sugu_yoru
2021-05-04 02:44:08
2763文字
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【さぶじろ】どこかで触れている

二郎の同級生ストーカーを撃退するさぶちゃん。『さぶじろ版深夜のお絵描き文字書き一本勝負』様より、過去お題を使用して良いとのことでしたので、第40回『近すぎる距離』をお借りしています。

「二郎ちゃん、うちに来ない?」
……おー」
 二年生になってから同じクラスになった、『佐藤』と言う。普段つるんでいる仲間は『田中』『鈴木』『高橋』の三人で、『佐藤』はどちらかと言うと二郎が一人きりの時を狙って声を掛けてくるような生徒だった(少し大人し目の奴だ)。
「俺んち、先週から保護猫受け入れてて可愛いんだ」
「へー……
 二郎の脳内に、あの子豚が過(よぎ)る。「青みがかった紫色と、緑色のオッドアイでさぁ、黒猫なんだけど。何だか二郎ちゃんみたいだろ?」と言われるが、「それってば三郎じゃん」と思考は弟に及んだ。
 ……そうだ、弟。「わりぃ、中学生の弟一人にしておけねぇから」と片手で詫びると「ううん、突然誘ってごめんね」とすぐに引き下がってくれはした。しかしスマートフォンを取り出して、その猫を見せて来るので若干しつこいなと二郎は少し困った。
「すっごいツンデレでさぁ、こちらからかまうと逃げちゃうんだよ。でも俺がソファでテレビとか見てると、わざわざ尻尾がふさふさ当たる位置に座り込んでさ、それも可愛いの」
 見せてくれた液晶にうつる猫は、垂れ耳の長毛種で。ふてくされた表情がやっぱり自分んとこの三男に似ていて二郎は吹き出してしまった。「本当だ、可愛いなぁ」って垂れ目を一層下げると、相手の顔が嬉しそうに華やぐ。
 左右違う瞳の猫を見ていたら、ますますと自分たち兄弟と、留守番をしている三郎に思考が飛ぶ。まだまだ相手は話したそうだったが「じゃ、俺行くわゴメン」と右手を相手に向けてその場を足早に立ち去る。何だか後頭部を視線が追いかけるようで、それが少し困ったように感じられた。

「あれ」
「あ……れ?」
 家に一人でいるかと急いで帰ってみれば、萬屋の前で弟と鉢合わせとなった。「お前遅くない?」と疑問を口にすると、「ちょっとね」といつも通りツレナイ態度だ。先に鍵を空けて萬屋に入って行く。二郎は首をコキリと鳴らしてから、その後ろに素直に続いて家に入った。
「にぃ……兄貴仕事だっけか?」
「今日遅くなるって、朝言ってたでしょ。あと二郎はもっと兄弟の予定表(Google)みるべき、あと自分の予定も入れるべき」
「ちぇっ、口うるせぇの」
「図星を刺されたからって、悪口で締めるのはどうなの? バカなの? 低脳なの?」
 先に部屋へ上がろうとすると、「二郎、手を洗えって! いつも一兄に言われてるだろ?」と袖を引かれたもので、思わず舌打ちしそうになったが堪える(いつも辛辣な態度だが、三郎は二郎の挙動にイチイチ傷つきやすい)。
「うっせーうっせ……! さっさと入りやがれ!!」
 蹴る振りして洗面所に押しやると、代わりばんこに手洗いうがいをしてそこから出た。二郎はそのまま部屋に入る気が失せて方向を変えたが、てっきりすぐ部屋に引っ込むと思っていた三郎が、二郎の後ろについてリビングに入って来た。二郎は頭にハテナマークを浮かべながら、鞄をソファの脇に置くと、どかりとそこに腰掛ける。
 三郎はなぜか、ソファの下のラグの上にチョコンと座ると、ソファの脚部分に背を預けて真四角なリュックからiPadを取り出している。少し傾けた黒髪が、ソファに投げ出された二郎の左手に当たってドキリとする。
 ……わざとか? どうなんだ? こちらのそわそわには気づいていないのかどうなのか? 「二郎、ちょっとこれ見てみろよ」と、今度は制服のズボンをついっと引っ張られる。「おぉ」っと妙に高い声が出て、「ナニソレ」と可愛く笑われた。
「いやこっちこそ……ナニソレ?」
「これ、萬屋の前の監視カメラ。設置して行ったのは警察だけど」
「え、うち監視カメラとか付いてんの?」
「ここいら一帯付いてるよ……夜道とかその映像を色んな視点で観て、犯罪を減らすんだ」
「何かそういうの、大昔の邦画で観たな……てかお前は何でその映像を……ってまぁいい」
「ほら、この人。この人影だよ」
 三郎が画面を指差すので、目を凝らすと。それは先ほどまで一緒にいた同級生に似ていた。というか本人じゃないか?
「え、佐藤来てんじゃん! さっき何か言い忘れたんかな?」
「ばっかジロー、この映像は三日前のものだ」
「三日前ぇ?」
 その日は別に、帰りは佐藤と一緒ではない。もしかしたら数日前から彼は何かしら悩んでいて、それで家に二郎を呼びたかったのかも知れない(萬屋まで、来たのかも知れない)。三郎はパパっと画面を六つに割ると、佐藤がビルの前をウロウロする似たような動画を表示した。
「左上から三日前、先週の日曜、一週間前、一ヶ月前、三ヶ月前、半年前……一番古くて二郎の高校入学直後の映像だ」
「な、こんな長いことコイツ何か悩んでたんかな?」
 三郎はハァ~とため息を吐いて首を振る。
「お前の頭はお花畑か、ハァ二郎。お前帰り道コイツと途中まで一緒だと思ってんだろ?」
「? そうだと思うぜ、家ちゃんと場所聞いたことないけど」
「こんなに家の前に何度も登場して、僕がこいつの素性を調べないわけないだろ? 家は高校からこのビルと反対方向。さっきだって、お前と別れたあと大通りに出て、バスに乗ったよ」
 そう言って三郎がiPadに大写しにしたのは、反対方面のバスに乗り込む佐藤の姿だった。二郎は吃驚して、またボスリとソファに座り込む。猫の話も嘘だったらどうしようと、開いた口を手のひらで覆う。
「マジか」
「マジだよ、気づいて良かったなー二郎」
 ふわふわと左側に黒髪。思わず二郎は左手で三郎の頭を撫でそうになった。今日に限って弟は妙に次男に近いのだった。気がつくと彼の右手は二郎の太腿にわずかに触れていて、右膝も二郎の脚にぶつけられている。
 『すっごいツンデレでさぁ、こちらからかまうと逃げちゃうんだよ』という佐藤の言葉を思い出して、自分から触れるのはやめときたい。しかし二郎はニヤニヤが隠しきれず、覆った口の中で口角を上げる。よせば良いのに言葉まで転がり出た。
「お前、俺のためにわざわざ佐藤の動向追ってくれたんだな」
「な……っ」
「ありがとな」
 もう仕方がないので、ボスリと自分よりわずかに小さい黒髪を掴むと、見上げてきた十四歳が見るみる顔を紅潮させて飛び上がった。
「お、前のためじゃないから! お前がこんな怪しいストーカー野郎に付け入られないようにだなぁ……
「あーもぅ、分かったわかった」
 今日はどうせ二人なのだ。「何食べたい?」と聞くと、「お前が作るなら何でも良いよ」と。そこは素直に呟いたので、二郎は笑って、冷蔵庫に何が残ってるか確認しに今度こそソファを立った。三郎が何か動いたのか、佐藤はそれから二郎に近づいて来ることはなかった。

<おしまい>