sugu_yoru
2021-10-10 16:54:56
3086文字
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【さぶじろ】エンカウント

ブクロの事務所に来た十四君とエンカウントする二郎。『さぶじろ版深夜のお絵描き文字書き一本勝負』様より、過去お題を使用して良いとのことでしたので、第81回『嫉妬』をお借りしています。
https://racing-lagoon.info/ ←参考にさせていただきました、ありがとうございました。

 新しいピックとか弦でも見よ~、って思って。山田二郎は一人で楽器屋を訪れていた。入荷したばかりと見えるフライングブイに見ほれつつ(値段にはげんなりしつつ)狭い通路を歩いて行って、網でできた棚を左に曲がった時だ。
 自分より背が高い人が珍しいわけではないが、こんな狭い店内だとさすがにドキリとする。黒いマスクをつけて漆黒の衣装を身につけたその男は、どこかで見覚えがあった。確か年末、中王区の命令で二番手が集められたことがあったのだ。
「お前」
 くるりと振り返る青年。
「これはこれは……、聖殿を守護せし誇り高き魔犬(ケルベロス)。こんな世界で邂逅の輪廻を辿るだなんて人智を超えし神の信託。すべてはクリスタルの力の思し召しよ……
「お、おめぇ……。誰だっけ、何だっけ? 何とか十四……
 字は簡単なのに、読みが思い出せないでいると「我こそは、四十物(あいもの)、アイモノジュウシ……」とわざわざ自己紹介してくれる。しかし冒頭部分は、本当に何言ってるのか分かりかねた(三郎だったら或いは、理解できたかも知らない)。
「お、それ買うの? アイモノジュウシ」
「何か導かれし真実でも記憶したか?」
「俺もこないだ買った、その弦。てか、もっと普通に喋れね? 年(とし)確か近かったっだろ」
 すると、出ている瞳部分を輝かせて「わー……!」と感嘆のような声を上げたのは、先程までの名古屋の『彼』とは大分様子が違うようだった。まるで抱きつかんばかりに花を撒き散らして、「いいんスかぁ?」と、両脇を絞めた。
 二郎は突然のフレンドリーさというかキュートさに圧倒されながらも、男に二言はないもので……「お、おぅ」と吃(ども)りながらもすぐ返答した。だってこの青年は、三郎が下調べした他ディビジョンの資料の中の、黒づくめの彼と大分印象が違う。
 黒地に紫の厳ついマスクの中で、ホクホクと笑顔になっているのが伝わってくる。シアンの透き通るような瞳に、マゼンタの色味が走っている。
「山田二郎君、こんなところで逢うなんて奇遇っスね!」
「お、おう。ここだってイケブクロだからよ」
「あ、そっかー! そうっスよね!!」
「おめぇこそ家遠くね? だってナゴヤ……
と言い掛けると、十四は「自分、実はヴィジュアル系バンドをやっていて、関連の事務所がブクロにあるんすよ」と笑顔で答えた。二郎は虚を突かれて、「俺も学校でギターとか弾いている、趣味だけど……」と話を続けてしまう。
「わー! 本当っスか? 今度一緒に演ってみたいっスね?!」
とニコニコする四十物十四は、山田二郎が記憶している、あの背徳と墜天を背負った漆黒の青年とは別人のようだった。何と言うか、『接しやすい』。元々、二郎は愛想が良い方だし、誰とでも打ち解けるのははやい。楽器を通じて、十四の方の警戒心も溶けているようだ。その上、この目線の高さは身に覚えがありすぎると言うか……
「なぁ、お前身長何センチ?」
「185っス。二郎君は?」
「俺は180。なるほど、にぃ……兄貴と一緒なんだな!」
 そう言ってニッカリと笑うと、一瞬キョトンとしてから十四もこちらに笑いかけてくる。なーんだ、情報だけ見て取っつきにくい奴かと思ったら、全然そんなことないじゃない。三郎より声、高いんじゃないだろうか?
 店を出るころには、二人はすっかり昔からのダチみたくして、大笑いしながら肩など組んだりしていた。

