sugu_yoru
2021-04-30 00:28:34
2471文字
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【チョロ十】分裂するおチョロ1

ケツたたき用に載せておきます。

 僕には、『いらない』。そんな気持ちなら『いらない』。

 『認めたくない恋心』。そんな厄介なもんが自分の中にあるだなんて気づいたのは、台風が明けた秋の初めの日中。強い日差しが僕の上を容赦なく照りつけたその日だった。弟の不思議な提案に乗って『それ』を試みたのは、まぁ、いつも通り暇だったからだ。
「チョロ松兄さんもできるってぇ!」
 流石に帽子の一つでも被ってくれば良かったと後悔する。九月の日差しというのはパッキリとしていて、夏よりも落ちる影は消し炭のように黒く感じる。まるで自分の腹黒い部分が(末弟には負けるが)、実体化したような錯覚を覚えた。
 僕のアホ毛のないシルエットの近くを、口元が大きく開いた横顔が並ぶ。視線を起こすと、ハイライトのない黒目が僕を射抜いて、「あはー」とだらしなく笑い声漏らしている。今日弟が提案したのは、おおよそ彼しか出来ないような内容だった。
「十四松……
「チョロ松兄さん、まあだぁ?」
「そんな……できないよ僕には」
 僕は汗をダラダラと流しながら弟に懇願する。袖越しに弟の手が、僕の左腕をちょいっと持ち上げる。それに「お」と少し気を許していると、次の瞬間、馬鹿みたいな力で右側に引っ張られた(僕らじゃなかったら千切れてた!)。
「ちょっと、頑張ってみようよ!」
「わ、バカ」
 努力でどうにかなることなのか? 街灯にしがみつく僕の左腕を、袖の中から大きい手がぐぅっと掴んで引っ張り上げた。「っ、痛い!」と叫ぶ暇すらなかった。なにしろ言葉とは裏腹に痛くはなかったのだ、ちっとも。
 ただ、『ずるり』と厭な感触がして。背筋がぞぞぞと冷えた。まるで腕が引っこ抜けたみたいな? 気持ちの悪い『ぬらん』とした感触。
 いやいやいや、待てまてマテ。トカゲの尻尾じゃあるまいに、人の構造ってそんな簡単なもんじゃないでしょ? え、十四松? それはまた五男は別規格ってなもので……
 パッと横を見下ろすと、何と緑チェックの腕が二本に分かれてる。いや人間腕は基本二本あるんだけど、右に二本。それがにゅるんと離れて、アスファルトの上にてちりと尻餅をついた。
「「はぁっ!?」」
「あっはぁ~」
 あっという間に、比較的仲の良い兄弟の一人によって。僕は、『ぼくら』は、二つに分かれてしまったのだ。青ざめて震える僕らの周りを、どこか狂気じみた弟がグルグルと乱舞している。
 三角形の口、白目の多い瞳。チェックで緑色のシャツを着ていて、僕に向かって伸ばした手のひらが結構大きく思えた。そこに現れたのは……もう一人の『僕』だった。

「で、戻らなくなったと」
 緑色のシャツが二人、目の前で小さくなってるっていうのに。十四松以外の兄弟は、どこか面白そうに『僕ら』を取り囲んで見ている。
「まっじでーチョロちゃん。もしかしてパンツの色だけ違ったりしないの?」
 うちのクソ長男はことさら面白そうに僕が『イン』している緑色のチェックのシャツをズボンから引きずり出してペロっとめくって見せた。ちょっと待って、減るへるhell。僕の尊厳は減るけれど、頭数的には増えてるって何だそりゃ。
「ま、いーじゃん。赤い鼻の片方にハロワ行ってもらってさ、もう一人はダラダラすればいいじゃん」
「それ、作品違うし。作家も違うでしょう?」
 鼻の頭を赤いマジックで塗られそうになるのを拒否しながら、いつものように半目で睨み上げると、めげない長男はイシシと笑ってから「なーんだ、つまんないの!」って頭の上で腕を組んで後方に倒れこんだ。
 僕は呆れてそんな兄さんを見つめていたのだけれど、横に座った僕の分身(いや、もしかしたらこちらが本体かもしれないのだ)が唐突に立ち上がった。「十四松」って五男を呼んで、先に座ったソファーの横を、パスパスと叩く。
 ワンコよろしく、急に四つ足で立ち上がった五男が、わふわふと僕ではないぼくの方へと駆けて行って、その脇に滑り込んだ。
 そしてもう一人の僕ときたら、五男の頭をなでなでしながら、「あれ~……? さっきから思ってたんだけどさぁ、お前ってこんなに可愛かったかなぁ」などと首を傾げる始末。緑と黄色。その光景を前にして、僕ら残り五人は一拍置いてから声の限り叫んだ。

「「「「「「えぇえぇええええええええええ!?!!!」」」」」」

「ちょ、ナニソレ……。本当はそんなこと思ってたのシコ松兄さん!」
「十四松でシコってたのか? シコ松ぅ?!」
「フッ! 弟たちは皆ラブリーだよな……分かるぜブラザー……
……今ごろそれに気づいたの? ちょと遅いんじゃないの?」

「っっってぇ、ちょっと待ってぇ!!」

 僕が大声を上げたので、赤も青も紫もピンクも、一様に一応(あ、韻踏んじゃった!)黙ってくれたけれど。僕は顔中だらだら汗を流しながら、どこかうっそりと十四松を見つめているもう一人の自分の胸ぐらを掴んだ。
「エルニーニョ現象のせいで、頭沸いちゃったかなぁ? 僕ぅ?!」
「は? 思ってること言って何が悪いの? お前だって十四松のこと『可愛い』って思ってんだろ?」
 半目になった僕が、いやに冷静に僕の手のひらを叩き落とす。それを見て、十四松がどこかバツが悪そうに「あー……」ってうめきながら黒目をひゅんひゅん泳がせてた。僕だってあれだよ、兄弟のことを嫌いなわけなんてないし、これはあれだ……『兄弟愛』みたいなもんだろ? 違うの?

 結局、夜寝るまでに僕らは一人に戻れず、七人で眠ることになる。こうやって人員が一人増えることも実は初めてじゃないので、布団は別にゆとりはあるんだけど! 僕と『僕』は並んで眠りについたけど、十四松に妙に優しい方の『僕』は、おそ松兄さんの隣に配置された(他の兄弟たっての希望だ)。
 妙な肌寒さで目が覚める。それもそのはず、僕を挟んでいたもう一人の僕と五男の姿がない……。めちゃくちゃ嫌な予感がして、僕はひっそりと起き上がると電気がちらつく階下へと静かに降りて行った。

<続く>