Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
sugu_yoru
2021-09-28 23:44:55
2219文字
Public
Clear cache
【トド十】そうしてここは、どこでしょう【2】
注意! 震災や水害を連想させる描写があります、苦手な方は避けてください。
トド十。続く予定です。
1話『
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10204158』
どうやっても、どんなかたちでも。『あなた』を生かしてあげたかった。
「あーもぅ、お前ら何してたんだよ」
居間を開けると、振り返ったチョロ松兄さんが困った顔して蝋燭に照らされている。居間は電気がついておらず、ガタガタと外が何だか騒がしい。ボクが一番驚いたのは、真夜中(それか早朝)だと思っていたのに、家族全員そこに集合しているようであったことだ。
「避難勧告が出たのよ」
『ようであった』と言うのにはわけがある。母さんの困ったような声が聞こえるけれど、姿は見えない。台所で熱心に何か作業しているようだった。父さんも同様に、姿が見えなかった。寝癖頭のおそ松兄さんが、カチリカチリと卓上ガスコンロを点けようと試みている。
「おそ松ぅー? 火はついた?」
「まだだよ母さん、これボンベ空なんじゃないのぉ?」
「どれ、持って来てみなさい」
台所の暗闇から、母さんの黄色くて細い腕がにゅっとこちらに伸びる。その腕が、まるで濡れているように見えて、ボクは母さんに向けて声を出しかけた。それを遮るように長男がパジャマ姿のまま台所の方に歩いていく。
「トド松、忘れちまったのか?」
「は! え? 何だっけ
……
」
「何びくついてるんだ、少し腹ごしらえしたら避難するんだろぉ?」
「ひな、ん?」
「
……
外が暴風雨直撃しちゃって、未曾有のなんたらってヤツらしい」
それまで黙っていた次男と四男が次々と声をかけてくるもんだから、ボクはそちらに気をとられて台所から目線を反らした。慣れたちゃぶ台には、蝋燭に照らされたところどころ錆びついた缶詰がタワーになっている。十四松兄さんが目を輝かせる。
「これ! 開けちゃう?」
「おー開けちゃえあけちゃえ。ここで食べなきゃいつ食べるんだってもんばっかりだしよ」
戻って来たおそ松兄さんが、ボクの視界を遮るようない位置にわざわざ座り直して、ボクが手に取りかけていた牡蠣の缶詰を奪い取る。「開けちゃえ!」と言った癖に、目の前のタワーにそれを戻されてしまった。
「お前ら、父さんたち用意できたから先に避難するからな」
「わー父さんたち、気をつけてね!」
十四松兄さんが台所に顔を出して、扉が一回、閉まる音がした。蝋燭が外からの風で揺らめいて消えかけた。その時に、
……
ボクらに一瞬変な沈黙があった。
「よし! それじゃあ行くとしようかねぇ」
スパンっとおそ松兄さんが目の前で膝をぶっ叩いて立ち上がった。
「ったく、お前がしきるなよな」
勝手口から戻ってきた十四松兄さんが、「準備できたよ!」と笑って、それはもう大荷物を抱えている。ボクの手を引き立ち上がったもので、開けて食べかけていた鯖の水煮が手から零れ落ちて畳に落ちたが、兄さんの力が強過ぎて、ボクはそれをそのままにしてパジャマ姿のまま勝手口へと向かうしかなかった。
開け放たれた勝手口の外は、まるで宇宙空間のように真っ暗で、地面などすっぽり消え失せてしまったような恐ろしさがあった。ボクの怯えに気づいたのだろうか、十四松兄さんがボクの前に立ちはだかってくれて、それで寒い外気が少し和らぐ。ボクは思わず兄のお揃いのパジャマの布を後ろからきゅっと掴んでしまった。
らしくなかっただろうか、十四松兄さんはボクのその動作にびっくりしたみたいだった。びくりと身体や肌が揺れたのが、布越しにボクの指先に伝わってくる。
「兄さん」
「トド松、大丈夫だから!」
振り返った兄さんの表情は、いつもどおりに向日葵みたいに眩しくて、ボクの心がなんだかじんわり暖かくなる。先ほどカラ松兄さんに言われた言葉が蘇って来た。ボクは一体何を忘れていると言うんだろうか。
「そしたら行くよ~」
おそ松兄さんを先頭に、ボクらはぞろぞろと勝手口から家を出ていく。少し外を出ると、街灯の光で灰色の道路が見えた。ボクは安堵する。床があれば落下するようなことはないだろう。 沈黙が不安になって、チョロ松兄さんに尋ねる。
「避難場所どこだっけ?!」
「うちの町内あんまりそこら変のことちゃんと考えてないから、川沿いの小学校なんだよね」
チョロ松兄さんが思案するように上を向く。ボクら下の三人は、上の三人から少し離れて、一カ所に纏まるようにしながら歩いていた。なんて言ったってこういう時は十四松兄さんが頼りになる。一松兄さんもそうなんだろうか? 皆の荷物を一手に引き受けて歩く、十四松兄さんの側で、一松兄さんは、今にも泣き出しそうな、そんな変な顔をしている。
「
……
ちょっと」
ボクが思わず四男に声をかけかけると、ボクらはちょうどT字路に通りかかるところだった。ふと目の前を見ると、チョロ松兄さんの姿が見えない。え? どうして? あれ? さっき話し掛けて、そうして返してもらったばかりだ。
「いや
……
家から一緒に、まず来たっけ?」
……
思い出せない。そうして前を見ると、長男次男の二人が、何だか立ち止まって道の脇にある神社の入り口、階段をぼんやり見上げながら立ち止まっていた。
「さて、この後どう行ったけ?」
「忘れたのか? おそ松」
「?」
「『オレたち』はここまでたどり着けなかった
……
」
カラ松兄さんがそう答えたところで、神社の方からびゅうっと凄い風が吹いて来てボクは思わず目を瞑った。次に目を開けた時には、兄二人が佇んでいたはずの道路が、文字通り『消えて』いた。
<続く>
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内