sugu_yoru
2021-03-08 23:47:32
1698文字
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【タイカケ】烏が鳴いている

ずっと放置していた新作です。タイカケ深夜のおえかき一本勝負 第27回【過去お題:昼下がり】です。
※晩夏設定
※R15
※トラチ不在
※某古典的小説のオマージュ部分有

 烏が鳴いているな。頭の片隅でそんなことを思った。
「どこで鳴いてんだろ?」
「おめぇ、それでっけぇな。独り言か?」
「わ、吃驚した」
 西日が差す寮の自室。一人きりと思っていたらベッドにもたれかかる高校一年生の存在を忘れていた。自分の部屋にいればいいのに、なんでか猫みたいにするりと閉じかける扉の隙間から侵入して、それできっと静かに居座り続けたのだろう。
 カケルは集中すると、周りへの頓着がなくなることがある。「悪かったねん、なんか飲む?」そう言って立ち上がりかけると、スラリと腕を掴まれ相手が立ち上がった。「涼しくなっただろうから、コンビニ行こうぜ」と提案してくる。
 じっとりと握られた部分が汗ばむ。何か、ろくでもない言葉が口から出そうになったので「そうだね、行こうか」と返して机の上のスマショを手に取った。昼過ぎのことで、寮内には二人しか残っていないようだ。
 何となく腕を握られたまま、寮の裏側から道路へ出る。二人は並びながらも少し離れて話もせず、カケルが黙って日傘をさすと、タイガは「いらねぇだろ、ソンナン」と可愛くないことを言った。カケルは日傘で顔を隠したかったので、相手のそれは無視してそのまま歩いて行く。
 そう言えばこの道すがらは、ある夜、駅から初めてタイガと手を握りあって帰った同じ道だと気づく。夜と昼とで景色が違うのと、進む方角の相違から、まるで別世界のように感じられた。カケルはどうして昨夜、この一つ下のタイガのような子どもに、身体を好きにさせたのかを考えてしまう。
 高校一年と二年。突然の衝動でも、出来うる限りの接触を終えてしまったと感じた。まだまだ超える要素はあれど、突発的な欲で進めるところまですすんでしまった。カケルは、欲を抑えられなかったてめぇの腑甲斐なさに、厭な心持ちを思い出してしまう。
 やっと秋らしい風が吹いて、タイガがふっと目を細めた。白い耳の傍を流れる汗に、また昨夜のことを思い出してカケルは瞳を伏せた。道の脇に植えられた、丈の高くなったコスモスが揺れている。目当てのコンビニはもうすぐそこだった。

「奢ってあげるよ」
……ん」
 そう言って、アイスを選ぶカケルの傍からタイガは猫みたいにいなくなってしまった。カケルはアイスを選ぶと(ヨーグルトのにした)、雑誌のコーナーへ移動する。気になっていた数冊をカゴに入れて、アイスケースに戻って件のアイスを一つ取り出す。するとタイガが急に傍に立っていた。
 カゴの中にもう一つ、アイス(プリン・ア・ラ・モードをイメージしたアイスバーだ)を放り入れると「先出てる」と短く告げて、香賀美タイガはまたすぐにカケルの傍から消えた。会計を済ませてコンビニを出ると、タイガはなぜか小さいビニール袋を持っていた。
「あれ、お金持って来てたんだ。それも買ってあげたのに」
……
 ブンブンと振るそれに目を凝らすと、小さい箱であることが分かる。それが避妊具だと分かると、カケルは思わず日傘を取り落としそうになった。目線に気づいたのだろうか、タイガが「何だよ」と口を尖らせる。
「タイガきゅん、よくそれ買えたね……
「お前、だってコレなかったから昨日」
「はぁ〜、ゴムならボクちゃんの部屋にあったんだよね〜」
「マジか、だったらな……
「先に進むには用意がいるの」
「他にも何かいんの?」
 ゴムとかローションの前に、身体的に準備がいることを、どうやって高校一年生に伝えようか考え倦ねる。そんなことよりその前に……

「タイガ、俺と先に進む気があんの?」
『俺、何かと』。

 しかしそれにタイガが「お前以外と、誰と進むんだよ?」って聞いて来たので、昨夜、汗ばんだカケルの肌を、子どもっぽくペタペタと触った年下を思い出して赤面してしまう。すると、それを見てタイガは何と笑ったのだった。
 二人の頭上高いところで、鳥がまた高い声で鳴いている。蝉ではない、それが秋の訪れをようやくカケルに知らせたようで、カケルは自分からタイガの手を取った。それに、一つ下の後輩は何も言わずにただ腕を振った。

<おしまい>