sugu_yoru
2021-04-30 22:23:46
2390文字
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【タイカケ】ねえお願い、傷口を見せてよ。

ずっと放置していた新作です。タイカケ深夜のおえかき一本勝負 第8回【過去お題:はじまり】です。
※タイガの制服について捏造
※トラチ不在

 ごくたまに。幼少期から知っていたような錯覚に陥るが、二人が出会ったのは間違いなくエーデルローズの寮に入ってからだ。最初のころ、ちゃんと緑色の制服を着た香賀美タイガは貴重だったと思う(初々しくて、正直可愛かった)。
 写真撮っておけば良かったな、って。ネクタイの色までも赤くなってしまった時にガッカリとそうは思ったのだけれど、反面その色がお揃いになって嬉しいと思う自分もいる。阿呆か、乙女か? プルプルと犬みたくかぶりを振ってらしくない己に舌打ちする。

 ねえお願い、傷口を見せてよ。

 自分を取り巻く誰かに、『チャラい』と言われようとも、カケルは自分が歓迎されていないことには流石に気づいていた。気持ち的には扉と同じくらい、彼の心は閉ざされている。出逢ってまだ間もないが、意志が強くてこういう風なことをいつかしそうではあった。
 元々、こういったこと(アドバイスとかフォローとか)に自分は不向きだと思う。でも太刀花(ユキノジョウ)が行けというのだからいた仕方ないじゃないか。当時、カケルはまだここ(エーデルローズ寮)には拠点を置かず、練習や聖からの連絡がある時だけ寮へ来ることにしていた。その先で『これ』だ。
「ねぇ、いい加減にしにゃよ」
 そう簡単に扉は開くわけがないのであるが、今日も廊下にはカケルの声が無駄に響いた。ゴッゴッゴッ。手の甲の堅いところで、殊更に力を込めて戸を叩く。すると、キィっと音を立てて、観念したかのように、扉が薄く開いた。
 現れたのは十二、三歳くらいの少年だ。背だけが急激に伸びたように細く、頼りない。事実、少年はここ数日で瞬く間に成長していた。瞳が合うと、不安そうに緑色の瞳を伏せる。カケルは思わずそれを覗き込もうとして、目尻や何かに赤い色を見つけてしまって躊躇した。
「あ」
 白い廊下は光で満たされている。その光が彼の目を射抜いて殊更宝石みたいに煌めいて見えた。黒髪の合間から見える緑色の瞳は美しいが、この寮で玉(ギョク)のような双眼を持った生徒は珍しくない(カケルだって、シャンパンみたいな瞳を持っている)。
 また扉を閉めようとした細い手首を、大差ない手のひらで捕まえた。折れそうな細さに、カケルの方が吃驚して一度手を引っ込めた。タイガは意外にも扉は閉めてはしまわず、不安そうな面持ちのままカケルを見上げてくる。
「ねぇ、タイガ」
 名前を呼ぶ。
……何」
「せめてさぁ、ご飯ぐらいは食べようよ」
「お前も……
「ん?」
「お前も『制服ちゃんと着ろ』って、言いに来たのか?」
「あぁ~、まぁ『行って話して来い』とは言われたかにゃあ。っていうか、着てるっちゃ着てるもんね〜、制服」
「あ?」
「真っ黒でさぁ、格好いいやつ」
 にかっと笑いかけてやる。このころ、今より身長差があった。タイガは何でか鼻の頭を赤く染めて、しばらく黙ったあと、おずおずと真っ黒な髪の合間から緑色の瞳で見上げてきた。真っ白な歯を思わずと言った風に少し覗かせて、
「そんな風に言うやつ、初めて見た」
と呟いた。その目を見て、カケルは何となくピーンと来た。タイガとドアの隙間に右手をぐいっと挟み、ズカズカと彼の部屋に入る。壁に掛かって、ほとんど着られていないような華京院学園のブレザーの合間から緑色のネクタイをスルリと抜き取る。
 勝手に部屋の中に入り込んだカケルに、怒りで顔を白黒させるタイガに振り返って、学ランと白シャツの合間にその緑をぐるりと回す。
「ほぉら似合う、もうこれでイーかもねん」
 キュキュっと結んでやると、香賀美タイガは何か文句を言いかけて、顔を赤くして黙りこんだ。カケルは綺麗に結ばれた根元をパンパンと叩くと、何か言われる前にさっさと部屋を退出する。部屋を出た瞬間、バァンッと扉を閉められた。

* * *

「タイガ」
 『きゅん』を意図せずつけ忘れた。それでもタイガは違和感に気づかないようで、素直に「ん?」と振り返る。いつもより距離が近い気がしてドキリとしたのはカケルの方で、今となっては、それでも乱暴に結ばれるようになった赤いネクタイを見つめる。
……なんだよ」
と視線に気づいてかそわそわし始める年下の男の子に、思い切り眉が下がった自覚があった。「貸してみ~♫」と目を細めて、誤摩化すように目の前のだらしなく結ばれたネクタイに指先を伸ばす。パンパンとあの時のように根元を叩いてやると、「うむ」みたいに頷いてタイガは他の寮生のところへ駆けて行ってしまった。
 天気の良い日で、皆で寮の庭に出ていた。カケルは後輩たちが咲く花にはしゃぐのを、入り口に立って目を細めて眺めている。
「あのスタイル、定着したな」
「ぅわ! 吃驚したちゃんユキ気配消さないでよ……
 いつの間にか傍に立っていた太刀花ユキノジョウに驚いて飛び上がっていると、本人はそれに可笑しそうにクスクスと笑うばかり。
「あの時お前を行かせて良かったよ」
「ボクちゃん本当はああ言ったフォローは苦手にゃんだけどね〜」
「何を言う、ちゃんと解決したじゃあないか。今となってはタイガのああいった個性は認められるべきだったと思う」
「まぁ〜ケツロンロンそんな感じだよね〜」
 そう言って、ユキノジョウの肩にぱすりと頭を預けると、同級生の中で一番誕生日がはやい友だちは、今度こそ苦笑したようだった。「おかげであんなに懐かれて……ホラ見てみろ?」と言って顔を近づけて囁いて来る。
「ユキちゃーん、それわざとやってるッショ?」
「ふ、さてどうかな?」
 ゴニョゴニョと入り口で喋る二人を、エーデルローズの庭から真っ直ぐに緑の瞳が射抜いてくる。今度はカケルが苦笑して、ユキノジョウの胸元をパンっと軽く叩くと、「今行くよ」って呟いて、可愛い黒髪の元へと走って行った。

<おしまい>