sugu_yoru
2021-10-13 00:15:56
2614文字
Public
 

【天ヤマ】大和さんが後天性女体化するヤツ6【おしまい】

アイナナ 天ヤマ 勉強中 おしまいです。

 あまりにもぽそりとつぶやくもので、一瞬独り言か何かと勘違いした。「は?」とわずかに怒気を含んで聞き返すと、「八乙女とか、千さんとか。事情も知ってるだろうしお願いすればシてくれるかもしれないだろう? ナギとかもさ」と言い出したので、思わず腕を掴んだ。
 掴んでしまった手首が、悲しいほど細かった。そのまますぐそばにあったベッドに仰向けに縫いとめる。
「君が、六弥ナギの名前を出すのは狡い」
「く、じょ……
「未成なんだから駄目だって、最初に言ったのは君じゃないか」
 そうやって、まず牽制されたのだから、天が忘れるわけなかった。見下ろした大和のメガネにうつる天の表情が、演技でも見たことないような顔をしていて、急激に頭が冷えた。手首を離す。痕がついていないと良い。身を起こす。今まで人がいなかった大和の部屋の冷たさに、天はいよいよ冷静になった。
……帰るよ」
「待って、九条」
「楽でも、千さんでも、六弥ナギにでも……頼んでみたら?」
「お前が……っ」
 顔を抑えて、やけぱちのように言うと、大和もヤケクソのように言い返して来る。
「毎日来るお前からのラビチャが来なくて……
「龍とかからも、来るでしょ」
「お前が良いから呼んだんだって!」
 今度こそ震えた声が高いのに、それでも男性だったころの、天の好きだったあの声の名残があって、正直目の奥が痛んだ。
「お前が言ったんじゃないか」
……
「何かあったら、連絡して良いって……
 涙がこぼれたのを目の端で確認したら、再びベッドに座る二階堂大和の手首を掴んでいた。俯く『彼女』の唇を、掬い上げるように顔をぶつけた。天はプライベートでは初めてだったと思う。そのままの勢いでベッドに押し倒してしまった。
 味見のために食べたのだろうか、一度触れたら彼の唇からもブラックチェリーの匂いと味がする。「もっと」と、天は無意識に思った。もっと、もっと、奥へ。大和は唇の端から唾液を零しながらも、今では自分よりよほど大きくなった舌を、一生懸命受け止めている。
 いつのまにか両腕は固定され、指と指が交互に絡められた。投げ出された大和の指が、天の甲に食い込む。こんなに何かに性的に興奮するのは初めてのことかも知れない。すると、天が組み敷いた柔らかい体が、突然上下に伸びた。
 めくりあげた先の、柔らかかったお腹はぼこぼこと隆起して、こちらに差し伸ばされた腕も逞しくまっすぐ伸びた。彼の腹に手を当てたまま、天はあまりのことに石のように動きを止めたが、元に戻った二階堂大和は、一瞬だけキョトンとしてから笑い出した。天は憤る。
「~……っ、ちょっと!」
「ハハハ、こういうのって何か胎内に出されたら元に戻るとかじゃないの?」
「僕だって吃驚した……
「すぐ突っ込んでも大丈夫なように、せっかく拡張していたのになぁ」
「下品、何やってるの……
「暇だったからね、てか九条元気だな」
「ぅ、るさい」
「ソッチの方は生憎、お兄さん全く準備してなかった」
……急拵えでも、やれること全部やるよ」
「え、ちょ……お前さん。そんな情熱的だったっけ?」
 五月蝿い唇を天のもので塞ぐと、夕方になるまで、大和の部屋で二人きり、過ごしてしまった。

 色々と気恥ずかしいので、天が寮に訪れたことは秘密にすることにした。帰ってきて元の姿に戻っている大和を発見して、IDOLiSH7のメンバーは大喜びしてハグで彼を潰したようだ(四葉環が、わざわざ天のスマフォに写真を送って来た)。
 次に天が彼の人を目撃したのは、大型時代劇の制作発表の放送だった。赤穂浪士役がズラリと横長の机に並び取材を受けるという、大層な演出がなされていた。控え室の大きな液晶の前で、十龍之介がはしゃいでいる。
「こうやって見ると、すごいメンバーだね。楽がこの中にいるの、誇らしいよ。大和くん、間に合って良かったね」
「シッ、彼が喋るよ」
 天と龍之介が見つめる中で、大和が喋る番になった。

『復帰直後でご迷惑をおかけしないように、皆様の胸を借りつつ励めればと思います。どうぞよろしくお願いします』
『二階堂さんは、台本をもうほとんど暗記されているとか?』
『ええ、休んでいる間に、【抜け駆け】させていただきました』

 大和がそう朗らかに言うと『狡いぞ!』『俺の分も覚えて教えて!!』とノリの良い共演者の野次が飛ぶ(お笑い芸人や喜劇役者も数人、キャストに含まれていた)。あたたかい雰囲気の中、笑う二階堂大和は幸せそうで。
……良かった」
 知らずつぶやいていた。隣にいた龍之介も「ああ、本当に良かったよねぇ」と破顔している。さっき龍之介が言った「誇らしい」と言う気持ち。もちろん楽にも感じるが、二階堂大和にも天は感じていた。

* * *

「九条と現場一緒なの久しぶり」
「うん、よろしくね和泉三月」
 雑誌の撮影で一緒になった。『キュート男子特集』だとかで、他のロケのあと七瀬陸もソロで参加予定だ。もちろん二階堂大和はいない。今は八乙女楽と大型時代劇の撮影の真っ最中だろう。和泉三月がニヤニヤと自分の衣装の柄を見せて来る。
「ホラ、見ろよ九条。さくらんぼ柄、オレたちマジでアイドルな」
「君にとても似合ってるよ」
「さくらんぼと言えばさ、大和さん元に戻った日、皆にチェリーパイ焼いてくれたんだよね。味が心配だったのか珍しく一人で一切れ食べちゃってさ」
「美味しかった、よね?」
 天がそう言うと、それまで笑っていた三月が、急にハッとした表情をしたあと破顔した。「なぁんだ、お前ら良かったなぁ!」と言って天の頭を掻き混ぜようとして思いとどまったようだった(何たって撮影前なのだ、スタイリングがなされている)。
「言っちゃ悪いけど原因はさ、九条にあると思ってたんだよ、オレはね」
……どういうこと?」
「大和さんはさ、きっと九条との『未来』ってやつを願っちゃったんだよ。『恋愛成就』ってやつね」
「女性になれば、僕と……ってこと?」
「バッカだよねぇ、二人とも、そのまんまだって良いのに」
 和泉三月が泣きそうに笑うので、天は思わずそれを見て一筋落涙してしまった。撮影の用意をしているスタッフは、二人の様子には気づいていないだろう。掻き乱すんじゃなしに、和泉三月のあたたかい手が、天の頭の上を数度撫でた。

<おしまい>