを当たり前みたいに口元に運んで、耳に淡い色の髪の毛をかけるとラーメンに集中している。大和は、ラー油みたいな自分の顔を隠すように醤油ラーメンに顔を向けるが、眼鏡が曇るばかりで、食べられる熱さにはほど遠かった。
「キミには、これくらいハッキリと態度で示さないと、違う考えに逃避してしまいそうだから」
「お兄さん、逃げることも叶わないの? 可哀想じゃない?」
「どうしてとっくに仕事が終わっていたはずなのに、ボクがまだ局にいたのか? とか。どうしてあんなジャストタイミングで登場したのか? とか。ここへ来て聞かないでくれていたこと感謝してるよ。でも今からそれを言うからね」
「待てマテまて、聞きたくない、おっかない!」
「さっきの彼のことを考えて、ボクならどうするかなって思った。多分待ち伏せするんじゃないかって……ボクの方は寒いところで敢えて待つなんてあざといことはしないで、入り口が見える一階のカフェにいたけどね」
「なるほど、だからあんなにすぐに……
「そう、ナイスタイミングだったでしょう? ホラ、そろそろ食べなよ。ボクもう食べ終わってしまう」
 九条の言う通り、味噌ラーメンの上に乗った野菜はあっという間に消え失せている。喋りながらこのスピード、十代おっかない! と大和は震えるが、恐れを抱いたのは、自分の九条天への気持ちだった。
 ホーム君のことは、そりゃもう困る。しかし九条天が彼と同じ目的だったとしたら、それは悪い気がしない。ホーム君の好意が嬉しくないわけではなかったが、九条が個人的に大和に何か期待していたとしたら、それは何と言うか……叶えてあげたいとすら思える。
「お前さんに狙われちゃ、誰だって撃たれるわ」
「ボク、どんな狙撃手なの?」
 そうクスクス笑う九条天は、大和に決定的なことは言わなかったし、大和もそれに答えたりしなかった。大和が苦戦してラーメンを食べてゆくのを、天はどこか楽しそうにしながらそれを待っていた。

<続く>