sugu_yoru
2021-10-11 22:58:35
2512文字
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【天ヤマ】大和さんが後天性女体化するヤツ5

アイナナ 天ヤマ 勉強中 続きます。

 そう言って机に出されたのは、バニラアイスを添えられたチェリーパイだ。何となく和泉三月の手作りだと思った。とても美味しそうで、天はまるで子供みたいに目を輝かせてしまって、急いで瞳を伏せる。二階堂大和の前だと、こんな風に子どもっぽくなってしまう自覚がある。
「大和さんと一緒の時の九条さん、等身大というか……可愛らしいって評判なんですよ」
 小鳥遊紡の言葉が思い出せる。

 天は先日の和泉三月との会話で、一つだけ訂正したいことがあった。二階堂大和は女の子になって可愛くなったのではなく、天にとっては普段から相当可愛い。きっとそう言えば、和泉三月なら同意も得られただろう。そのことを天は後悔していた。
 大和のカップにも、熱々のお茶が注がれているが、彼(彼女)はまだ一口たりとも口をつけていなかった。

 そう言えば撮影の合間に、カフェに二人で出掛けて行ったことがあった。その時、天がメニューを見て頼んだシーフードドリアを羨ましがって、彼も同じものを頼んだことがあった。猫舌の大和は、天の倍以上もかけて何とかそれを食べ切った。
 天は、それが『時間をかけてしまっても良い相手』、『甘えても良い相手』と認定されたようで、こっそり嬉しかった。
「ごめんな、九条なんか……
「何が?」
「どうしても同じの食べたくなっちまって」
「いいよ。違うのを頼んで、『やっぱり』って僕の分も食べられちゃったら困るし」
「子供じゃないんだから、お兄さんそんな『いやしんぼ』に見える?」
「僕は待ってる間にケーキも食べられたし、大満足」
「俺も食いたいのくえて、悔いないわ」
……よもや駄洒落じゃないよね」
「流石にそこまではソコまでは」
 そう言って笑った二階堂大和の顔は、性別なんて関係なしに、とても可愛かった、かわいかったのだ。

 パイは甘さ控えめだが酸味が強くて、甘いバニラアイスととても良く合った。そう言えば昼を抜いて来た。思わず頬が膨れるほど詰め込んでいると、「美味しい?」と聞いた二階堂大和は嬉しそうだった。
「それさ、レシピはミツなんだけど、作ったのはお兄さんなんだよね」
 あ、今はお姉さんか……! とすぐ訂正して、机に乗った自分の胸を見下ろしている。それがどこか哀しそうに見えて、「最近は、どんな風に過ごしてるの?」と、天はずっと気になっていたことをようやく聞いた。大和は、どこか気怠気な雰囲気を出しながら頬杖をつく。
「んー……別に普通だよ。やることないからご飯とか洗濯とか家事やってる。寸胴鍋で料理すんのって最初苦手意識あったけど、今ならシチューもカレーもハヤシライスだってお手のもんよ」
「どれも制作過程一緒でしょ」
「タマから豚骨ラーメンのリクエストが来てる」
「それは、数日がかりだね」
「時間ならいっぱいあるからね」
 その声が、完璧なまでに平静だった。微塵も動揺が感じられない。そのせいで違和感に気づいた。天は「何か、あった?」とパイを食べることに集中する振りをして尋ねる。自分の方のそれは、些か意気込んだような音になってしまい、心の中で舌打ちした。
「いやさ、二月に大型の大河があんだけど」
 大和は少し躊躇って、きっと九条天が知っているだろうと踏んだのか、唇を開く『はくり』という音がした。小さく、健康的な肌色の上で赤く動き出す。
「群像劇なんだけどさ、俺と……あと八乙女もオーディション受かってるだろ?」
「そう言えば、そんなこと言ってた。まだ制作発表もされてないよね」
「そう。要は『忠臣蔵』なんだけどさ」
「へぇ、どの役やるの?」
「『礒貝十郎左衛門正久』」
「へぇ、どんな人?」
 天も知識としては赤穂浪士は知っているが、一人ひとりの名前は流石に把握していない。
「享年二十五歳……若い役だって言いたいんでしょ? ちょっと待ってお兄さんまだ二十二歳なんですけど!」
「何も言ってないでしょ。楽は『片岡源五右衛門高房』だって言ってた。その人は流石に知ってる、三十七歳の役」
「アイツなら問題ないね」
「君もね」
 大和なら、どんな役だって心配ない。
「ところが、身体がこのままだと問題ありありなんだよね」
 大和の顔が横を向いて、真っ直ぐに今はついていないテレビの液晶に向かっている。「いつがリミットなの?」と尋ねた天の声の方が震えてた。
「月末に記者会見がある……あ、そうだ! お土産!!」
 そう突然叫ぶと、大和はエプロンを外しながら席を立った。「ちょっと待ってて」すら言われなかったので。暫く黙々とチェリーパイを食べ、ハーブティーを飲み干してしまうと、静かに席を立った。何となく部屋に戻った大和が、一人で泣いてないか心配になったのだ。

「ちょっと、客人を一人で放っておくなんて、あんまりじゃない?」
「ああ、ゴメン! 土産をどこへしまったか忘れちまって。ハイこれ」
 大和の部屋で向かい合って、手の中にポトリと落とされたのは薄ピンク色のお守りだった。
「『恋愛成就』……?」
「内容はさておいてさ、色が九条みたいだって、リクが言うからさ」
 そうだ、先ほど現地に行って来たと、彼は言ったではないか。「『安産祈願』じゃなくて、せめて良かっただろ?」と大和が低い位置で笑うので、二人の好ましい人物からの好意に、天は素直に指を折ってそれを受け取った。
「ありがとう」
「リクってさ、ああいうのに敏感ってか、だからついて来てもらったんだ。『変な気配はしないです』って言ってたし、現地の人に聞いても『そんなに心の狭い神様じゃあないんですよ』て言うんだよ……
 ? 天は大和言った意味が、後半良くわからなかった。女性にされたのは、『神様の心が狭い』からだと思っていたっていうこと? 『心が狭い』というのは、大和に何か『嫉妬』したのではないかと、彼が考えているということ?
「僕たち、神様に何か嫉妬されるような、特殊な参拝だったっけ?」
……お前さんにはきっと、わからない」
「え?」
「まぁもうフィクションを教科書にして、この間の夜に言っていたこと。試してみるしかないかもな……

<続く>