sugu_yoru
2021-09-26 18:41:32
2535文字
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【天ヤマ】大和さんが後天性女体化するヤツ1

アイナナ 天ヤマ 勉強中 続きます。

 「何かあったら連絡して良い」と言ったのは、確かに九条天の方からだった。泥酔した二階堂大和は、それにへらりと手を振って真っ赤な顔を緩ませている。地方のホテル、時刻は九時過ぎ。打ち上げが階下の宴会会場で終わった時間。
「ありがとな」
 ぽんぽんとそのまま頭に触れられるのを、常時だったら許すはずがない。ただ、今回は事情が違った。地方でのロケで、夜。スタッフやスポンサー、ディレクターなんかと飲み会になった。
「一口! なんなら一舐めでもいいから」
と大の大人たちに詰め寄られるのを、彼が守ってくれた形だ。横から手を伸ばして片っ端から飲んでくれて、それを面白がったスポンサーやディレクターも大喜びだった。
 マンガみたいに酔った二階堂大和を支えて、九条天は腹八分目。地方の珍しい料理も堪能できたし、実にスマートにその場を離脱できたのは、この酔っぱらいのおかげに決まっている。
……水をちゃんと飲むんだよ」
「わぁかってるって~」
「明日、チェックアウトに……いや朝食バイキングに間に合うよう、起こしてあげるから」
 仕事はもう終わっている。明日は二階堂大和と一緒に鈍行と新幹線を駆使して都内に帰る予定だった。天は、それも実はこっそり楽しみにしていたものだから、正直明日の朝には彼にピンシャンとしていて欲しいのだ。
 潤んで赤くなった瞳が、重いホテルの扉にガシャンと遮られる。それにホッとしたような残念なような、何とも言えない気持ちになって、九条天はドキドキする胸元を掴みながら自分のあてがわれた一室へ向かう、すぐ隣だけど。
 思えば、二人でのロケが増えたのはどうしてなのか? 大作での主従関係での共演、海外でのロケ。その後に何でか二人きりで地方のロケが増えた。大和のマネージャー曰く「大和さんと一緒の時の九条さん、等身大というか……可愛らしいって評判なんですよ」とのこと。
 ……天としてはどんな仕事でも力の入れように差をつけているつもりはないし、『等身大』というのは普段よりポケポケしていると言われているようで不本意ではあった。
 しかし、彼との地方ロケは正直楽しい。今までだって、共演者と一緒でなくても、一人で観光地へ行ってみたり、TRIGGERへの土産を買ったりはしていた。しかし現地の『食』にはそれほど頓着はしていなかった。
「九条、今度のロケ地さ、これが有名なんだと」
 二階堂大和はそう言ってロケの合間や始まる前、終わったあとに食事に誘ってくれる。そのおかげで天は旨いものや珍しいものが食べられたし、「旨いか?」と笑う彼と過ごす時間は嫌いではなかった。
「だから、別に『特別』ってわけじゃないんだ、僕の利害と一致しているってだけで……
 シャワーを浴びて枕を抱きしめてウトウトする。隣の部屋の二階堂大和はもう眠ったのか、スマートフォンに連絡は来なかった。明日には朝食を一緒できると良い。それが駄目なら新幹線の駅弁を楽しみにしよう。
 部屋を暗くして数時間経ったころだろうか。眠りが比較的浅い天は、ベッドサイドで充電しているスマートフォンが震えているのにすぐ気づいた。二階堂大和からラビチャが来ている。
『起きてる? すぐ来られるか?』
 目で文字を追うと、すぐに飛び起きた。室内着に用意されていたシルクのパジャマに、ピンク色のカーディガンを羽織るとカードキーとスマートフォンだけ持って廊下に飛び出した。
 部屋のインターフォンを押す。ガチャリと開いて、扉の隙間からこちらを伺う大和が、背中を丸めているのかひどく小さく見えた。「ちょっと、大丈夫?」と聞いた己の声が、焦れていたのか少し怒ったように廊下に響く。
 はっとして口元を押さえた天の右腕を、大和の細い指先がはしりと掴むと部屋の中へ引き込むように力を込められる。その力があまりに弱々しかったので、天は自ら部屋に向かって一歩入り込んで、後ろ手に重たい扉を閉めた。
 背中にガチャリとオートロックの音が響きわたる。室内の照明が暗い。二階堂大和は橙色のベッドサイドの光を背に受けて、困ったようにうつむいている。その髪の毛が濡れっぱなしで、天は彼が首にかけていたタオルを引き抜くと、些か乱暴にその頭を拭いた。
「ちょっと! すぐ乾かさないと風邪を引くよ」
「ごめ……ちょっとびっくりしたってか」
 頭の位置が低い。もしかして腰を折ってる? 目の前のシルエットが小さい。そして出した声が高い。元々、彼がそれほど低い声だけを持ち合わせていないのは知っていた。しかし、この違和感は何だ。
 九条天は後ろ手に入り口の照明をつけた。同じく橙色のそれに照らされた二階堂大和は、まっすぐ立っていたのに九条天より身長が低かった。肩幅もてんでなかった。まるで若返ったみたいにどこもかしこも天より小さい。
「き、み……
 思わず、天と同じシルクのパジャマを着込んだ彼の両肩を掴むと、それが思ったよりもずっと柔らかかった。ぐにゃりと指先が沈んで、サイズが大きすぎたのであろう、肩から服がずるりと落ちた。
 そこで現れた健康的な肌色の谷間に、九条天は彼らしくもなく「そっちか!」と叫びそうにもなった。ぐっとそれをこらえて彼の肩にシャツを戻すと、手早くピンク色のカーディガンを彼にかけてソファに座るように促す。
「いつ、そうなったの?」
「さっき目覚めて、二時くらいかな? シャワーしようと思って、浴びてしばらくは夢だと思ったんだよ! でもお兄さんのおにいさんは消え失せてるし、こっちは何だか増えてるし、で」
 そう言ってぽよぽよと小さくない胸を下から持ち上げて見せるもんだから、九条天は赤面して目線を逸らせた。
「いつもそんな夢見てるの? 変態」
「ちょ、九条優しくしてよ。お兄さん何だか泣きそうなんだからね」
 冷静を装いたいが、スマートフォンを操作する指先が震える。彼のマネージャーのアドレスを探し当てるのに時間がかかった。ラビチャではなく、即電話をかける。数コールのあとに、寝ぼけたような声で電話に出たIDOLiSH7のマネージャーは、内容を手短に伝えると、疑いもせずに『すぐ行きます!』と言って電話を切った。

<続く>