sugu_yoru
2021-11-27 19:41:56
2431文字
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【天ヤマ】若返る二階堂大和の天ヤマ2

アイナナ 天ヤマ 勉強中。ニカヤマさんが高校生のころの姿と心に戻ってしまいます。

「断る、絶対嫌だ」
「どうして? 君は知らないだろうけど、大和君うちに泊まったことあるよ。現在の僕たち、割と仲悪くないと思うのだけれど」
「俺は現在の『二階堂大和』じゃない」
「そうね。でも今の姿の君のことだって、この中じゃあ結構知っている方だよ」
……
 二階堂大和の意思がぐらりと揺らぐのを感じて、天はかの少年の前に一歩出て、右手を千との間に差し込んだ。千が少し驚いたように後輩を見下ろしてくる。
「とりあえず二階堂大和は、僕たちが連れて行きます」
 何か言いたげな視線。それに怯まず、そう言うと。千は「そうね」といつもの三文字を唇に乗せ、瞳を閉じて横へ身体を動かした。九条天はそれに軽く会釈して、二階堂大和の腕を掴んだまま玄関に向けて歩いて行く。後ろでTRIGGERの他の二人が慌てて追いかけて来た。

「天にぃ!」
 あれほど外では呼ぶなと言っているのに、寮を出て暫く歩くと馬鹿デカボイスでそう叫びながら姿を現したのは七瀬陸だった。和泉一織にでも着せられたのだろう。顔が隠れるほどマフラーをグルグルに巻かれ、もっこもこの上着を着せられていた。
「これ、三月から大和さんの服とか下着! ちょっと今の姿には大きいかも知れないけどって……
「言っても数センチでしょ? 大丈夫だよ、ありがとう陸」
「ぁ、りがとうございます」
 TRIGGER三人の間から、大和もひょっこり顔を出して頭を下げる。それを見て、白い息を吐き出した七瀬陸はにっこり笑った。一歩前へ踏み出して、二階堂大和の両腕を掴むと、それを擦るように上下に動かす。分厚いシューズのせいか、陸の方が上背に見える。
「大和さん、天にいたちの所なんて俺、正直羨ましいよ。三人がきっと守ってくれるからね」
 そう言って笑った七瀬陸は寂しそうで、大和もそれを感じ取ったのか真っ直ぐにお辞儀した。育ちを感じさせる、誠実な動作だった。「陸、外は冷えるから」と天が言うと、兄ににっこり笑いかけて寮に向かって弟は走り去って行った。

 ようやく連れてきた大和は、TRIGGERハウスでも少し、心許ないようだった。それを楽と龍が明るく励ますので、その勢いに気圧されながらも段々と笑顔を見せるようになってきた。
「アイツ、何かお前に懐いてここへ来たよな」
 一番最初に大和を風呂へ促し、三人で珈琲を飲む段階になって八乙女楽が急にそんなことを言い出した。天は「そうかな」と四文字だけ呟いて(後述するが、本当にそうなのだ)、今はまだミルクの割合が多いカフェオレに口をつける。龍之介も頷く。
「あの時、不安そうな彼を引き受けるって、すごい情熱を感じたから、それじゃあないかな?」
「だって、あんなの放っておける?」
「みんな悪気はないんだよ、でも未来の自分を知ってる人だらけのあの寮は、少し居心地が悪かったかもしれないね」
 十隆之介が、彼にしては大人びたことを言うので楽が目を丸くする。
「龍、大人になったなぁ」
「失礼だなぁ、俺が一番この三人の中でお兄ちゃんなんだぞ」
「僕だってお兄ちゃんだよ。まぁ、普段の彼のことにはあまり触れず、今の彼のことを見ててやればそれでいいんじゃないかなとは思う」
 そのころの彼自身に興味を持って、彼自身を受け入れてやれば、多分それで良い。龍之介は「そうだね」と頷いたが、八乙女楽は「何か難しいな」と首を捻る。しかしその後、一番八乙女が幼くなってしまった二階堂大和とうまくやっていけたのだ。

「お、それ俺も好きだった。一緒に観るか!」
と朗らかに言って、古いシネマチャンネルを並んで観ていたりする。八乙女楽は無神経であるけれど、スカッとした気持ちの良い男で、大和もそれにホッとしているようなのだ。
……おもしろくない」
 一人での仕事帰り、今夜は楽の部屋に大和が泊まるだとか聞いてしまって九条天の機嫌は急降下した。龍之介はエプロンをつけたまま苦笑して、お盆に乗ったホットココアを件の二人の部屋へ運ぶところだった。
「洋画のシリーズ三本立てを一気観するんだって、明日楽は休みでしょ?」
「僕だって明日休みだけど」
「一緒に観ればいいんじゃないの?」
「冗談、あの部屋に男三人は窮屈過ぎる」
「アイナナの寮では結構上映会やってるみたいだけど、一部屋に全員とかで」
 大和には小さな客室をあてがっている。最初のころはそこに籠もりきりだったが、龍之介の美味しい料理や楽の明るさに絆されたのか、TRIGGER三人と過ごす時間が増えている。
 当の天はというと、最初自分に懐いてついて来たかと思ったのに、何だか二階堂大和とは距離があった。でも、気づけばじぃっとこちらを見ている時があるので、嫌われてはいないのだと思う。洗濯物を畳みながら龍之介がニコニコと笑いかける。
「いやぁ何か仲良くしたいみたいだよ。今は三人の中だと天が一番大和君と歳が近いしなぁ」
「でも、僕の部屋には全然来ない」
「きっかけがあればいいんだろうなぁ。あ! 俺その協力ができるかも!!」

 そう龍之介が言った次の日には、本当に大和が天の部屋へ一人で訪れて、そうして本棚をぼんやり見上げている。天はベッドに腰掛けて単行本を読むフリをしながら彼を注視していた。手を伸ばしかけて、それが目当ての本じゃないと気づいて下ろすを繰り返している。
……一番上の棚、左から三番目」
「あった」
「届く?」
「何とか」
 幼い大和はつま先立ちで腕を伸ばすと、大型の黒い本を指先で何とか引きずり出して、ホッと顔を緩めた。天は「こっちおいで」と手招きして、ベッドに腰を掛けるように促した。大和は黒い写真集を抱きしめるようにして、恐るおそると言った形で天の傍までやって来る。
「猫みたい」
 しかも中々慣れないやつ。そしてそこが可愛いやつ。思わず左手を伸ばして短くなった前髪に触れると、ビクリとはするが逃げようとはしなかった。

<続く>