sugu_yoru
2021-04-19 01:28:07
2412文字
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【いちじろ】二郎に触り過ぎ5-2【さぶじろ】

いちじろ で さぶじろ だけど一郎無自覚です。三郎サイドです。
じろちゃん具合悪くなる描写があるのでご注意ください。

※「2nd Division Rap Battle」前。
※「マリオネット」後。

 一度部屋に引っ込むと、机の上の本に目をやる。もらったその日の内に一気に読んでしまった。先へ、未来へと進むような、鼓舞されるような内容だった。思い出して目の奥が痛むのに気づかないフリをして、上着をき込むと鞄を背負い、階下へ降りていく。
「二郎、本当に遅れるよ」
 声を掛けて台所に顔を出すと同時に、「まずい、マズイ……いや、兄ちゃんの飯のことじゃなしに」とブツブツ言う二郎とすれ違った。苦笑する一郎からまだ温かい弁当を受け取り礼を言う。一郎の顔を改めてじっと見上げると、何やら『恥ずかしい』やら『照れ』やらをあらわしている表情をしていることに気づいた。
「一兄、もしかして低脳に何か辱められでもしました?」
「は、ずかしめって……。そんなんじゃ、ねぇよ」
 誤魔化すようにわしわし~っと頭を撫ぜられてしまった(正直嬉しい)。でも、今はこの大きくて安心する手が、いつもと違った風に二郎を触ったんじゃないかって、そんなことばかり考えてる。三郎は自分がそれを嫌だと思っているのか自問して、いやそれとも少し違うなと首を捻った。
 一郎がそういう心を持って二郎に触るのは嫌じゃない。でも、自分も同じことができないのは嫌だなって思う。『仲間はずれは嫌だ』。その感覚に近い。じゃあどうすればいいの? どうしたら自分たち三人、正解なのだろうか。
……行ってきます」
「おーぅ、行ってらっしゃい!」
 仕上げのようにポンポンと額あたりを叩かれて、それで離れていく分厚い手のひらに「寂しい」って思えた。そのまま玄関を抜けてゆっくりと歩いて行く。ほどよく進んだころに、大股に走る音がどんどんと迫って来て、こちらの首に気安く腕をかけてきた。
「あっつ!」
「へへ~ん、追いついた」
「汗がつくだろ、ヤメロ……低能」
「あー……だんだん陽気がよくなって来たから、俺の代謝も上がってんのかも」
 振り向いて見た二郎の顔が真っ赤で、少し心配になって腕を伸ばす。触れたおでこは燃えるような熱さだった。「おい、お前二郎」と顔を見上げるも、「あ?」と大変柄悪く返されたので放っておくこととした。きっと、走ってきたせいだろう、そう結論づけて兄から目を逸らす。
……で、何だって?」
「あぁ?」
「はぁ~低脳、もうさっき言ったことまで忘れたのかよ。脳みそ何でできてんの?」
「うっるせぇよ……口を開けば可愛くないことばっか言い……っ」
 そう反論しかけたところで、二郎が厭な咳き込み方をしたので思わず背に手を回して上下に擦ってやる。「お、い。大丈夫かよ」と紡いだ言葉がわずかに震えてしまった。そうこうしている間にも足は動いていたようで、いつの間にか駅についていた。
 二郎は何だか調子が悪いようで、改札でも定期を取りこぼして捕まったりしている。三郎は揶揄う気も失せてしまって、電車に乗ると、兄が凭れやすいような位置へ誘導して、自分で蓋をした。人混みの中、声を潜めて尋ねる。
「だからぁ、昨夜一兄と何があったかって、聞いてんの」
 すると、二郎はきゅっと口をつむんで、「ぉなにー見られた……」と、蚊の鳴くような声で白状した。「お・ま、鍵は?」「掛けてた……」「だったら何で?」という不毛なやりとりのあと、「兄ちゃんが鍵開けて入って来た」と三郎の疑問に答えてくれる。でも、全部じゃない。それでスッキリするわけじゃあない。
「兄ちゃん、何か俺とお前が鍵掛けて二人で寝てるの、寂しかったみたいだぜ」
「ぅう〜ん、そうか一兄……
 なわけあるかい。
「だから、兄ちゃん昨日俺と一緒に寝て行った」
「自慰した弟とぉ? 正気の沙汰じゃない」
「別に……換気したし、お前だってベッドでその、スルだろう?」
 『お前でな!』と三郎が心の中で叫び、『二郎は、そんな僕とでも一緒に寝てくれるだろうか』と不安に思ったところで、電車が急ブレーキを掛ける。次男の胸に頭がぶち当たるが、見上げた二郎が相変わらず上気せたような顔をしていた。「ダイジョブ?」とついっと右手を伸ばしてもみあげを伝う汗を拭う。
「お前が変な話するから……『赤ちゃんがどこから来んの?』って聞かれたママみてぇな気分になってんのかも」
「お前がママになるのか?」
「はぁ?」
「イヤ、何でもない」
 また電車が急発進する。その衝撃で二郎がこちらに前のめりになった。汗がポタッと三郎の手のひらに落ちる。近い、ちかい。火だるまみたいな兄を引き寄せようとした瞬間に、二郎がなぜか両腕を突っぱねて三郎を押し退ける。それにわずかに傷つくと、まるでその心の機微に気づいたように、
「離れろさぶろ……
と言って、しゃがみ込んだ。
「おぃ、じろ」
「吐きそう」
「! ……ちょっと我慢しろよ」
 離れろと言われたが、それどころじゃない。二郎の腕を無理矢理担ぐと、ちょうど到着した出入り口から電車を飛び降りる。やっぱり体調を崩していた。本当は気づいていたのに、昨夜のことが気になり過ぎて気づかないフリをしていたのかも知れない。
「ゴメン、二郎」
 ベンチに座らせて、二郎の額に浮かぶ汗をハンドタオルで拭ってやる。すると次男はフッと笑って「何焦ってんだよ、サブロー」と言って、こちらの耳をきゅっと掴んで来る。身体はあんなに熱かったのに、触れた指先が三郎の耳より冷たい。
 ……どうやって帰ろう。こんな時に頭が巡らない。もう一度朝のラッシュにこんな状態の二郎を乗せる気にはなれない。一郎は今頃仕事に出ている時間帯だ。言えば飛んで来てくれるだろうが、二郎の不調は三郎の過失な気がしてそれも憚れた。
 すると、二人にぬぅっと影がかかる。三郎は思わず二郎を抱きしめるようにして見上げるが、その先にいたのは見覚えのある顔だった。二郎はその時にはもう意識をなくしていて、これから二人を助ける人物を知るのはもっと先になってからだ。

<続く>