「遅い」
 楽器店を出た瞬間、ガードパイプに腰をかけていた学ランは、二郎の弟だった。山田三郎。中学三年生、学校も違うし終わる時間だって違う。だのになぜここにいるのだろう? 二郎は首を傾げるが、肩を組んだ名古屋の青年は顔を輝かせた。
「あー! こんにちはッス!! 弟くんの方とも会えるだなんて、感激っス!!!」
「な、なんだよお前。馴れ馴れしい……。オイ二郎、決勝で当たるかも知れないディビジョンメンバーと懇意にするなってあれほど……
「十四、お前三郎にはさっきの『アレ』、やらねぇの?」
「あ、そーっスね! えとえっとー」
 そう言うと、四十物十四はゴホンゴホンと咳をして声帯を低くする。顔に手のひらを添えるポーズを決め込むと、半目で見つめる中学生に向かって声を張り上げた。
「これはこの者……いや、ここに在りし賢者の弟、山田三郎。噂はかねがね神託を受けている……それも一人二人ではない。お会い出来て僥倖よ」
「う、ぅん。ありがと……
「この世に生み出され、まだ間もないのに、阿修羅すら凌駕するその知識! 我の心友(ライバル)と呼んで過言ではない。故に我らは神を超えねばならない。この地上を覆う中王区という大いなる障壁を、共に打ち砕くために闘って行こうぞ!!」
「あー……まぁ、バトルで当たったらその、よろしくね」
 さっきまで仏頂面だった三郎がわずかに微笑んで、何と三郎の方から右手を差し出した。そんなことより内容がすらすら分かるのが凄い。他ディビジョンの青年と弟が交流するのを、「うんうん」と二郎は保護者よろしく頷いて見つめていたが、聞いたこともないような爆音が十四のポケットから聞こえて来て飛び上がった。
「あ、他メンッス。自分そろそろナゴヤに帰らなきゃ」
「マジか、大変だな」
……もう行っちゃうの?」
 三郎がまるで十四の服の裾を掴むように、わずかに腕を上げながら目を伏せた。二郎の中で、何か『モヤッ』とした気持ちが沸き上がる。でもその心情に心当たりがなくって、腕を組んで首を傾げた。
「ブクロに来たんだからさ、一兄に挨拶でもしてったらどうなの?」
「うー……ん、また今度来た時にでも」
 十四が困ったように頬を掻くのに、二郎は思わず三郎と十四の間に割り入った。「あー、あぁー! 気ぃつけてな十四」と両腕をわしわしとディフェンスのように動かして、お別れを言った。「ちょっと」と三郎が文句言いた気に二郎の制服を掴んだが、「それじゃあ二人とも」とニッコリお辞儀した四十物十四はそそくさとその場を後にした。

 風がぴゅるりと二人の間をすり抜ける。三郎は十四がいなくなったというのに、一度掴んだ二郎のブレザーを離さないでいた。それに気づいて先ほどのモヤモヤした気持ちが消えて行く。それで涼しさに身震いして、「お前、十四とアドレスとか交換しなくて良かったの?」と三郎に尋ねた。
「別に……、どうせお前が交換してるんだろ」
「まぁ、うん。そうだけど」
「もう良いだろ? 今日一兄がカレー作るって言ってた、はやく帰ろう」
「わわ、待てって、引っ張るなよ!」
 山田家でカレーの日は重要な日だ。そんな日に、三郎が他人を家に呼んだりするだろうか? そう疑問に思いながら三郎の後ろを素直について行くと、「カレーの日に、呼ぶわけないだろ? 食いぶちが減る」と心を読んだかのように言葉を投げられた。
「はぁ? だって兄貴にって、さっき……
「僕がそれを言ってる時、どういう気持ちだった?」
「はぁ?! え? ……いや、そのなんか胸がモヤモヤっとしたってか」
「僕も店からお前らが出て来た時、同じ気持ちだった」
「んー?」
「同じ気持ちにさせてやろうと思った」
「え~……? お前これ何か分かってんの? 何かこー気持ち悪い感じのこれ」
「二郎が逆立ちになっても書けない漢字、二文字」
「いっぱいあり過ぎるだろ」
 三郎はようやく口角を上げて笑って、それで家につくまで二郎のどこかしらをずっと掴んでいた。

第81回『嫉妬』。

<おしまい>