伸ばした足先が触れた大和の小さい足が、予想以上に冷たかった。すると、ほぼ腕の中で大和が笑った気配がした。そうしてまるで、猫みたいにゴロリと天の腕の中で仰向けになる。白目が多い瞳がチラリとこちらを一瞥した。
「こういうのって、『何か』してもらった方が元に戻るのでは?」
「~……っ、何言ってるの? 成人漫画の読み過ぎ」
「はは、冗談だよ。にしても九条もそういうの知ってんだな。いくらお兄さんでも、未成年にそんなことは頼めな……」
『い』を言い終わる前に、二階堂大和は夢の中へ旅立って行った。そうして天の方はと言うと、眠れないのだ。ドキドキが聞こえてしまわないか気が気じゃないのに、大和を手放す気が起きないのだから参った。
天は、シーツからはみ出る緑がかったつむじを見つめながら、ドキドキするのは『女体』のせいだけじゃないって、とっくに気づいていた。……もしかしたら、天の願望が彼の異変を招いたのかもしれない。そう思ったのに理由があった。
『こちら、恋愛成就で有名な神社なんですよね』
画面の中で、神主と親しげに話すのは、秋服凛々しい二階堂大和だ。『実は、スタッフに現地の噂話を聞いたんですが、こちらにカップルで訪れると別れてしまうジンクスがあるとか?』と天が台本通りに振ると、神主は苦笑しながら説明をしてくれる。
『こちら女性の神様でして、カップルで訪れる二人に嫉妬して別れさせるという噂が昔から根深いんですが、まず男性の神様なんですよ』
『え! 性別も噂と違うんですね』
天が大げさに驚いて見せる。
『ハイ、そして奥様と大変仲の良い神様で、一緒に奉られております。良縁、夫婦円満、恋愛成就の神様なんです』
『じゃあ俺たちが参拝しても問題ないな』
『ちょっと二階堂さん、まずボクら。カップルでも夫婦でもないでしょ』
天が笑いながら指摘すると、『そうだった』と大和がそれをウケて、ワハワハと現場も収録先も笑い声に包まれる。スタジオにカメラは戻ってくるが、大きなゲスト用のソファに座っているのは九条天、ただ一人だ。
「さて、九条くん。楽しい旅だったみたいだねぇ」
「はい、二階堂さんが愉快なので、始終お腹が捩れていました」
「大和くん、美味しいもの食べて、ゆっくり休んで、はやく復帰してくれるといいね」
「はい、ボクももう一度、二階堂さんと仏閣巡りに行きたいです」
「いやぁ、いいですね。その際は我が番組で是非」
「はい、彼がいないと、寂しいので」
『寂しい』と声に出してしまってから、その事実が胸に染み込んで広がるようだった。明日の午前中はトリガーの中で天だけ休みだ。その日に伺って良いかラビチャで聞くと、大和は快い返事だった(IDOLiSH7の他のメンバーが他に一緒かどうかは知らない)。
でも、なんとなく彼は一人で自分を出迎えるんじゃないかと。妙な確信があった。自分は理性を保てるだろうか……。一人スタジオを後にしながら、天は首を傾げテレビ局の廊下を歩いて行く。自分のそう言った欲望は未知数で自認がない。何だかそれが恐ろしくも感じられた。
フレーバー違いの王様プリン十個セットを携えて(四葉環には理のことで少し負い目がある、四つくらい彼が食べてくれることを願う)、寮のインターフォンを押すとき少し緊張した。『はーい』と言うハスキーな声は、二階堂大和の面影があった。
「よ! 九条」
出迎えた二階堂大和は、エプロン以外身につけていないように一瞬見えて、九条天が怒りながら上着を脱ぎ掛けたところで「ストップ、ストップ九条! ちゃんと着てから、履いてっから、な!?」
「ホラ!」と後ろを振り返ってくれる。タンクトップにハーフパンツという出立ちだった。
「未成年が生活してる中、そんな格好でいるの本当に理解に苦しむ」
「いんや、お前さんが来るってわかっていたからサービスさーびすって思って」
「全然嬉しくないよ、て言うか服は別に今までのだって着れたんじゃないの?」
「最初そうしてたんだけど、俺のじゃやっぱデカすぎて、ミツに借りたりしても、こうすると……」
「?」
そう言って、大和は腕を水平に上げて身体の横部分を天に見せる。
「男物って、袖がデカいから、腕上げると隙間からおっぱい見えちゃうんだよなぁ」
「バ……何言って……っ!」
最低! とばかりに赤面すると、まるで小さくなってしまった二階堂大和はイシイシと可笑しそうに笑った。「どうぞ」と促してくれるので、ブスくれつつ天はその後ろ姿に続いた。「下……短すぎない?」と指摘すると、「それイチにもめっちゃ言われる」と笑った。
「九条、ごめんな。スタジオ一人にしちまって」
と、急にしおらしく大和が言うのに、一瞬天は何のことを言われたのか分からないでいた。少しして、件の地方でのロケが放送されたのを観たのだな、と気づいた。
「別に、二階堂大和は二階堂大和の仕事をこなしていたでしょ。座ってブイを観てコメントするなんて、ロケに参加していない出演者だって誰でもできる」
「そういや俺がいないと『寂しい』ってぇ~?」
茶化したように言う大和に、「……寂しいよ」と天は素直にその背中に答えた。「君がいないテレビの中は、寂しい」と重ねて伝える。すると、大和はどこか俯いて、「俺だって、俺たちだってあの時寂しかった」と吐露される。
その『あの時』が分からないはずがない。促されるままに席につくと、お茶がまず出された。それは、どこかで飲んだ記憶のあるハーブティーだ。そう言えば、地方のロケで無農薬のハーブ園に行ったのだ。
「これ……」
「あー、お前さん。あそこのブレンドティー美味しそうに飲んでたろ? スケジュールがタイトで買って帰れなかったけど」
「通販してるの?」
「いや、現地売りのみ」
「? ? ?」
「リクと二人で行って来たんだよ、ロケで行った所全部回った。お兄さん今お姉さんだからさ、デートみたいで楽しかったよ」
「え、何で?」
「元に戻る手がかりがあるかと思って、さ!」
<続く>
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