sugu_yoru
2021-10-10 23:42:46
2556文字
Public
 

【いちじろ】僕らと二郎と七日間 一・二日目【さぶじろ】

女体化した次男と、モンペになる長男三男。続きます。

SIDE 三郎 一日目

 相手が放ったシンプルなレリックが、山田一郎の脇をすり抜けて三郎に向かってくる。それに斜め前から二郎が飛び出して来て被弾した。白い煙がボフリと上がり、三郎の胸元にすぐ上の兄が倒れ込んでくる。
「な、にしてんだ低脳……!」
「ぃっつ……
 呻いた二郎の声が、何だか高かった。それを肩越しに見た一郎が驚いて固まっている。一瞬置いて、真っ青になってこちらに駆け寄って来た、腕の中を見下ろして、違和感にすぐに気づく。サイズが小さい、160cmぐらいしかないのではないか?
「じろ……
 瞬間泣きそうに目が痛んだ。三郎がそう言って掴んだ手のひらが何だか華奢だった。二次創作やファンフィクションでよくある『若返り』? 身体が何だかふにゃふにゃと柔らかい気がする。
 だとしたら三郎が懐いて大好きだったころの、少し若い二郎がいるのではないかと一瞬期待もした(今だって大好きなくせに、三郎はそれを受け入れがたく思っている)。
 しかし掴んだ手の向こう側、スカジャンの合わせ目のその間。明らかに黒いシャツが二つに盛り上がっている。肩から上着がずるりと落ちて、その膨らみがバインっと一度上下する。
 すると、一郎が「そっちか、二郎!」と叫んだもので、「そうみたい! 兄貴!!」と叫んだ二郎の声が大変可憐だった。

* * *

「『そうみたい』じゃないだろ……
「いや、さぶちゃん。色々あるんだよこういった場合には」
「色んなパターンがあんだよ!」
 いつものヲタク的思考に咄嗟についていくことができず、三郎はヘナヘナとその場にしゃがみ込むが、二郎の前に座ったシンジュクの長身の医者(神宮寺寂雷)は、落ち着いた素振りで微笑んでいる。焦っているのはなぜか庇われた三男ばかりだ。
 萬屋の仕事の帰りに輩に襲われた。二郎がそうなってからも三人はラップで輩をぶっ飛ばし、シンジュク・ディビジョンの病院までやって来ていた。
「催淫作用があったりとかですかね?」
「幼児化したり」
「浦島太郎みたいに爺さんになっちゃったりしてな!」
 ハッハッハッハッ! と笑い合う声の片方が高い。ブカブカと羽織っていたスカジャンが肩を滑り落ち、黒いインナーの隙間から大きな胸の谷間が覗いている。三郎は大急ぎでその白い胸元に学ランを投げつけて隠した。
「~……っ、勘弁してくれよ本当に」
「まぁまぁ、身体的には健康そのものだから、ね。今日はまずこのまま帰って大丈夫だよ」
「寂雷先生、ありがとうございます」
「病気ではないけれど、月の物が来たら、一応連絡くれるかな?」
「つきの、もの?」
「満月になったらってことっスか?」
「ほら! 行くよ!! 二人とも」
 三郎は長男とスタイルの良い姉になった兄を引きずって、シンジュクの病院を後にした。一郎は説明すればすぐ勘づいてくれるだろうが、二郎にはことが起こるまで伏せておこう……(泣かれそう、頭が痛い)。途中駅でカレーうどんを二杯ずつ食べ、お風呂に入った時にまた大騒動になるのは別のお話。

* * *

SIDE 一郎 二日目

『めっずらしぃね、一郎の方からお願いがある~だなんて』
 電話の向こうの飴村乱数はどこか嬉しそうに声を出している。何となく一郎の方は手に汗をかいて、スマフォが肌を滑り取り落としそうになった。「お、女の子を預かっちまってな、服をレンタルできるところ知らねぇか?」と用件を伝える。
『お洋服? 女の子の? 買い取りじゃなくていいの?』
「いいんだ、どうせ一過性のものだと思うから」
 そう、信じたい。
『【一過性】? すぐ帰っちゃうってこと?』
「あ~もうなんか面倒だな、うちの弟……二番目の」
『二郎君? 良い子だよね~! それが?』
「違法マイクのせいで女の子になっちまったみたいでよ」
 ぶは! っと乱数が電話の向こうで吹き出した気配がして、電話の向こうで『乱数、何だよ』と高く可愛らしい声が聞こえた。通話中に乱数が言う『オネーサン』の声が聞こえ漏れたのは初めてのことではない、しかしその言葉遣いが何となく気になった。
『なぁんだ~そっちもか。帝統ぅ、仲間がいるってよ! イケブクロに』
『はぁマジかよ、もしかして三郎?』
『違う、二郎君だって、ハイ』
 そう言って電話の向こう側の相手が変わる。どこか少年っぽいような、けれども隠しきれない可愛さを孕んだ声が『なぁ、二郎に変われる?』と、挨拶もなしに頼んできた。きっとこれは有栖川帝統で、二郎と同じ目に遭っていると思われた。
 少々ムッと思いながらも、色々と女体化に関する情報交換ができるのかもと思い、素直に受話器を次男(今性別は違うけれど)に渡した。二郎は横髪を耳の後ろにかけてから、スマートフォンを小振りな耳に当てる。その仕草に一郎は何だかドギマギした。
「うん、俺。帝統?」
 何となく背を向けて、作りかけていた夕飯(トンカツ)を揚げる手が止まる。ジュワジュワと油の温度は上がっていってしまうのに、話の内容が気になりすぎて調理が捗らない。大分茶色くなってしまったところで、大急ぎでそれを油から掬い上げた。
「え、いや……そんなとこ、見てない……け、ど」
 みるみる赤らんで行く弟(今は妹)に、一郎はついにコンロを止めた。ノッシノッシと近づいて行って自分のスマフォを細い指先から持ち上げる。受話器の向こう側で『まったまた~、俺なんて最初に見たよ! 見るだろ? 自分のがどんななんか!! 気になるじゃん!!!』と興奮した女性の声が聞こえて来るので切った。
「兄貴、俺……
……聞かんで良い」
「思いつきもしなかった」
「忘れろ、今日はトンカツだ忘れろ」

「今の二郎の栄養って、全部胸に行くんですかねぇ」
 思わずと言った具合に漏れた思春期のはずの三郎の吐露に、一郎は豚汁を吹き出すし(トンカツの日に豚汁)、自分が何言ったかに気づいて盛大に麦茶を倒す三郎で、食卓の上がはちゃめちゃになっているところへ、三杯目のご飯をよそって来た二郎はしばし、キョトンとしていて可愛らしかった。
 その日、二郎が風呂場で局部を確認したかは分からなかったが、昨日ほど風呂で大騒ぎはしなかった。

<続く>